「さいごの…ちから…」
一本の若木がそう喋った時,歩哨達は耳を疑った.
「おい,いまこやつが口を利かなかったか?」
「いや,まさか.だいたい,まだ生きいてるのか?」
2人の兵士は,幹に取り込まれ,犯されつづける少年を不審そうに見詰めた.彼等は樹木に封じられたリフォルや長老達を監視するという,あまり有り難くない役目を仰せつかったタンタクス男爵の近衛騎士で,薄気味悪がる従士や郎党を引き連れて,仕方なくエルフの館の周りに陣を張っていたのだ.
「解らん.エルフの魔法は奇態だ…早く薄気味悪い森全てが焼けてくれればいいのだが」
「うむ,しかし端から端まで1万6000ヤークでは,中々な」
「しかも殆ど樹ばかりで,"翡翠の都"とは名ばかりの,田舎村ではな」
「細工物を掠めた者は運が良いわ.できは良いらしいが.何せ量が少なくてな…お屋形様は何を考えて御出でか」
「漏れ聞いた話に拠れば,ここを襲ったのはな,他のオアシスエルフの街を襲うに必要な,地理に係る情報を集めるためだそうだ.それ,そこで樹にされておる女共が知っていたそうな」
「ほう,聞き出せたのかな?あれではもう口も利けまいが…もったいないな,どれも元は良い女ではないか…」
「はは,エルフだぞ?お前の曽祖母より年上かもしれん」
「だから身体は若い…うーむ,実に勿体無い…所で,あれで気(プラーナ)を吸い上げるとか?」
「出来ようかなぁ.まぁ,お屋形様は不老長生に憑かれておるしなぁ…今度の遠征で陣頭指揮を引き受けたのも,この都にエルフの長寿の手掛かりがある,と聴いて興味が出ただけではないか?」
「だとすれば我等は骨折り損のくたびれもうけ…やれやれ,せめてこの畸形の樹でも肴に,ほれ,いっぱい…」
勝手な憶測を飛ばしながら,皮袋から葡萄酒を呷る騎士達.略奪を期待したのに,獲物が少ないのが何とも癪に障ってのことらしい.
「しかしおぬし,随分ごつごつした手をしているな.沙漠でおかしな病にでもかかったか?」
「馬鹿をいえ.俺の手はちゃんとここにある.お前が触っておるのは,それは…」
ふと言葉が切れる.
騎士の手に,木の根が巻きついていた.
「げぇっ,これはエルフの魔法…」
「これ,おい,吹け!角笛を吹…ぐぉ」