13.
斧兵の1人が,黄色い歯を食い縛りながら,じりじりと間合いを詰める.
生まれて初めて剥き出しの殺気を受け,ジゼルの白蝋のような膚にぽつぽつと粟が生じた.
「いいよ,本気なんだね」
乾いた舌を舐めて,切先を斜に構える.左手を上げて,すっと空に泳がせると,膨らんでいた恐怖は消えていく.何度となく修練した剣技の型が,冷静さを取り戻させてくれた.
雄叫びとともに男が手にした斧を横薙ぎに払う.退けば,後ろに回った敵の餌食になると解っていたので,跳躍して躱すと,宙で身を丸め,回転しながら鎖骨の近くに浅く斬り付けた.刃は過たず肩当の隙間に食い込むと,太い血管を切り裂いて,真赤な飛沫を噴かせる.そのまま軽業師か猫のように相手の背後へ降り立ち,呆気に取られた残りの敵に向って軽く舌を出した.
「わああ!!血が!!血が」
「手当てする時間は上げる.でも,とっとと失せるんだね.君達が何人居るか知らないけど,その腕じゃ痛い目を見るだけだよ」
「魔女め!」
憤怒の喚きに次いで,今度は年嵩の,恐らくは隊長格であろう騎士が,幅広の大剣を振り回して襲い掛かって来た.まるで豚のダンスだ.頭を軽く下げただけで,切れ味の悪そうな錬鉄の塊をやり過すと,きめの粗い鎖帷子に覆われた膝を一突きして,脇をすり抜ける.
「あはっ,のろまぁ…お前達なんかに,森を焼かれるなんて長老達も案外間が抜けてるな」
蹲る甲冑姿を尻目に,軽やかな笑いを放って走り去る少女.すばしっこさでは叶わぬと見た従士は,急いで角笛を咥え,高々と吹き鳴らした.仲間を呼ぶ気だ.5人程度なら軽くあしらう自信はあったが,流石に援軍の面倒までは見られない.後は大人に任せよう.
「じゃぁね!」
さっと近くにあった大樺の幹へ駆け登る.だが枝に手を掛けて樹上へ逃れようとした刹那,火をのついた矢が幾つも葉群を掠め,すぐ側にあった檜の張り出しに並び刺さった.慌てて振り返ると,すでに弩を携えた一部隊が到着している.
「逃げられんぞ小娘!」
大陸共通語も,猛り狂った人間の口から聞くと野獣の咆哮のようだった.急いで緑陰に潜り込もうとする彼女に向って,さらに火矢が雨霰と撃ち込まれる.
「いい気にならないでよ!銀時雨(ニードル・レイン)」
樺の梢から,魔法の矢が応戦する.普通の娘なら怯え切ってしまう所だろうに,実に果敢な反撃だった.弦音が止んで,また禽鳥のような悲鳴が響く.
「焼け,焼き払え!」