12.

 エルフの娘は,低く呟くと,そちらに向かって指を突きつける.枝に燃え移った炎は一気に勢いを増し,激しく逆巻いた.相手のやった事をそのまま相手に返してやろうというつもりだった.火柱が脅すように伸び上がり,兵士達を押し包むと,忽ち恐怖の悲鳴が上がった.

 にやりとするジゼル.だが次の瞬間炎は向きを変え,大きな緋色の手袋を形作り,真直ぐ彼女を指差し返した.慌てて身構えると,火柱からふいごのように掠れた声が漏れる.

"あそこだ,あそこに居るぞ,敵が居るぞ!"

 鉄兜の群が一斉に此方を窺う.慌てた少女はいそいそと木々の奥へ引っ込んた.

「ボクの魔法が,失敗するなんて…」 

 臍を噛みながら,取敢えず退却する.冒険の出だしからヘマをしたのでは何とも幸先が悪い.と,意識が脇へ反れていた性か,後に下げた踵が張り出しを踏み損ねた.妖精も木から落ちるというか,身の軽いジゼルにしては柄にもなく地面に落ちて,尻餅をついてしまった.

「うっ,最悪…」

 腰をさすりながら起きると,四方の茂みが葉擦れを立てる.危険を察したジゼルは目にも留まらぬ速さでレイピアを抜き放った.すぐに前方の茂みから,鉄具足の男が姿を顕し,彼女を一瞥するや忽ち野卑な笑いを浮かべる.

「ひょぉ,居るじゃねぇか.別嬪さんがよ,男爵様の仰った事もまんざら嘘って訳じゃねぇな…殿様方,エルフ娘ですぜ!」

 続いて鉄兜が1つ,2つ,3つ,4つと頭を出す.内2つは房飾りと面頬をつけている.騎士と従士,其に領土から連れて来た郎党という所か.暑さに汗みずくの顔立ちはどれも田舎臭く,鎧を脱いだら身分の区別はつきそうもない.

 剣呑な状況ではあったが,少女は些かも臆せず,ただがっかりしたように溜息をついた.物語に出てくる騎士とはまるで違う.当然といえば当然だが,何となく裏切られた気分だった.碌な連中ではなさそうだが,しかし一応目的は問い質しておかねばならない.

「貴方達は何?なんでボク達の森に火を点けてるのさ」

 答えの代りに,げらげらと神経質な笑いが返った.響きに篭った何かがジゼルを警戒させる.声の甲高さに反して,彼等の目は,少しもおかしそうではない.

 突然,房飾りをつけた鎧武者のうち,年長の方が剣を鞘走らせ,年若い方もすぐ倣った.残りは手斧を構えたままぐるりと獲物を取り囲むように広がる.

「殺すな…いいな…」

「ちょっと本気なの?オアシスエルフに手を出したら,沙漠中の水に口をつけられなくなるよ…」

「黙れ小娘が.貴様等蛮族共の土地に長く留まる用があるものか.お前達を狩り尽したら故国に,帰るまでよ」

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