2.
「ジゼル様ったらお戯れを.それより,そろそろ座学に戻りましょう.今日は植林学の基礎を…」
「やーだよ.何で僕が君みたいなのろまに教わらなきゃいけないのさ」
「またそんな,お教えするのは,"翡翠の都"に伝わるオアシスの知識だけですから.他の事々に関しては勿論,ジゼル様の方が百倍も秀でてらっしゃいますとも.ただ,オアシスエルフ族の姫君として,樹木を育て,水源を護ることには精通しておかねば…」
「もーくどくど煩いなぁ.レフィは子供の癖に,うちの爺やみたいな喋り方して,お仕置き,風の刃(ブレード・ウィンドウ)っ」
苛立たしげなガールソプラノが軽く呟くと,少年の腰掛けていた枝にかまいたちが斬り付け,ざっくりと付根から断ち落してしまう.慌てて飛び降りようとする彼を目掛け,更に次々との呪文が放たれる.
「逃がさないよっ,ほら浮揚(フライ・クラウド),もっかい風の刃(ブレード・ウィンドウ)」
遊びのような口調だが,効果は確かなだった.地面から3ヤーク(1.5m)ほどの高さで風船のように浮んだ男の子を,旋風が襲い,林檎の皮を剥くように衣服を切り刻んでしまう.怖れを為した彼は,一端瞼をぎゅっと閉じたものの,肌寒さに当惑して,また目を開ける.直に何をされたかに気付いて,頬は赤蕪色に染まった.
「じ,ジゼル様!またひどい悪戯を!どうしていつも人の服を台無しにするんですぅ!それにこの森の木々は暗黒の賢者様の御世から丹精されてきた,いわばオアシスエルフの家族にも等しき存在なのですよ.それを傷つけるなんて一体…」
「マジメなレフィ先生は,自分の格好より木が大事なんだねぇ,ふーん」
揶揄されて,長広舌が止まる.年下の少年がぷいと顔を背けると,少女は肩を竦め,じろじろと相手の素裸を見回してから,にぃっと意地悪い表情を浮かべた.
「偉そうにしててもさ,レフィってさ,まだまだ子供だね」
「ど,どどど,どこを見てるんです!ジゼル様はそう不真面目なのですか!…な,何してるんですか!下から覗き込まないで,やっ…」
身を屈め,首を捻ってたっぷりレフィの痴態を観察した後で,ジゼルはけらけら笑いながら側を離れた.まさか置いていかれるのかと焦った少年は,手足をばたつかせながら必死で叫ぶ.
「ジ,ジゼル様ぁっ,降ろして,降ろして下さい」
「浮揚なんて後ちょっとすれば解けるよ.その間,素裸で館に戻る言訳でも考えとけば?」
「駄目です!何言ってるんですかこんなの,やだぁ…うわーんっ…」