隊商の行き着く,沙漠の最果てのいや果て.流砂の海と,竜巻の巣の彼方.柘榴石が紅塵となって舞い,砂の薔薇咲き誇る丘を超えた処.
凍てつく不毛の夜と,仙人掌すら生じぬ乾ききった空気と,照り付ける灼熱の太陽に耐えて,此世の涯に達した者は,蜃気楼の揺らぐ天際に,緑滴る森を見出すという.
其は,茜の髪を靡かすエルフの住い.死すべき定めにあらざりし妖精の郷.常若にして,永劫を生きる民が,迷水を掘り穿ち,運河を張り巡らせ,無から作り上げた街.オアシスの森.
黄砂の海に落ちた一粒の碧玉.酷薄な自然に護られた命の砦.彼等は其処を"翡翠の都"と呼んだ.何人と雖も掌中に収めること叶わぬ,幻の宝珠という意味を込めて.
沙漠の果てにも季節はあった.焼付くような暑さが和らぎ,雨期が近付く頃,鬱蒼と繁る木々は色褪せた衣の裾を振り落していた.大地に掛けられた,玄妙なる魔力の働きによって,決して瑞々しさを失わぬ照葉樹林は,天の光と地の水を糧に,新たな緑を生茂らせ,鳥や獣やエルフに涼しい陰を与えていた.枝を揺らす爽やかな微風は,木々の呼吸によって僅かに湿気を含み,くすんだ渋茶の枯葉を,ひらひらと胡蝶のように舞わせている.
だが永遠の午睡に沈むような木々の間には,時折素早い銀光が閃き,針のような切先が無数の葉を残らず,地に触れる前に貫いていた.類稀なる細剣(レイピア)の妙技だ.息も乱さずやってのけるには,余程強い手首と,たゆまぬ技の研鑚,何よりも良い目が必要となる.
真紅の長髪が森の香を孕んで広がり,柳の枝を縒ったようなしなやかな肢体が,明るい陽射しに溌剌と踊っている.片時も踵を降ろさぬ歩法は,軽やかな仔鹿の跳躍を思わせた.鬢から突き出した尖った耳は,エルフ族の証である.
枯葉の乱舞が収まると,彼女は手を止め,刃先を弾いて,刺さったものを振り落とした.二つにされて足元に散る欠片を,長靴の爪先が乱暴に踏み躙る.たったいま熟練の腕前を披露したにしては,やけに子供っぽい仕草である.
「はー,退屈…ねぇレフィ,ぼけっと座ってないで,芸でもしたら?」
ぼやいた少女が肩越しに振向いた先には,彼女と同じく赤い頭をしたエルフの子供が,太い張り出しの上に腰掛け,頬杖をついている.いつから其処に居たのか,言われた通り多少ぼんやりした様子で,すっかり剣舞に見惚れていたものらしい.話し掛けられたと気付くと,ばつの悪そうに目を瞬かせ,耳元を髪と同じ色に染めて答える.