そうだ100発殴られても良い.100発蹴られても良い.笑われて,こづきまわされて,それで普通の暮らしに戻れるなら別に良い.シチューや弁当屋のおそうざいが味わえるなら.黒丸に謝りたかった.そうだ.口移しで餌を渡すのは最高のアイジョウヒョウゲンだ.今なら解る.
脱水症状になりかけて,うわごとをままやく捕虜のもとへ,ようやく黒丸が現れたのは,午後2時を回ってからだった.塩をかけられたなめくじ宜しく,ぐったりのびた白い裸身の鼻先へ,いきなり色取り取りの果物が山と積まれる.亮平の過敏になった嗅覚は芳しい馨に刺激され,譫妄の汚泥に沈んでいた理性の片鱗を,ゆっくりと覚醒させた.
身体が,最後のチャンスのために蓄えていたスタミナを燃焼させ始める.
「っ…くろまる…た,たべ,たべても…」
汗が乾いて塩のこびり付いた頭を擡げ,舌をもつれさせながら,恐る恐る許しを願う.大猿は目を細めたがすぐには応える素振りをせず,代って黒い茂みになった股間から,直径が亮平の手首ほどある巨根を掴み出して,果実の山に向けて扱き出した.
救い主が何をしているのか良く認識できないまま,少年が見守っていると,こってりと量のある精液が,瑞々しいグァバやパッションフルーツの外皮にかかる.
「ぁっ…」
試されているのだ.こいつを雄として認めるかどうかを.亮平にはもう,ほんの1秒だろうと,踏み止まって考える余裕はなかった.迷わず近くのグァバにむしゃぶりつくと,腥い汁を舐めとり,歯茎に絡むねっとりした蛋白質を舌でこそいで嚥下する.
美味しい.栄養.食べ物.夢中になる.手当たり次第に果実を掴んで,ご馳走を舐める.マンゴーへ口をつけようとすると,取上げられ,2つに割ったパッションフルーツを差し出された.
癖のある甘い汁が喉を通ると,飢えたコブタは恍惚として喘ぎ,種も構わず果肉に鼻面を埋めた.食べ終わると今度は,剥かれたバナナが差し出される.すぐに先端から咥えこみ,柔らかな風味に蕩けそうになりながら,根元で長い身を齧り取る.
「あぅっ…ねぇっ…それも…もっと…」
滋養に富んだソースが,最初に飢えを癒してくれたマナが欲しい.コブタは脳に刷り込まれた味を求め,ひときわ獣臭の濃厚な股間へ這い進むと,震える指で肉棒を握り,凶悪にエラの張った亀頭へ唇を被せ,先走りを吸い上げる.くさい,くさくておいしい.黒丸の味.命の味.
生きてゆける.温室(ここ)ではこうすれば生きてゆける.なぜ解らなかったんだろう.外よりずっと単純じゃないか.