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 いきなり頭に何かが当たる.びっくりして右腕で頭を抑えた途端,左腕が痺れて,まっさかさまに屋敷の敷地へ落ち込んでしまった.

 どしんと尻餅をついて,腰をさする.当惑した少年は頭上へ怪訝な眼差しを投げたが,誰もいないようだった.幻聴?じゃあ頭に当たったのは?

 いや,それより鞄だ.周囲を窺うと,近くの草むらの上に筆箱が蓋をあけていた.急いで近付き,拾う.空っぽだ.中身は,鞄を投げられた時に飛び散ったらしい.

 木と木の間で,何かがきらりと光る.はっとして走り寄ると,彼のシャーボだった.結構気に入ってる奴.中学生になってからは,いじめっ子から金銭の要求が増す一方,文房具などは滅多に取られずに済むようになったから,今まで無事手元に残っていたのだ.失っていたらショックだったろう.戦友に再会した気持で,ふっと溜息が出る.

 筆箱に仕舞う.残りの文房具も近くにあるといいが.

 視線をさ迷わせると,奥の木陰に,白い消しゴムが落ちている.

 拾うとまた先に,赤ボールペンが転がっているのが見えた.

 駆け寄ると,今度は向うの大きな丸石の側に,買ったばかりのルーズリーフが1束,ビニールから飛び出した紙片の端を,手招きするように風にはためかせている.

 暗くなる前にと懸命に探しながら進む内に,亮平は次第に庭の深くまで入り込んでいった.

 肝心の鞄だけは見付からない.胸にノートや筆箱を抱えて,少し覚束なげに歩き続けていると,とうとうあの硝子張りのドームの前まで着いてしまった.

 木々と建物の少し間を開けるように,短く刈られた芝生が青い絨毯を広げており,緋に染まる景色の中で,とてつもなく大きな透明球は,不時着した宇宙船か何かのようでもあった.

 「うっそ…」

 彼の鞄は,信じられないことに,その分厚い外板を突き破り,不思議な植物の生茂る中に,鋭く尖った破片とともに転がっていたのだった.

 いくら巧く投げたとしても,届くはずが無い.

 でも,鞄は間違いなくあそこにあった.

 2,3歩後退って,瞼を擦る.すると迂闊にも指で傷に触れてしまい,痛みに飛び上がりそうになった.腰を曲げて歯を食い縛る.そうしている間にも日は翳り,大気は湿気を残したまま,僅かに涼しくなってきているようだった.

 気付くと,硝子の割れた場所のすぐ横には,把手つきの扉があった.同じように透明で,把手まで硝子で出来ているために最初はわからなかったのだ.

 亮平はごくりと唾を飲み込み,ぷっくりした頬の汗を,そっと拭った.他人の家の庭に忍び込むだけでも,かなり,いじめられっ子らしくない無茶をしているのだ.まして勝手に建物の中に入るなどは,怖くもあったし,やましくもあった.

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