「暗くないっすよ別に.めちゃくちゃいいダチなんで」
屈託のない答えに,年上の青年は肩を竦めると,積上げられたまま錆び朽ち行くバイク部品の群を眺めやった.
「…あっそー」
「先輩,前に言ってた彼女とかからメール来ないんスか?」
オイル汚れの染み付いた指がフィルターを放し,咥えていたものを地面に落とすと,爪先で踏み消す.
「あれ止めたわ…つかさー,竜崎,来週の土曜電動二輪の試験終ったらさー.合コンしね?」
へっと間抜けな返事をすると,先輩は眉間に皺を寄せて呟いた.
「人数あわねーんだわ.つかお前顔はイケてんだろ?その元ヤンっぽい赤頭なんとかすりゃいけてっからさー?な?」
元ヤンっぽいって,そういうあんたはどうなんだ,という疑問は脇に置いて,天馬は軽く真紅の鬣を指で梳ってみた.やっぱ染めてるように見えるのだろうか.
「あーこれ地毛なんすよ」
今度は相手の方が,はっ?という表情になる.23世紀から来た若者は,余計なことを喋ったと悟り,慌てて話題を逸した.
「いや,合コンってどういう流れで?」
「北町通りのガソリンスタンドあんじゃん?あそこの近くにボギーズあるじゃん?ファミレスの.そこの店員.出んだな?」
「えーと.すんませんその日用事が」
わっかんねーという態度で,脱色した頭がまた掻かれる.
「用事って?」
天馬はちょっと詰ってうつむくと,まだ携帯を開いたままにしていたのに気付いて,素早く胸にしまい,空咳をしてから小声で応えた.
「ボランティア」
「なに?」
「…養護施設の…あー,ほら,親いない子供の」
流石に引かれたかなと,ちらっと視線を上げると,向こうは不精髯のまばらに生えた顔の真中で唇をOの字にして,彼を見詰めている.
「龍崎ってさー」
「っす」
「絶対女にモテねーだろ」
「そっすかね」
やっぱいい人だ.
未来忍者ギガガンガーは頬を緩め,休憩を終わりまーすと告げて立上がると,仕事場へ向かいながら,辺りに漂う機械油と塗料の匂いを,思いっきり吸い込んだ.
やがて空が茜に染まり,多くの者が1日の働きを終えて家路を辿る頃.
人里離れた山間を流れる小川の,しおから蜻蛉が舞う土手を,カーキ色の10tトラックが数台走り抜けていった.