サラリーマン帽子男就活戦記

「俺は男を建てるぜっ」

 そう言ってドアを蹴り開け、志望する会社へと走り出したのは、誰あろう平成の旋風児帽子男である…っていうか本宮ひろ志は芸風じゃないので止めますですはい。

 午前七時五十分。

 一路向かうは上野の就職試験会場どぅうぇーす。朝から寒気が収まらないので、出かける前熱いお湯に浸かって冷えるよりも先にちゃちゃっとスーツ(青木の在庫処分品:三万円)を着て、真冬用コート(青木の吊るし:二千円)のボタンをしっかり留めて、曇り空の下へれっつらゴー。汗がだらだら流れるけどキニシナイ!面接じゃないしね。

 ついたのは八時五十分位か。開始は九時十分なんで、いい機会とばかり余所の大学構内をふらふら。何でこんなから早くからやんべーよと思ったら、午後からなんちゃらゆう国家資格の試験だそうで。都心の割に広くて建物も新しく、交通の便がいいからか、土日ともなると利用団体が多いらしい。流石にまだ在籍生の姿はなし。

 んで十二時筆記終了。もはやここに用は無いので、本命イベントに直行する。ええショタコレですが何か?

 とはいえ上野から浅草までって近い割には、鉄道の接続がよくない…かなり時間をロスしそうだなぁ…そう考えていたよ。俺も昨日まではな。だが、俺たちは見落としていたんだ、浅草-上野間を十分弱で高速移動する手段があることを!

 そう、大江戸線だよ。

?!!

 いや、オノマトペに深い意味はないです。某週刊少年誌が使うのと同じようなニュアンスで…。大江戸線、最近は騒がれなくなりましたが、開通したばかりの頃はテレビや新聞なんかを賑わせてましたよね。乗ったの今回が初めて…だったんですが。確かに駅の壁にオブジェとか埋め込まれてて、なんかすごーくモッダーンな雰囲気でしたわー。

 改札入ってすぐの所に、濃紺のガラス球が幾つも並んで、周りは白い化粧貼りだったり。でもこういう華やかな装飾ってきちんと毎日掃除しないと、あっというまに汚れが目立ってうらぶれた感じになっちゃうんだよね。都営なのでちょっと心配。ていうか、浅草線に乗り継ぐ時に、切符の清算、再購入が必要ってどうよ!

 とか貧乏根性は脇に置いて、あっさり辿り着きましたよ東京下町、雷門の街。JRの吊革広告じゃパリよりオシャレなこの界隈から、いよいよ俺のリベンジが始まる。

 今回は仲見世無視で、都立産業なんちゃらセンター七階へ一直線。いかにも場慣れした、玄人っぽいオーラを発散しつつ、受付に。まずはカタログだ。予めポケットに忍ばせておいた代金相当額の硬貨を指で摘み、クールな眼差しで差し出した。

 「カタログを一部」

 完璧だ。

 テーブルを挟んで応対していたのはショタケットの際と同じような、気の優しそうな青年。俺の余りによどみ無い動作に息を止め、顔には戸惑いの色さえ浮かべながら、こう呟いた。

 「ただいまフリー入場となっておりますが?」

 …??なんだ?こっちが只者じゃないのを悟って、恐れをなし、追い返すつもりか?そのフ、フリーにゅうじょうとかいうのはなんだ。舐めてんのか。意味不明な台詞は引っ込めろ、貴様はただ眼を伏せ、おずおずとした手付きでカタログを渡せばいいんだ。

 「ああ、フリー入場ね。とにかくカタログを一部」

 「(……?)フリー入場だとカタログは不要なんですが」

?!!

 へ、へ、ばーか、知ってるよ。あれだろ?フリー入場だろ?あの、入場がフリーなんだろ?バリアフリーとかリンクフリーとか、スーパーフリーとかそういうやつだろ。任せとけ、楽勝だよ。言われなくたって解ってるよ、ちょっと待ってろ。小銭財布に仕舞わなきゃ。えーと。ああ、バッグの中か、畜生ここで口開けてアレコレすんのめんどぃなぁ…ああ、それにカタログ無きゃスペースの位置解んないじゃん…

 「すいません…やっぱり一部ください」

 「はぁ」

 ふー、とりあえず第一の難関突破だな。あ、いやま、余裕だったけどな?


 配置図の見方が解らずうろうろすること十分。智慧を絞り、A〜Cにブロック分けされた机の前を何度か往き来しつつも、ちっとも目指すスペースに突き当たらない。遭難しかねないので、いったん目印になっている階段のところへ戻る。キャンプリーダー時代にやったオリエンテーリングの経験が活きてるぜ。流石俺。アーバンな暮らしをしながらも、ワイルドな一面を忘れない。ダンディズム。

 かかしの如く突っ立ったまま、左手にカタログを開いて、ぐるぐる三百六十度旋回、方角を確認してみる。森の智慧だ。C.W.ニコルもやってた。他の入場者が若干距離を空けて通りすぎていく。ふっ。参ったぜ。あんたら社会に飼い慣らされた羊とは違う、野性の狼の臭いを嗅いじまったかい。

 しばらくぐるぐるした後、ようやく図の縦横を違えていたのが解り、持ち変えると、勇躍、机と椅子の迷路へ舞い戻る。

 まずは『平らな宇宙』で今まで買えなかったふぁいと本のフツーのとエロいのとエロいのと特にエロいのをざっくざっく、ざっくざっくはぁはぁ…ぐひひひと思ったら、あまのさん居られず。あれーあれーあれー。まだ来てないのか。

 しょうがない、次々。

 『ZANIAH』へ。今度はちゃんと発見できた。る〜さん本人が売り子をしてる。相変らずおしゃれな雰囲気と、訪れる人への爽やかな対応ぶりに、ちょっとまたヒッキーの血が騒いで、側で声をかけられずにじっと見守ってしまう。

 る〜さん…

 る〜さん…俺…ここに居るよ…気付いて…

 もちろん気付かれないので、挨拶をする。

 「あああの、おひさっし…り…です

 「(談笑中)」

 「おひさし…ぶ…」

 「(気付く)、あどうも…っ

?!!

 (何で背広…)」

 不審そうな視線を浴びつつ、がさがさとテーブルにビニール袋を広げ(傍迷惑)、買い置いたお菓子を一袋取り出す。粗忽さが祟ってか、既に袋がボロくなっており、クシャっとかいやな音がしたがキニシナイふり。だ、大丈夫だよ。硬そうなクッキーだったし。ちょっとくらい潰れて…いや、いや。

 「これ、差し入れです」

 「ありがとうございます(他の袋を一瞥し)凄い量ですね(汗)」

 「いや、挨拶回りというか」

 「はぁ………?(汗笑)」

 「それでし、ししし新刊を」

 「はい。これなんですけど(←冷静な対応)」

 さっそく購入。クラフトソード物語2だ。(内容は…レキが握ってるじょ…ふふ、健全本にも…エロ要素が!エロ要素が!…勿論帰ってから読みましたが)

 そのうち、わたさんも立ち寄られてました。いつものナウなヤングっぽい姿で、反則的なイケメン。そのお肌の艶はどうやって保ってるのかしら。本人かて異彩を放っているくせに、こちらを見て、皮肉そうな笑みを浮かべていました。

 「(あれ、この人背広着てるよ…)」

 そういう眼差しでした。オフで皆が楽しんでる所に、一人だけ野暮ったいもの着てくると、折角仕事から解放されてという気分がぶち壊しかなぁそうだろうなぁそうだろうな…。

 「ダンディですね(´ー`)」

 すっかりアレな様子で突っ立ている帽子を見かねてか、る〜さんが声をかけてくださり。

 「す、すいません(←自意識過剰による無意味な謝罪)就職試験だったもんで」

 「(誰も聞いてないのに)いや、ネクタイなんか締めてると、とってもダンディですよ」

 ああ、フォローされてる。フォローされてる。ごめんなさいごめんなさい。イタイ客にはもったいないほどの優しい気遣いに、胸が一杯になりながらお隣、『水晶少年』へ。

 くまねこさん不在。なので売り子さん(みかづきさん?)に不審がられつつ本を求める。

 「あの、これを」

 「はい、300円になります」

 「それと、その、例のアレ」

 「ああ、これですね?どうぞ」

 おどおどしつつも、ふぁいと系を買わずして例のアレをゲットするという卑怯っぷりを発揮(内容は…鼻血ものでした。ええ。つまりそのう。まぁね!俺は大好きだ!)

 「それからコピー原稿を取りにきたものですがウォッホゲッホグッホ」

 「Σ(´д`)…大丈夫ですか」

 「ゲホ、ひぇいきです…これ差し入れです」

 「…(´д`)…お預かりしておきます(何ダロこの人)」

 まぁイベントのいいことは、人が多くて、ヘンな奴がスペースに来てもすぐ忘れてもらえることだと思った。

 なんか本格的にモーローとしてきたので一時休憩。体力が回復したら今度は『ANFINI』へ。お菓子、大丈夫なようで、なにより。

 「無職ですからね」

 食べられるモノだから、好みはともかくOKってなのですね…すんません。今度は新潟の親戚からウチに送られてくる米でも持って参ります…って今年は無理っぽいですが。ああ。世の中ヤなことばっかりだなぁ。

 さっそく赤坂本と島本をゲット。しかし赤坂本があまり捌けていなかったようなのが気になる…余計な文が入ってページ数が増え、値段が上がってしまったせいかと悩むことしきり…。すいません。(島本の内容は…ふごー、ふごー島ちゃんが素直なウケッコにー。ああなるまで、されまくったんだねぇいろいろと)

 さてここからだ。

 楽しむぜ?ショ・タ・コ・レをよう!!

 "サイコー"の"お祭り"だぁ?

 ショタケットの時は、俺の不甲斐なさのせぇで"凶運"ハードラック"踊っ"ダンスちまったが、今回の俺はちょいと違うぜ。資金もたっぷり、時間もたっぷり、精神的余裕もたっぷりだ。さぁ部屋の隅でがたがた震えながらお祈りして、俺にゲットされるのを待ってやがれ、かわいいショタ同人誌ども!!ひゃっはー!!


 …ぐるぐるぐるぐる。うぇーん迷ったよう。迷ったよう。どこが出口かも解らないよう。あまのさんはいらっしゃらないし、俺ぁもうダメだぁ。周りが歪んで見えるしさぁ。どうなってんのこの建物。

 と、歩いているうちに出くわしたのが、どこかで見た絵柄ー。

 これって…

 少年カルテの人だ!

 「あのこれ…作者の方居らっしゃいますか?」

 「こちらですが」

 おお、たおっこさんだ。

 「犬神さんの所でいつも拝見してます!むふーむふー」

 「…っ、ああ犬さんの所で」

 「というわけで、これください!」

 オリジショタ本ゲット。奇遇な出会いがあるだなやー。でも、内容は続き物だった。しかも一巻は売り切れらしいし。はがー。

 さらにさらに、ハガレン・アル受本ゲトーーーー。わー霧隠鷹哉さんのだよう。オドロキー。いやー色々色々あってほんと、うっとりでしたわい。前回よりはゆっくり見てらられるし。

 んで、あまのさんがいらっさるまで時間潰そうと思ってウロウロしてるうちにくまねこ様がスペースに戻られてるのを発見して挨拶ゲホゲホグホガハッ。

 「大丈夫ですか(^^;)」

 「ぐほっ、ぐほっ。大丈夫です。その節は色々ありがとうございましたゲホフゴ」

 「いえいえ…ほんとに大丈夫ですか?」

 「ええ、それよりバッテリー本は出さないのですか!!」

 「Σ(´д`)(ダイジョブじゃねぇコイツ)。いえ、本を出す予定はないんですが」

 「漫画化されてビジュアルも固まって出しやすくなったっていってたじゃないですかいってたじゃないですかいってたじゃないですくぁゲホゴホグフッ」

 「………(´д`)………無理せずお帰りになっては」

 「で、では失礼します」

 「お、お気をつけて」

 忠告に従い、ヨロヨロと場を立ち去る。あまのさんの到着があったのかなかったのか。それを確かめられなかったことだけが悔やまれる。

 その後、御徒町でハチノスとコリアンダーと赤唐辛子を買い、不忍池の四阿でぼーっとしてからいつものように悄然と帰宅。

 「ホールじゃなくてパウダー買って来いつったろーがボケがぁっ」

 と親に平手打ちを喰らう。この年になって子供同然に頬を張られる理由が解りません。後はちょっと寝て、水飲んで寝て起きたら熱は下がった。飯は普段の三倍食べました。

 ……えっと。今回のまとめ。

 がんばりましょう orz。

 また来年!か!

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