「距離」



「先生…あとは頼んだ。」

「ごめんね、先生!でも、先生ならどうにかしてくれるってゴロちゃん信じてる!」

一くんとゴローくんがそういいのこしてバカサイユに私を閉じ込め去っていったのが数分前。

今私の目の前には聖帝の悪魔こと仙道清春くんが天使のような寝顔で眠りについている…



こ…このパターンわ……!!



私の脳裏には瞬時に【あの】清春くんの姿がうかんだ!

そう、あの最悪か寝起きモード…!

いつもなら「ぶちゃ」とか「お前」とかでしか私の事を呼ばない清春くんの口から「天使」やら「ハニー」やら「スイート」とまで呼ばれたこともあったっけ…

あぁ…思い出すだけで鳥肌が……

でも…!いつまでもこのままにしててもいつかは起きちゃうし、補習も進まないわ…!

頑張るのよ!私!

とにかく…まずは清春くんを完璧に目を覚まさせないと!



とりあえず、手っ取り早く水をかけて…

そう思って私がたどり着いた先は、マーライオンの口からとめどなく溢れるオレンジジュースだった…。





「なんでこんなのしかないのよー!」





思わず大声をあげた私はふっと暖かいなにかが包んだ…

「捕まえた。僕の小鳥さん」

「へっ!?」

胸元まで回された腕、首元に触れる暖かな息遣い

まさか…まさか!!こんなはやく!!

私は恐る恐る首を後ろ回すと普段はみせないとびきりの優しい微笑みを浮かべていた。

「あぁ…やっと可愛いお顔を見せてくれた。子猫ちゃん」

「き…清春くん?」

「なんだい?子猫ちゃん。」

キラキラと光を飛ばして微笑む清春くんをまのあたりにして私の心臓はこれ以上動けないというほど早く鼓動をうっている。

ダメよ…清春くんは生徒で私は教師なんだから…!

落ち着いてぇー!!

私は深呼吸をして心臓を落ちてかせるとコホンと咳をして未だに私を抱きしめている清春くんに向き直る

「おはよう。清春くん。」

「おはよう。子猫ちゃん」

う…笑顔が眩しいわ…!

「清春くん…お目覚めそうそう悪いのだけど離してくれないかしら…?抱きしめられてたら動けないじゃない」

「えー…イヤだよ。

あなたみたいな小鳥さんは、僕の手で捕まえておかないと大空へ羽ばたいてしまうから…

それに目が覚めたら目の前にとても可愛い人がいたんだもの…

きっとこれは神様から僕への誕生日プレゼントだね!」

「へ?清春くん誕生日な……」



ばっしゃーん!!



私の言葉は途中で途切れ、変わりに空から大量の冷水が降ってきた。

「大丈夫か!?担任!」

開け放たれた扉からは翼くんと一くん、ゴローくんが息を切らして入ってきた。

「きゃー!先生ポペラびしょびしょー!」

「先生、ごめんな。はい、タオル」

私はお礼をいい一くんから投げられたタオルを受け取って一緒に座り込んでいる清春くんの頭をわしゃわしゃと拭いた。

「清春くん目、覚めた?さ、早く服乾かして補習しましょ!

あ、そういえば清春くん今日誕生日なんだって?

教えてくれればプレゼント用意したのに!って、清春くん?」

私がわしゃわしゃと拭いていた清春くんのその頭はぷるぷると震え、勢いよく立ち上がった。



「カ〜〜〜〜〜べ〜〜〜〜〜!!!!!」



「わ〜ん!キヨがキレたー「うわっ!落ち着け清春!」

「ちっ、退却だ、永田!」

三者三様にバカサイユから逃げていくみんな。

それを清春くんは水鉄砲で追いかける。

私はその光景をみて笑っていた。





「おい、ブチャ。ナニわらってんだぁ〜?」

「え!戻ってきたの!?」

驚く私に清春くんは手をさしのべてきた。

「ほら。」

「え?」

「掴まれってことだロぃ?早くしろよコブタちゃ〜ん?」

「な!清春くん!!」

そう怒ろうと思った私の言葉は暖かい温もりに飲み込まれていった…

「ん…!」

重なる唇の温もりは暖かくて私は思わず固まってしまう。

「うひゃひゃひゃひゃー!!ぶちゃいくチャンの唇ゲーートッ!」

静まり帰った部屋に清春くんの笑い声が響く。

そんな中、私は放心状態で固まっていた。



「ブチャイクちゃんがプレゼントくれるっていうからヨ〜

有り難く頂いてやったゼぃ!」

この時の映像がビデオで撮影されているのを南が知るのはまた先の話。








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