「真夏の夢」 「外れよ。望美の負けね。」 「あーーそれは卑怯だよ!朔のいじわる〜〜!!」 俺が子分たちにあれこれ指示を出していると、隣の部屋からそんな声が漏れる。 隣は望美の部屋。 今日は朔ちゃんが久しぶりに望美に会いに来ていた。 望美にとって朔ちゃんはこの世界で一番の親友だから、俺にとっても喜ばしい事だ。 どうせなら一緒に混ざりたかったけれど、 今日は夜からある祭の準備でその希望は叶いそうに無い。 なので、わざわざ隣の部屋に本部を移してせめて近くに居たかったのだけれど… これはこれで苦痛かもしれない。 隣からは女の子らしい可愛らしい笑い声が響く。 どんな顔で望美は笑っているのだろうか…? そんな想像をしている自分に苦笑すると隣から俺を呼ぶ声が聞こえた。 「――かた…親方!」 「あッ!すまん。」 呼び声の主は苦笑しつつ「いえ」と答えると本題に入った。 「―――で、最後の立ち位置は櫓の上でよろしいですか?」 「あぁ、よろしく頼む。」 祭の流れや櫓の位置などの説明をうけ俺は了承する。 「わかりました。」 そういうと俺に一礼をして子分は部屋を出ようとした。 すると、隣の部屋からまた笑い声が起こった。 「………可愛いですね。」 「あぁ。俺のお姫さん達だからな。」 俺は口橋をあげて笑う。 「さすが親方です。」 そういってまた一礼をすると、そいつは去っていった。 嬉しい事に俺の下につくやつは皆望美のことを気に入ってくれている。 あの、誰にでも平等な笑顔と心遣いのおかげだと俺は理解している。 そして俺達の仲も心から祝福してくれた。 俺達は本当に恵まれているんだろうな。 そんな事を考えているとまた違う問題を持ってきた子分が次々とやってきて、 俺はその対応に追われた。 子分たちの列が途切れたときはすでに夕方近かった。 予定より少し長引いたな…。 俺は静かになった隣の部屋の扉を叩いた。 「望美。朔ちゃん。入るよ?」 「え!?ちょ…ちょっとまって!」 俺は望美の制止の声よりも早く扉を開けていた。 そして、目に入ったのが髪を高い場所結い、 俺が贈った紫地にピンクの柄の入った浴衣を纏っている。 ひゅ〜 照れ隠し思わず口笛を吹いてしまう。 可愛いという言葉でも、綺麗という言葉でもなく…。 少女と女の間でしか纏えない、幼さを残しながらも色香を感じるその姿。 俺の鼓動が高鳴るのが分かる。 「可愛いでしょう?望美ッたら最初、髪を纏めるの嫌がったのよ。」 「朔ッ!」 全部をばらしてしまいそうな朔の様子に望美が大きな声で制す。 朔は「こんなに可愛いのに…」と小さく呟きながら髪に刺さった簪をいじる。 「凄く似合ってるぜ?」 俺の一言に望美は顔を真っ赤にして俯いてしまう。 そんな望美を可愛くもいとおしく思う。 俺はそっと望美の頬に手を当てて俺のほうを向かせる。 「顔をあげてくれないかい?俺の姫君。」 その手に逆らう事はなく、望美は恥かしそうに顔をあげた。 「変…じゃない?」 上目遣いでそうたずねる望美に俺は微笑みを交えてこたえる。 「最高だよ。さすが、俺の姫君だ。」 「ありがと。」 そうして、お互い少し照れながら見詰め合ったいた。 「ほのぼのしてる2人をみてるのも、幸せだけれど、 ヒノエ殿はもう時間がないのではなくって?」 不意に望美の後ろにいた朔ちゃんから声がかかる。 「あぁ。そうだった。朔ちゃん、有難う。望美、いくよ!」 「いってらっしゃい。」 「えッ…!えっ!?えーーーーッ!?」 この後のことを望美だけ知らない状態で、俺は望美の手をぐいぐいと引っ張った。 向かった先は始まったばかりの祭の中心。 ―――櫓の上。 櫓の周りに集まった人達から「ひゅーひゅー」などの野次が飛ぶ。 「お前等楽しんでるかー!?」 俺が櫓の中心でそう叫ぶと「おー!」という、低い声の塊が返ってくる。 「今年の祭は今までよりも盛大に催すつもりだ。 ただ、お前等には悪いがこの祭の主役は俺の神子姫さまだ。 そして、今からやる演出はすべて俺から神子姫さま…望美へのプレゼントだ。 受けとってくれるかい?」 その言葉とともに、満天の星空の夜空に満開の花火がともる。 「は。な……び?」 望美はそこで、白黒させていた目の焦点がやっと合ったようだった。 「この間、鎌倉に行った時に景時に今日の事を話して花火の作り方を教えて貰ったんだ。 朔ちゃんもその時に望美の着つけをやってくれるといってくれてね。」 「――――――……ッ。」 「…泣いてるのかい?」 俺の目の前には花火を直視しながら涙を流している望美の姿があった。 その表情は笑っていて、俺の心をくすぐる。 「ありがとう…ヒノエくん」 「最近忙しくて構ってあげられなかったからね。 本当だったら毎日、毎時間、毎秒一緒に居たいのだけど… こんなことしか出来ないけれど、喜んでもらえたかい?」 「うん…ッ最高のプレゼントだよ!」 俺の胸ヘ飛び込んできた望美をぎゅっと抱きしめると 俺は望美にしか聞こえないほどの小さな声で「愛してる」と囁いた。 「…私も」 その声を合図に俺達は人目もはばからずキスをした。 唇が触れあった瞬間、俺達の頭上で一番大きな花火があがった―――。 |