「知性的」 望美さんが、薬の作り方を教わりたいと言い出したのはあの戦の時の事だった。 あの頃は僕にも彼女にもそんな余裕が無い事を分かっていたから、 僕も「また今度にでも」と答え、望美さんも無理強いはしなかった。 今思えば、あの頃の私の言葉は今を暗示していたのかもしれない。 あの頃から僕は貴方に引かれていたし、 こんな未来があったらと考えなかったか?と言われれば「いいえ」としか答えられない。 そんな理想でしかなかった未来が今ここに存在する―――。 「あぁ、違います。そこはこうするんですよ。」 彼女が摘んで来た薬草の茎を不器用な手つきで取り除いている。 そんな様子に僕は望美さんの愛らしさに胸の奥に暖かいモノを感じる。 そして、その手をとり優しくコツを教えてあげる。 細かい作業からかしめりけを帯びた手。 細く長い指先。 一見普通の女性の手だが触るとはっきりと分かる刀だこ。 それが、戦で美しく舞った戦姫。春日望美であることを示している。 「あ!本当だ!有難う御座います。弁慶さん」 望美さんが僕の方に頭をあげてニッコリと笑って答える。 「コツさえ掴めば結構簡単なんですよ。」 僕はそう言って望美さんの手を放すとその手を髪の毛の先に移動させた。 さらさらとした彼女の髪の毛を一房とり、その手触りを楽しむ。 最近九郎に望美さんに触り過ぎだといわれる。 「触れてない時は無いですね。」と、あの時僕は真顔で答えたけれど。 確かに…と思うときが結構ある。 彼女の体温が感じられるのが好きなんだと思う。 だから、ことあるごとに彼女に触れられる機会を狙っている。 今みたいに。 僕はずる賢い人間だから。 貴方に触れたくて、理由を求めてしまう。 その理由を作る様に仕向けてしまう。 「弁慶さんってホント頭良いですよね〜」 その手を止め、はぁとため息をつく望美。 「どうしてですか?」 「だって色んなお薬作れるし、冷静にものが見れるし、色んな事知ってるし…」 そういうと、望美は弁慶の方を振りかえる。 僕の手からは彼女の長い髪がさらっと落ちる。 「私、少しでも弁慶さんに追いつきたいんです! 九郎さんとまでは行かなくても…弁慶さんの横を胸張って歩ける様になりたいんです! でも私、馬鹿だから…もっと勉強しなくっちゃって…。」 望美の表情が曇る。 貴方がそんな事を考えていただなんて…。 僕は胸が温かくなるのを感じた。 「薬師が薬を作れるのは当然ですし、 この間来た貴方よりこの世界の事を知っているのは当然です。 それに…」 「それに?」 「僕は冷静にものを見れる人間なんかじゃありませんよ。 特に望美さんの前では。」 「へ?」 驚きの表情を浮かばせる彼女の頬をそっと両手で包む。 そして、動いたら唇が触れ合うんじゃないかという距離まで顔を近づけた。 「さっきから、僕がなに考えていたか分かりますか?」 「わ……わかりません…」 「どうやったら貴方を押し倒せるか考えてました」 「―――………ッ!?」 真っ赤になる彼女の唇に自分の唇を重ね合わせる。 唇の隙間に舌を忍ばせると、おずおずと望美は舌を絡ませて来て―― 「でもやっぱり弁慶さんみたく知性的な人間になりたいです。」 事後の気持ちよいまどろみの中。 弁慶の腕の中に抱きしめられた望美は口を開いた。 「じゃあ、僕みたく望美さんも僕を求めてみたらどうですか?」 「弁慶さん!!!」 望美さんは真っ赤になりながら僕の胸をぽかぽかと叩く。 この日常を永遠に続けさせる為なら、僕はどんな策略だった張り巡らせます―――。 |