2人は、離せない@(忍岳)
「なぁ岳人、今日スマンが部活出れんのや。跡部にそう伝えといてくれへん??」
 
心地の良い午後。4限が終わり、チャイムが鳴ると同時に忍足の教室へ飛び出した岳人に、そう忍足が伝える。
 
「何でだよっ!!!昨日『明日は2人で寄り道して帰ろうな』っつったじゃんかよ!!!」
「だからスマンて。」
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!何でそうなんのか説明しろよ!」
 
・・・午前の授業が終わり、やっと腹の虫が泣き止む時間がやってきたというのに、今度は痴話喧嘩か・・・
 
と思っている忍足のクラスメイト達。
 
この学校の生徒で、この2人の関係を知らない者は少ない。
いつもは仲良くしている2人が喧嘩なんて、本当に珍しい。
 
だが、これは「喧嘩」というよりは「岳人が一方的にキレている」と言うに相応しい。
 
・・・・・・・・・と言うか、いつもそうなのである。
岳人が1人で怒っているだけで、忍足は特に気にする様子は無い。寧ろ「又始まったわ」と云う顔をして、小さい子供をあやす様に接するのである。
それが、又岳人のカンに障るのだが。
今回もそのパターンであった。
 
「なぁ、なんで部活出れねぇの??!俺達ダブルスなのに、片方が居なかったら意味無いんだぜ?!」
「そないな事言われたかて、用事があんねん。堪忍してぇな・・」
「じゃあ俺も部活出ない!!!」
「それはアカン」
「どうして!!!!!」
 
堂々巡りが10分近く続いた後。
 
「いい加減止めなって。ホラ、クラスの皆も落ち着いて昼食取れないじゃない」
と、忍足と同じクラスの滝萩之介が、2人に割って入る。
「だって!!」
と、岳人が言うも、
「そや。落ち着かな、岳人・・」
「無理!!!元はと言えば侑士が悪いんじゃ無いか!嘘つきっ!!」
「・・・・はぁ・・・」
とうとう、忍足が溜息を付く。
忍足が溜息息を付くと云う事は、「結構キテいる」という証拠。
それは、岳人も知っていた。
「もぅイイよ!!馬鹿侑士!!!!!!!!!!!!!!」
と叫び、教室から駆け出していった。
 
「・・・・・何で俺が馬鹿やねん。」
「いいの?忍足??」
「・・・もぅエエわ。後で事情を話せばアイツも納得するやろし。」
「事情・・って?」
「・・・まぁ、滝になら言ってもええか。あんな・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
「っく・・・っっ馬鹿・・・、侑士の・・・っ馬鹿ぁぁぁ・・・・。」
忍足の教室から勢い良く飛び出したのはいいが、勿論、岳人自身でも自分が悪いのは良く判っている。
だが、今日だけは一緒に帰りたかった。
一緒に、居たかった。
「侑士は、俺なんかどうでもいいんだ。俺なんか、・・・・・どう、だって・・・・・・」
ふと、岳人はポケットからある包みを取り出す。
岳人は、この包みを忍足に渡したかったのだ。
 
 
 
岳人は、忍足には内緒で、母親の経営しているモデルのバイトをしていた。忍足の為に、貯金して、やっとの思いでこれを買った。
 
この包みの中身。
 
 
以前、忍足と岳人が街を歩いている時、とある店の店前にあるガラスケースに展示してあった指輪。
これを見て、忍足が「綺麗やな〜。俺もこんなん欲しいわ」と、独り言を呟いた。忍足と付き合い始めて3年目。その月日の中で、忍足本人の口から物を欲する言葉など、1度も聞いた事が無かった。
 
いつも、事あるイベント毎に、岳人は様々な贈り物を貰ってきた。
誕生日、クリスマス。他にも試合で頑張った時やテストでいい点数を時ですら。だが、岳人は自分自身でその贈り物に相当するお返しが出来た事が無かった。
だから、この時、岳人は「絶対にコレを侑士に贈る」と、心に決めたのだ。
だが、中学生がバイトなど出来るはずが無い。この国には「労働基準法」という法律があるので、中学生が働く事は出来ないのである。
 
早朝の新聞配達も、部活があって出来ない。
 
どうしたものかと頭を抱えているときに、ふとアル事を思い出した。
 
 
母親が随分と前から誘っていた仕事。
「モデル」である。
だが、この誘いに乗れない理由は、次の条件だった。
 
「女」として、モデルをしろというのである。
 
岳人は自分の身長や華奢な身体を誰よりも気にしていた。だから、ずっと断ってきた。
 
しかし、今はコレしかない。
 
そう思い、岳人はこの仕事を受け、あの指輪が買えるだけのお金を稼ぎ、昨日やっと手に入れた。
 
勿論、忍足がこの事を知るはずが無い。
 
ビックリさせてやろうと、事前に今日の予約をしていたのに。
 
なのに。
 
 
 
 
 
「っもういい!!!俺の気持ちも知らないで・・・!」
 
無論、知られていてはまずいのだが。
 
 
一刻も早く、この指輪を渡したかった。
でも、今日は無理だという。
明日では、意味が無いのだ。
 
こんな気分では、部活に出ても集中出来ない。
 
「今日は、部活休もう・・・・・。」
 
そう自分で自分に言うと、トボトボと自分の教室に入っていった。
 
 
 
 
 
 
掃除の時間に跡部に自分と忍足が部活に出られない事を伝えると、岳人はSHRが終わった後すぐに教室を出、靴に履き替え、校門を出た。
このまま家に帰っても、何もする気になれない。
岳人は、常に忍足の傍にいたいと思っているのに、今日は喧嘩までしてしまった。
 
「どうしようかな・・・」
と考えている内に、岳人は無意識に忍足の家の前迄来ていた。
来ようと思って来たのではない。
逆に、「暫く行ってやらない」とさっき自分と誓ったのに。
 
しかし、どうやら気持ちとは裏腹に、本当は来たいと思っていたのかもしれない。
ここまで来てしまったのだ。一言忍足本人に文句を言ってから帰ってやろう。
そう決めた岳人は、外気の寒い空気から身を守るように、只でさえ小さい身体を更に小さく丸めた。
 
TO BE CONTINUED.....
 
 
 
 
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