*大好きな人。*
“ワケわかんない人”
だったんだ。第一印象からして、俺とは正反対の人だと思ってた。
同じユニットになって、話すことが多くなっても、その印象は変わるどころか更に深まっていって。
徐々に、離れていっちゃったんだよね。
「カメー」
仕事中に声をかけてくるって言ったら、大体、仁。
俺たち、シンメだし、絡みが多いのはわかるけどさ。
もうちょっとあの人と仕事がしたいって思う俺は、贅沢なのかな。
「ねぇ、亀梨?」
「え…ぁ?」
いつの間にか、撮影は終わってて。急に声をかけられるもんだから、変な声で返事しちゃった。
「なんだよ、その返事」
アハハって笑うのは、自称キャプテンの上田竜也。
俺の気持ちも知らないでさ。そんな風に、笑わないでよ。…バカ。
「で?なんか用?」
「冷たいよね、亀梨。…まぁ、いいけどさ」
「だから、なんなのさ」
「…別に?」
別に、じゃないだろ。しかも、何でクエスチョンマークとか語尾につけてんの?
俺がひとりでいるのみつけて、声かけてきたくせに。…わかってんだよ、バカ。
そんな些細な上田の優しさを見つけたのは、いつごろだったかな。
それから、だんだんと上田がわかるようになってきて。わかるようになったら、今度は自然と目が追っていて。
なんて言うのかな、少しでも近くにいたいって思うようになった。
守ってあげたい、じゃなくて、守ってほしい。
俺のこと、見ててほしいって思った。
「…亀梨?」
気付いたら、またボーっとしてて。最初と同じ台詞を投げかけられた。
「なに?」
今度こそは、ちゃんと返事を返す俺。
折角ちゃんと言えたのに。返事がないから、ジーっと上田のコト見てたら。上田は急に鏡を取り出した。常時鏡を携帯してるなんて、流石ナルシスト。…なんて感心してる場合じゃないってば。
「…何やってんの?」
「いや。俺の顔、なんかついてる?」
「へ」
疑問符つけるのも忘れて、間抜けに一言。目をぱちくりさせてたら。
「だって…亀梨、ずっと俺のこと見てるんだもん」
「…っ!!」
俺、そんなに見てたっけ?…ヤバい、俺、今、ちょー顔赤いかも。
「ねぇ、なんかついてんの?」
「右のホッペタにご飯つぶっ!!」
尚も顔を覗き込んでくる上田に怒鳴って、慌てて楽屋を後にした。
「…バカ上田ぁ…」
トイレに入って、小さく呟いた。ふと目線を横にやったら、鏡に映った俺が見えて。
「やば。顔、赤いじゃん」
ボソッと独り言を言って、顔に水をかけた。熱いまでのこの熱りが、どうか冷めてくれますように。
パシャンパシャン音を立てて顔に水をかけてたら、だんだんと熱が引いてきたような気がして。ガザガザ、ポケットの中を探った。
「………ぁ」
あると思ってた、ハンカチ。生憎、俺のポケットの中にはなくて。小さな声を上げた後、わざと大袈裟に溜め息をつく。
「踏んだり蹴ったりじゃん…バカ上田のせいで」
「…悪かったね」
ぼそっと呟いたら。まるで、漫画みたいなタイミングで声が聞こえて。声を聞けば、誰かなんてわかる。
「上田?」
「…はい」
呼んでみたら、ちょっと怒ったような声で返事されて。
濡れた手で目の辺りの水を拭って、後ろを振り返ったら。
「…はい?」
手に、何か感触。
「ハンカチ。顔、拭きなよ」
今度は少し柔らかくなった声で、はいってもう一回繰り返して。今度は両手で、俺にハンカチの位置を教えてくれる。
「あ…りがと」
「You are welcome」
お礼を言ったら、なんか英語をしゃべってた。…だからね。英語できたって、外人にはなれないっつーの。
そんなことばっか言ってるから、可愛いって言われんの、わかってんのかな。
…可愛いって言われるの、嫌いなクセに。
あえてつっこまず、右手に握らされたハンカチで顔を拭って顔を上げた。ら。
「…んっ」
いきなり、今度は唇に。変な違和感を感じて。目を見開いた次の瞬間、違和感の正体を上田の唇だと悟る。
びっくりして、ワケわかんなくて。ただ、右手にあるハンカチを力強く握った。
少し経ったら、唇が離れて。急いで消耗した酸素を取り込もうと思って口を開けたら。
「…んぅ!?」
唇は離れず、開いた口の間から舌が侵入してきた。これは、流石に拒否して。
身体離そうと努力するけど、効果は今ひとつない。
腕だって、俺より細いくらいなのに。どこにそんな力があるのか、ちょっと不思議。
「んぅっ…はぁっ…」
時間が立てば経つほど、、不覚にもキモチイイ、なんて思っちゃって。全然、体に力が入らない。力入れようとすればする程、抜けていっちゃう感じ。…実際、そんなに時間経ってないんだろうけど。
しまいには、足までガクガクしてきて。立っていられなくなって、体重を上田に預けた。
そしたら、上田は唇を離してくれて。見上げた俺に、笑いかけた。
「バカじゃないっしょ」
すっごく。ものすっごーく、ムカついた、けど。
…嬉しいって思ってる俺がいるのも、事実なわけで。結局、何も言い返せないまま、ただ上田を睨んだ。
「ね、亀梨。前言撤回しない?」
「誰がっ…!!」
するか、って言うついでに立ち上がろうとしたら、急に腰から力が抜けてきて。フラーっと上田の腕の中へ逆戻り。
上田の顔を見たら、勝ち誇った顔をするわけでもなく、笑っていて。
「…します」
「OK. それでいーの」
いちいち英語交えてくるところが、癇に障るけど。これ以上言っても疲れるだけだし、シカトしてたら。
「…ほかに言うことは?」
促すように、聞いてきて。
「…っ!好きだよ、バカッ!!」
下を向いたまま言ったら、小さい子をあやすように頭を撫でられて。上を向いたら、満面の笑顔。
「よくできました」
ご褒美ねって、もう一回触れるだけのキスをされて、手を引かれた。
見た目の割に、結構力は強くて。絶対俺のほうが強いと思ってたのに、なんか劣等感。
「ねぇ、うえっ…」
「次、俺たち二人で撮影だって。珍しいねぇ」
「は…?」
ね、ともう一回問い掛けられて、やっと気付く、上田の目論見。…野郎、最初っからわかってやがった。
普段は天然なクセに、こういうときだけなんか頭廻って。可愛いって言われるのが嫌いなクセに、自分から可愛いって言われるようなコトして。
誰も見ていないようなところで、男の子っぽいコトして。やられキャラのクセに、必死で俺様気取ってて。
…でも、それが上田なのかも。
「亀梨と結婚したら、俺、外人になれないよなー」
ひとりで納得してたら、ボソッと前から声が聞こえてきて。後ろ向いた上田に、呆れた顔を返したら。
「ま、亀梨と結婚できるならいっか」
いや、上田サン。勝手に納得されても、話し進みすぎちゃってるように気がするんですけど。…っていうか、俺、告白の返事も聞いてないし。告白より先に、プロポーズっぽいし。
…俺は、よろこんでいいのだろうか。
「亀梨ー、せめて、苗字だけでも変えない?」
未だに変な質問をしてくる、俺の“大好きな人”は。
やっぱり、“ワケわかんない人”。
‥END‥
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
初の上亀小説です。上田さんが仁サマに見えるのは、もちろんスルーで☆(苦)