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全ての始まり |
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たった5%。 されど5%。 僅かな可能性と勘を頼りに近づくほかに方法はなかった。 例えそれが、どれほど危険なことだったとしても。 0%に。 100%に。 心の奥底で本当に望んでいたのは、0%ではなく、100%ではなかったのか。 今、目の前で、現実の夜神月が存在する。 「それで?流河は何を学ぶつもりなんだ?」 先刻からずっと、参考書を開いて、ノートにシャープペンを走らせている。 流れるように形の良い文字が並んでいくのをLは黙って見ていた。 見た目の性格よりは、すこし神経質そうな文字である。 「本当は、必要ないんだろう?」 顔もあげずに、月の言葉は直接確信を突いてくる。 その様子を膝を抱えて座ったまま、Lは眺めた。 この場に居る理由は、目の前にいる夜神月の「キラ」であることを証明するためなのか、それとも「キラ」ではないことを確認するためなのか。 「何が、ですか」 ほんの数日、一緒に行動を共にしただけだったが、夜神月の聡明さを理解するのには充分な期間ではあった。 「大学」 ふと、手を止めて月が顔を上げた。 まっすぐと突き刺さるような視線が向けられると、Lもまたそれを正面から受け止める。 「そうですね。必要ありません」 隠す必要もないことをわざわざ偽ることもない。 真実ばかりが在るわけではないが、それでも、嘘ばかりでは相手からは何も引き出せないのだ。 嘘で塗り固められた壁を壊すには、偽りのない真実も必要である。 「僕のためだけに大勢の人前に姿を晒して、それで何かがわかるとでも?」 探るように、探られるように、月が問うてくるのは、確信に近い弱点だ。 それが、はったりやかまかけだったとしても、ピンポイントで突いてくるのは、さすがとしか言いようがない。 64のカメラに映し出された、そのままの姿でもである。 賢く、聡い。 本当にそれだけなのか。 内に秘めている「何か」はないのか。 「それは、これからわかります」 親指の爪を噛み、決して目は逸らさない。 目の前にいる「夜神月」という人間が「キラ」であることに、間違いはないはずだった。 しかし、それは、Lの勝手な勘でしかない。 探り、探られ、潜み、隠れ、惑わす、全てを暴いたとき、全てが終わるのだ。 月の傍らに置かれた携帯が光った。 そちらに意識を取られて、先に目を放したのは月のほうだった。 「流河は、昼、どうするんだ?」 ノートを閉じて、シャープペンシルと消しゴムをペンケースにしまいながら、何かのついでのように月が聞いてきた。 たったいま、殺意さえこみあげそうな視線を向けていたとは思えないくらい、穏やかな声だ。 「何も決めていませんが」 月の本質は、面倒見がよく優しい性質なのだろう。 殺伐とした空気をまとわせているのは、紛れもないL自身だ。 「一緒に学食に行く?」 「いいですね」 同時に席を立ち、並んで歩く。 こんなにも離れているというのに、身体だけは側にある事実。 他愛もない話。 真実からかけ離れていく。 沈黙をしらない空気もまた、夜神月が持つ、本質である。 「知らないことを知るということは、始まりです」 立ち止まると、一歩前に居た月も立ち止まって振り返った。 「そうだな」 「だからこそ、私がここに居るのです」 「・・・」 向かい合う、二人の間に風が吹き抜けていく。 それは、決して塞がる事のない亀裂である。 「だから僕は流河と共に居るのが、苦じゃないんだよ」 ふ、と、月が口元に微笑を浮かべた。 社交辞令だったのかもしれない。 本音だったのかもしれない。 それでも、予想し得なかった返答がLを直撃したのは、間違いなかった。 こんなにも時間が止まるほどの衝撃を受けたことがあっただろうか。 言葉を失うと、頭の中も白紙と変わる。 「どうした?おかしなやつだな」 様子の変わったLに気がついた月が首をかしげて、笑う。 「行かないのか?」 Lは首を横に振って、足を一歩前に出した。 動けないと思っていただけに、そのまま歩き出せたことが不思議に思える。 「夜神君」 隣りに並ぶと月も歩き出す。 「なに?」 「私は、夜神君と出会えたことに感謝します」 「それは、・・・光栄だな」 月が驚いたように目を見開いてLを見る。 「いえ、これは私の自分勝手な感情でしかありません」 「・・・」 「それでも、本当のことです」 「信じろって?」 「その判断は夜神君におまかせします」 「考慮しよう」 「お願いします」 無意味に見えるやり取りも、始まりのひとつにすぎない。 なにもかも、確かめるためだけに在る。 いま、直接出会ったこの時。 5%を0%にも100%にも変えるのは、良くも悪くも「夜神月」自身なのだから。 終 |
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2006/07/07 |
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ようやくお届けします。大学生活。 もっと日常的な話を書くつもりだったんですが、 書き始めたら勝手にこうなりました(爆) |
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※4万HIT御礼文章でした。 | ||