戻 | ||
うたたね |
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「月くん、月くん」 ふと、遠いところから名前を呼ばれて、月は意識を取り戻した。 目を開けると、見慣れない天井が飛び込んでくる。 上体を起こして数秒、ようやく自分の置かれている状況を思い出す。 「こんなところで寝ると風邪をひきますよ」 傍らに立っていたのは、Lだった。 ホテルのソファは思った以上に寝心地がよかったのか、一瞬も油断のできない状態で1時間とはいえ、熟睡できたことに驚いた。 「あ、ああ。そうだね」 何があっても、どんな時でも、自分がキラであることを疑われるような隙があってはならない。 一番近づきたかった捜査本部にようやく潜入することができたのだ。 些細なミスさえも命取りになる。 ずっと外に向けて神経を尖らせ、その事を悟られないように演じ続けることは、決して容易い事ではない。 「休むようでしたら、部屋に案内します」 見慣れてくると、最初は理解できなかったLの無表情は、案外心内を読み取りやすいのではないかと思えた。 表情はなくとも、いまは本当に月を気遣っていることがわかる。 どうやら、本部の人間にも部屋に戻らせたらしく、室内にはLと月しか居なかった。 「いや、いまので目が覚めたから」 自分のように表情を変えるタイプの方が、表面に意識が表れている分、その本音が判り辛いかもしれない。それはそれで、好都合だ。 「じゃあ、コーヒーでも飲みますか?」 Lはテーブルの上にあるコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぐと、月の元まで持ってきた。 「ありがとう」 月がカップを受け取ると、Lは自分のカップを持ってソファの側にあった椅子に座った。 その一連の動作を意外そうに見ていた月にかまわず、Lはコーヒーに角砂糖を5つ入れた。 「私がコーヒーを入れたことがそんなに不思議ですか?」 「何もできないと思っていたから」 月は正直に答え、Lの入れた(正確には注いだだけの)コーヒーをそのまま飲んだ。 「それは酷いですね。これでも一応、日常生活における一通りのことはできます」 かちゃかちゃとスプーンをまわし、Lはさらにポーションミルクを3つ、カップに注いだ。 「悪かったよ。竜崎に対する認識を改めることにするよ」 「そうしてください」 猫舌でもあるのか、Lは温度を確かめるようにほんの舌先を掠めるように一口飲むと、再びスプーンをまわした。 「僕をここに呼んだということは、すくなからず僕がキラである確率が減ったとみて正しいのかな?」 月はLを真っ直ぐととらえた。 表情はあくまで笑顔のままで、崩さずに。 「そうですね。月くんがキラである確率はほぼ0%です」 「そう」 Lのひっかかる言い方が気にはなったが、とりあえず5%からさらに減ったという事は、悪くない結果だ。 ただ、信用はできない。 表向きは0%としておいたとしても、Lが自分への疑いを晴らしたとは思えなかった。 「ならよかった。父に協力できることも嬉しいし」 自分が疑われることによって、父の心労は計り知れないものになっている。 ただでさえ、風当たりがきついと予想される捜査本部での缶詰状態では、休まることはなかっただろう。 (多分、監視カメラが設置されていたときから、僕は疑われていた) それは、きっとLから父へ告げられていたに違いない。 自分が捜査本部へ呼ばれたことは、父の心労の原因をひとつ減らしたことになるだろうか。 そうなれば、自分への監視はやや緩くなるだろう。 「月くんは、本当に親思いですね」 「父のことは心から尊敬しているんだ。少しでも僕が助けになれたらと思っているから」 疑われるくらい、わざとらしい方が夜神月っぽいと思わないか? Lを試しているわけではないが、ふと心の奥で生まれるのは、純粋な好奇心だ。 「月くんの推理力は本当に驚く程のものがあります。私も期待しています」 自分の言葉や発言に対して、どんな反応をするのか見てみたいと思う。 「期待に応えられるかはわからないけれど、僕も精一杯協力するよ」 改めて誓い直し、月はカップのコーヒーを飲み干した。 協力することによって、得る利益は計り知れない。 「よろしくおねがいします」 どこまで疑っているかはわからないが、騙し続ける自信はある。 Lを欺き、最後に陥れるのは、自分なのだから。 終 |
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2004/06/17 |
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月が書きやすいらしい。 |
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