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雨の日 |
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雨が、降ってきたのは、昼過ぎのことだった。 昨日から曇り空が続いていたためか、傘のない学生たちの多くが走って校舎を出て行った。 月は玄関を出ると、鞄から折りたたみの傘を取り出し、開いた。 今朝の天気予報では降水確率80%。 空を覆っていた重苦しい雲から零れ落ちた雨は、乾いた地面を濡らし、木々を潤した。 「途中まで入っていく?」 さすがに大学構内にまで、リムジンが入ってはこれないだろう。 隣りに立つLに月は傘を差し出した。 「ありがとうございます」 男同士で相合傘をする趣味はなかったが、夜神月としては目の前で困っている人間を見捨てることはできない。たとえそれが、敵だったとしても。 「夜神君は準備がいいですね」 一緒に歩き出すと、思った以上にLの歩調はゆっくりしていた。 月はいつもLの前を歩いていたが、一定の距離から離れることはなかったので、こんなに遅くはないはずだった。 (何を試しているんだ・・・) 先を急ぐ用事はなかったが、Lと並んで歩くという状況をなるべくなら早く終わらせたいと思っていた月は小さく溜息をついた。 靴下を履かず、スニーカーの踵をつぶしたLの足は、雨に濡れるのを嫌がっているようには見えない。 「濡れたくはないからね」 折りたたみ傘に大の男が二人も入るわけがなく、傘からはみだした肩を雨が濡らしている。 「天気予報はなるべく信じることにしているんだ」 雨脚はどんどん酷くなり、傘を揺らす。 それでも、Lに急ぐそぶりはなく、マイペースに歩く。 濡れた綿シャツが月の肩にぴったりと冷たく貼りついた。 Lに親切心を見せたのは失敗だったのかもしれない。 そんな後悔をしつつ、月は黙ってLの隣りを歩いた。 「夜神君」 突然、Lがその足を止めた。 月も立ち止まり、傘を持ち直した。 「なに?」 「私は、一度掴んだ手を放すことはしません」 「何を言っているんだ?」 月はわけがわからないと眉間に皺を寄せ、首を傾げる。 「覚悟していてください」 Lはじっと月の目を見つめた。 月はほんの少し、その淡茶色の瞳を揺らす。 「僕に何の覚悟が必要だというんだ」 笑顔で答える。 Lの言葉に惑わされてはいけない。 傘から聞こえる雨音がやけに大きく聞こえた。 「そのうちわかります」 Lは表情を変えることなく月から視線をはずすとまたゆっくりと歩き出した。 一体、何を求めている? 何を狙っている? Lの言葉の意図を読み取れないことに、苛立ちがつのる。 表情の変化? 答え? いつも自分を試すような問いかけを繰り返すLには慣れ始めていた。 今更動揺することもないが、意表を突かれることがばかにされているようで許せない。 (覚悟をするのはそっちの方だ) 校門を出ると、黒いリムジンが止まっていた。 「じゃあ、また明日」 「送りましょうか?」 「いいよ、寄るところがあるから」 「わかりました。それでは」 Lが車に乗り込むのを見送ると傘を肩に掛けた。 ようやく、全身が傘の中に入る。 先刻まではみ出していた肩はずいぶんと濡れて重くなっていた。 リムジンは月の目の前を静かに走り出した。 『ライト、かなり濡れたな』 Lとのやり取りを笑いながら聞いていたリュークが肩を指差す。 「しかたないさ。これでも僕は優しくて親切なんだから」 激しくなった雨は、容赦なく地面を打ち付けた。 終 |
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2004/06/09 |
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もうどんな話を書いているのかわからなくなってきました(爆) |
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