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挑戦状 |
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どれほどの思いを伝えれば、あなたはこの手に落ちますか? 「私が夜神君を好きだと言ったら、どうしますか?」 背後からポツリと呟かれた言葉に月は手に持っていた本を全て落とした。 予想以上の大きな音は、ひとけのない閉館間際の図書室に響いた。 あからさまな動揺を見せてしまった事を後悔することもなく、月は床に散らばった本を拾った。 「それは仮定?」 直接好きだと言われたわけではない。 ただそれにはLの何が意図されているのか、全く読み取れなかった。 動揺するのを確かめたかったのだろうか? 「どうでしょう?」 答えとは言えない返事をするLに苛立ちつつ、月は拾った本を抱え直す。 「実際好きだと言われたら困るよ」 今はそんなくだらないことに振り回される余裕はない。 「何故ですか?」 普通に考えれば聞くまでもない事をLは直球で問いただす。その意味をいつも月は短時間で深読みをする。 その問いに含まれる、Lの目的、理由、願望、予想、それらの要素を的確に探し当てなければならない。僅かな漏れが、命取りになる。 「前にも言ったけど、僕は同性愛には興味がないからさ」 月はLに背を向けて、書棚に並ぶ蔵書に視線を戻す。先刻から探している本が、見当たらずに同じ場所を何度も往復してた。おかげで、閉館時間ぎりぎりになっても居残ることになってしまった。 「興味があれば、どうしますか?」 一緒に何かを探していたわけではなく、Lは勝手に月につきまとっているだけなのだが、たまに声をかけてくるので月は一瞬たりとも気が抜けなかった。 「は?」 思わず間抜けな返事をしてしまい、月は動きを止めた。 「夜神君がもし同性愛者と仮定するとしたら、私の告白はどうなりますか?」 「流河、僕にはその有り得ない前提を認めることはできないよ」 仮定も何も自分がキラである以上、Lを好きになることなどあってはならないことだ。 「じゃあ、仕方がないですね」 Lがわざとらしく溜息を吐く。 「なにが?」 ようやく馬鹿な考えを取り下げたのかと月がほっとすると、Lは信じられない事を口にした。 「好きになってもらう方法を考えます」 「……、気色悪いこというなよ」 何度か呼吸を繰り返し、キレて怒鳴りそうになる自分を抑える。これ以上、ばかげた問答に落ち着いて付き合うことはできなくなっていた。 「本気です」 そんな月を煽るかのように、Lは月を見つめた。 「笑えない冗談だ。からかうのもいいかげんにしてくれないか?」 耐え切れずに、語気が上がってしまう。怒鳴らずに済んだのは、まだ理性がかろうじて残っている証拠だ。 「冗談でもからかっているわけでもありません。私は本気だと言ったんです」 「正気とは思えない」 それは本音だ。Lの言っていることが理解できない。 「差別するんですか?」 「流河は同性相手でも大丈夫なのかもしれないけど、それを押し付けられるのは迷惑だ」 「押し付けるつもりはありません。同意が得たい為です」 「同じことだろ?」 「違います」 「やめてくれよ」 「嫌です」 抱えた本で両手がふさがっているのをいいことに、Lが月に口付けた。 突然のことに、月は絶句する。触れただけのキスだったが、Lは満足そうな表情になる。 「夜神君、私が言うのもなんですが、その流されやすい性格少し考えたほうがいいですよ」 「最低だな」 月は口唇をシャツの袖で拭う。 「でも嫌いじゃないでしょう?」 余裕を見せるLに月はとうとう大声をあげた。 「流河っ!」 静寂を破った声が響き渡る。 「閉館ですよ」 調度見回りに来た司書に睨まれて、月は笑顔になる。 「いま出ます」 手にしていた本を抱えなおし、月は足早に貸し出しカウンターに向かった。 Lもその後を追いかける。 じわじわと侵食されるような感覚に襲われていた。 相手が自分を落とそうとしているのなら、それに答える義理はない。 むしろ、Lが持っている好意を最大限に利用する方法を考えた方が得策なのだろうか。 少なからず、動揺したままの思考ではろくな回答は得られない。 月は貸し出し係に謝りつつ借りた本を鞄にしまった。 「流河、僕はもう帰るよ」 校舎を出ると、外はもう暗くなっていた。 「夜神君、なかったことにしないでください」 「流河もしつこいな」 月は嘆息を漏らす。 「本気ですから」 本当に、どこまでを信じていいのかわからない。 全てを疑った方が、早いのか。 感情の読み取れない表情は、思った以上に厄介だ。 「それでは、また明日」 校門前にとまったリムジンに乗り込んで、Lは月の目の前から姿を消した。 ようやく、Lから開放されて月は深い溜息を吐いた。 握った拳をどこかにぶつけたい衝動にも駆られたが、それはどこにも行き場がない。 「本気なら、それを利用してやるさ」 それがLからの挑戦状なら。 真正面からうけてたつ覚悟はとうにできていた。 終 |
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2004/06/07 |
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ようやく、L月っぽくなってきましたか? |
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