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夢の谷間 |
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触れた先から粉々に砕け散る。 それは、灰のごとく風に舞い、消え去っていく。 あとかたもなく。 「夢の谷間」 川のせせらぎが聞こえた。 さらさらと流れ行く水は、やがて何処かへ消える。 いいえ。 いいえ。 消えるのではなく、繋がるのです。 どこへ。 なにと。 どうして。 繋がる先など、どこにも存在しないというのに。 「いつも怖がっているのはどうしてですか?」 かたり、と、音を立ててドアが開いた。 暗闇に差し込む、一筋の光。 けれど、彼の人の表情は見えないまま。 「怖がっている?誰が?何に?」 具体的な回答を求めることに、躊躇うことは無い。 それが、どれほど自分自身を追い詰めることになったとしても、正解を追求することを避けることは出来ないのだ。 なぜなら。 (正しく生きていくことが全てだからだ) 眩しい光から目を逸らし(見えないものを見ようとしても無駄だから)暗闇へと視線を戻す(何も見えないほうが安心するのは、見たくないものがあるから) 「怖がっているのは、月くんが私に、です」 「僕がどうして竜崎を怖がらなければならないんだ?」 「月くんが怖がっているのは、竜崎ではなく、Lです。Lに自分がキラであることを暴かれたくないから、怖がるのです」 「それは、笑えない冗談だね」 「冗談ではなく、真実です」 真実です。 真実とは、うそ偽りのないこと、本当のこと。 「僕がキラだというのか?」 「はい」 躊躇いも無い、まっすぐな正答が返る。 (僕はきっと、彼の目を見ることが出来ない) だから、まっすぐ彼の目を見るのだ。 ドアが閉じられ、暗闇に包まれる。 暗闇の中だけれど、彼の、竜崎の双眸がまっすぐに突き刺さった。 「疑うことを咎めはしないけれど、僕はキラじゃない」 突き刺さる視線を真っ向から受け止めて、月が笑う。 それは、酷く鮮やかに美しく。 まるで、悪人のように、善人のように。 「では、あなたは誰ですか?」 暗闇に響く、落ち着いた感情の無い声が心地良い。 「僕は夜神月で、それ以外何者でもないよ。竜崎とは違う」 Lであり、竜崎であり、その全てが偽りである人間に、本当のことなど、わかるはずが無い。 「私と比べることが、すでに誤りであることに気が付かなければなりません」 「本当の姿を見せずに、真実だけを追い求めるのは、矛盾していると思ったことは無いのか?」 「ありません。本当の姿を見せることが正しいとは思いませんから」 「答えが正しければ、自分が偽者でもかまわないということかな」 「最終的に求めたものが正解であれば、その過程は重要ではないのです」 「それをなんと言うか知っているか?」 「・・・」 「偽善者って呼ぶんだよ」 月が小さく声を立てて笑う。 竜崎は、表情を変えずにその様子を見つめた。 隠されている全てを探すのは、難問であり、持久力を必要とする。 まるで、手のひらにすくった水のようだった。 流れていく水は、何処かへ消える。 手に触れることも無く。 その痕跡も残さずに。 何処かへと流れていく。 「流れていく水は、繋がります」 「何処へ?」 「海へ」 「海とは?」 「全ての答えです」 追い詰めても、追い掛けても、さらさらと流れていく。 けれど、流れ、繋がる先に答えがある。 真実という名の正解が。 「時々、聞こえるんだ」 ぽつりと、月が呟いた。 「川のせせらぎが」 流れ行く川の先に繋がるのは。 『悪』か『善』か。 終 |
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2005/09/25 |
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えーと(笑) |
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