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果無い日々 |
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触れた指先に、アタタカイ体温を感じると、自分も生きているという実感がわく。 それは、まだそばに在ることのできる安心感。 好きだと思う。 反面、恐怖も生じる。 いつまで。 いつまで私は貴方に触れることができるのでしょうか。 貴方は本当に存在するのでしょうか。 私は貴方を捕らえることができるのでしょうか。 形のない想いは、いつか闇に溶け込み見えなくなる。 それは、消滅するわけではない。 時折思い出したように姿を現しては、傷跡を残していく。 「どうかしたのか?」 目を開くと、至近距離に月の姿が映る。 「いいえ」 何も悟られないように、首を振った。 「そう?ならいいけど」 繋いだ鎖がジャラリと音を立てる。 差し出されたのは、湯気の昇る淹れたての紅茶だった。 「ありがとうございます」 「ついでだったから」 礼を述べると、月が少し照れたように顔を逸らす。 まだ大丈夫。 紅茶へ角砂糖を三つ、四つと落とす。 水音を立てて沈み、すぐに形を崩した。 「竜崎・・・」 名を呼ばれて顔を上げたが、月とは目が合わなかった。 「・・・やっぱりなんでもない」 言葉にならない不安を抱えているのは、自分だけじゃないと信じてみたくなるのは、このささやかな時間が大切だという証拠である。 「・・・」 何も言わず、ただ月を見つめた。 「何だよ」 それが、言葉を区切った負い目からか、月の癇に障ったらしい。 月が少しむっとした表情になる。 「何でもありません」 その答えに釈然としないようだったが、月からの追求はなかった。 今繰り返される会話でさえ、大切にしたいと。 願いも望みも、溶けた角砂糖のように。 儚く消えた。 終 |
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2005/06/01 |
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月光から一年。 |
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