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夢と現実の狭間 |
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食堂の窓際の席。 窓の外には、ポプラと銀杏の木々が視界を塞ぐように植えられている。 食堂では大抵その席に座って、頬杖を付いて窓の向こうを眺めていた。 その姿がまるで、現実に背を向けているようで、いつも邪魔をしたくなるのだ。 メラミン製のトレーに紅茶と苺のショートケーキをのせて、Lは月の座る席へと近付いた。 月の目の前にあるトレー上の皿はきれいに食べ終わっている。 皿の様子から、カレーライスを食べたのだと容易に解った。 「何か、面白いものでも見えるのですか?」 風に揺れる木々の枝がテーブルまで伸びた影を揺らす。 枝葉の間からのぞく空の欠片は、澄んだ青色である。 「ん?」 声を掛けられて、月が意識を戻した。 Lは月の隣りに膝を立てて座り、紅茶に角砂糖を一つずつ落とす。 テーブルの上のショートケーキを見るなり、月が小さく笑った。 「面白いものなんて、この世にあるわけ無いよ」 頬杖をはずし、体勢を変えた。 今度は、今まで見ていたはずの夢に背を向ける格好になる。 その瞬間から、月の意識は全てLへと集中するのだ。 全身を走るえもいわれぬ感情にLは支配され、ほんの少しだけ緊張を解く。 「寂しいことを言いますね」 「そうかな?」 「夜神くんらしくないです。何かありましたか?」 「何も、・・・何も無いよ」 質問の選択を誤ったと気が付いてもすでに遅かった。 月の意識は再び窓の外へと移動し、先刻まで聞こえなかった群集のざわめきが一際大きく響き渡る。 Lはつまんだフォークをショートケーキに突き刺し、口へと運ぶ。 甘い香りと味に満たされ、精神も落ち着く。 ゆらゆらと揺れる木々の影が、テーブルの上にちらついて、思考の邪魔をする。 次々と浮かぶ疑問符に回答が見つからない。 国語の応用問題でさえ、模範解答という結果があるというのに。 「・・・が、りゅうが、・・・流河」 不意に肩を叩かれて、意識を取り戻す。 「な、に・・・?」 視界に入るのは、呆れた表情をした月だった。 「零れてる」 月の指差す先には、口内へと届かなかったケーキの欠片が散らばっている。 「あ、ああ、すみません・・・」 少しだけ肩の力を落としたLに代わって、月はテーブルの隅にあった台拭きを手に取り、ケーキのくずを拭き取った。 「流河らしくないな。何かあったのか?」 先刻と同じ問いを返されて、Lは苦笑する。 本当に夜神月という人間は、頭の回転が速い。 「ちょっと考え事をしていたんです」 けれど、それを同じ答えで返すのはつまらないのだ。 「へえ?」 興味なさそうに答えた月が席を立ったのは、その直後だった。 「どちらへ?」 「教えない」 Lの前にある半分残ったケーキを確認した月が笑顔を残して、去って行く。 その背には、もう幻の影も形も無い。 月が、現実に戻っていくのだ。 あなたの進む現実には、面白いものでも見えますか? 問いかけそこねた言葉を繰り返し、Lは冷めた紅茶を飲み干した。 終 |
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2005/05/27 |
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お久しぶりの新作です。 |
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