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忘れ物 |
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てのひらに握り締めた空虚。 それは、どこにも残らずに跡形もなく消えた。 最初からなかったもののように。 頭の中の霧が晴れた。 すっきりとした思考の中で、何か大事なことを忘れていることに気が付いた。 僕は、何を忘れたのだろう? 重い枷が外れたように、はっきりとした意識の中で、一つだけ残った感情がある。 全て忘れたから、その姿を現した。 それは、今最も僕を苦しめる、最大の敵。 「何故、僕はこの感情を持て余すほど抱えていなければならないのか」 その疑問に答えるものは、この世にはいない。 鎖がチャラチャラと、金属音を立てる。 竜崎が朝から何食わぬ顔で黙々とパソコンのキーボードを叩き続けているから。 僕は、今日も『答え』が見つからない。 「どうかしましたか?」 「なんでもないよ」 僕は、パソコンの画面を覗き込んだ。 アルファベットが規則正しく並んでいる。 解読するのは簡単だけど面倒くさい。 「僕にはわからないことが多すぎる」 何気なくぽつりと呟いた言葉。 「夜神くんは、一体何が知りたいのですか?」 竜崎がキーボードを叩く手を止めて顔を上げた。 「・・・竜崎のこと」 「私のことはだれもわからないですよ」 冗談のつもりで言ったことを生真面目に拒絶されて、僕は少し傷ついた。 もちろん、その原因なんてわかりきっている。 どうして、僕が竜崎に拒絶されたからといって、傷つかなければならないのか。 全て、この納得のいかない感情が勝手に暴走しているせいだ。 「キラならわかる?」 とがったナイフはどこまでも貫いていく。 竜崎が追いかけているのは、あくまでもキラという殺人犯。 僕ではないのだ。 「わかりません」 どうすればいいのだろう。 どうすれば近付くことができるのだろう。 僕は近付きたいのだろうか? 側にいることさえ、本当はダメなのではないのだろうか。 持て余している感情は、本当に僕のものなのか? 考えれば考えるほど、見えなくなっていく。 僕は、どうして 『好き』なんだろう・・・? 終 |
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2005/1/25 |
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キラ月の遺物に悩むぴゅあ月。 |
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