不信

 
     
 


「・・・くん」

「・・トくん」

「ライトくん」

何度も呼ぶ声に目を開けない。
手首を取って脈を計る。
顔に頬を近づけて呼吸を確認する。

大丈夫。
生きている。

心臓に触れて、鼓動を確かめる。

まだ1時間。

何度繰り返しても不安ばかりが募る。

生きている。
心配は要らない。
死ぬかもしれない。
有り得ない。

矛盾した疑問を抱え、Lは月が眠るベッドから離れ、パソコンに向かった。



「眠れないんだ」

手錠で繋いだ生活を始めて1週間。
月がポツリと呟いた。

「慣れない生活で緊張しているのでしょう」

それでも、日に日に顔色の悪くなっていく月を心配していなかったわけではない。

「2時間くらいでいいんだ。熟睡したい」

そう望んだ月にLは頷いた。
近いうちに言い出すことをLは待っていたのだ。
一睡もできない状態が1週間もよく続いたものだと、月の精神力に改めて感心する。

「わかりました。薬を用意させましょう」
「ありがとう」

月が笑う。

それは、謀の無い無邪気な笑顔だ。
何度見ても違和感を覚えるのは仕方の無いことなのだろうかと、Lは眉間に皺を寄せた。
嫌悪感に全身を支配される。
本当は、殴り飛ばしてでも以前の偽りの笑顔はどうしたのかと追求したかった。
そんなことをしても『今の月』から何も得ることはできないことくらい、Lは理解していたが、どうしても諦めることはできなかった。

偽物で塗り固められた月だからこそ、強く惹かれたのだと、欲しかったのは、彼ではないと、笑顔を見るたびに思い知る。

Lはワタリが運んできた白い錠剤と水の入ったグラスを月に渡した。

「1錠で約二時間です。副作用の無いものですから安心してください」

月が錠剤を口に含み、水を飲んだ。

「ごめん」

空になったグラスをサイドボードに置いて、月はLを見た。

「何がですか?」
「僕が一人で眠ってしまったら、竜崎はその時間ずっと身動きできないじゃないか」
「慣れています。気にせずに」
「・・・」
「ライトくんが眠っている間はここで届いた資料のチェックをしています。2時間なんてすぐに過ぎてしまいますよ」

Lはノートパソコンと山積みになった書類をベッド脇の床に置いていた。

「・・・ごめん」

もう一度謝罪の言葉を述べると、月はベッドに横になり布団をかぶった。

何をそんなに気にしているのか。
Lには理解できなかった。



時計を見るとすでに3時間の時が流れていた。
薬の効き目はとうに切れている。

(それだけ、気を張っていたということか)

幼さを残す寝顔を見下ろして、Lは月の手を取った。
その指先に口唇を当て、目を閉じる。

(私は、今のおまえが本物だとは信じない)

ベッドを背に、Lは再びパソコンに向かった。













 
 

2004/12/4

 
     
 

ほんの少しだけピュア月(笑)
Lを無性に書きたくなっただけです。
25本目ですって。

 
     
   
     
 

 

 
 
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     

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