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日常 |
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「あなたの考えていることがわかればいいのに」 まるで女のセリフだと、月は思った。 いつものあてのない呟きを拾い上げるほど、月に余裕はなかった。 昨日からずっと1週間後に締切の迫った課題に関する資料を探しているのだ。 もともと興味があったテーマだっただけに、中途半端にはできない。 ここぞとばかりに出来る限り調べつくすつもりで、連日図書館に通いつめていた。 「夜神くんは、私に興味はありませんか?」 何冊かの分厚い本を腕に抱え、月は振り返る。 声が近いと思ってはいたが、こんなに至近距離だとは思わなかった。 Lの目を間近に捉え、月は三歩後ろに下がる。 「興味がないと言えば嘘になるよ」 笑顔で答え、月は手にした本を開いた。 「私は夜神くんに興味があります」 「それは僕をキラだと疑っているからだろう?」 見えない犯人を探すには、まず疑うことから始まる。 その疑いを真実にする為に、証拠を探す。 証拠を手に入れる為に、怪しい者を調べる。 時間と集中力と根気だけが頼りの地道な繰り返しだ。 「夜神くんがキラだから、私は興味がある。もし夜神くんが少しもキラの要素がなければ、私はあなたに興味を持つことはなかったでしょう」 「・・・。僕をキラだと疑わなければ流河は僕と直接会うことはなかった。僕にとってはそっちの方がありがたかったよ」 見詰め合ったまま、月が穏やかな口調で語る言葉にLは口の端を歪めた。 「酷いことを言う」 「どっちが」 月の両手が塞がっているからか、Lは躊躇うことなく口付けた。 今なら抵抗されないと判断したのだろう。 「目は閉じるものでしょう?」 「なぜ?」 手にした本を投げつけてやろうかと思いつつ、月は笑って見せた。 この重さと厚さなら凶器になる。 「夜神くんは負けず嫌いで強情ですね」 「それは流河もじゃないか」 他人の事しか分析しない。 月は全てを見透かすようなLの双眸に映る自分をみた。 例えば、時間をかけて推理してきたこと全てが間違っていたら。 例えば、確信していたことが覆されたら。 Lはどんな表情をするのだろうか。 いつもと変わらぬ無表情で、悔しさを露にするのかもしれない。 Lには子供っぽいところがある。 「本当に、口を塞ぐだけでは事足りないようですね」 いつか。 その時がやってきても。 「冗談じゃない。これ以上邪魔をするなよ」 (僕は側でそれを見ることは出来ない) 「夜神くんは真面目すぎです」 「褒め言葉だね」 背後から抱き締められて、月の動きが止まる。 「・・・。怒らせたいのか?」 「甘えたいのです」 「嘘をついてまで?」 「本気だと言ったら?」 「それこそ嘘だろう?騙されないよ」 Lの溜息が聞こえた。 「・・・ケーキでも食べませんか?」 「流河は人を誘うのがへたくそだね」 月は呆れたように笑った。 終 |
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2004/10/20 |
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え〜と。 |
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