剣先

 
     
     
 

「ここで、何が見えますか?」

Lは月の心臓を指差した。
いつもなんらかの行動を起こすのはLの方で、それはいつも唐突だった。

「何が、見えるだろうか」

月はいつもLの言葉を深く読み取ろうと必死になる。
彼は一体その行動で、自分の何を突き止めようとしているのだろうか。

その言葉が思いつきで出たものなのか、それとも何かを探るために出たものなのか。
そしてその言葉になんと答えれば彼は納得するのだろうか。

考えてはいけないのは、どうすれば怪しまれないですむかということ。

考えれば考えるほど、普通の状態から遠ざかるからだ。
普通の大学生を装うには、考えすぎないことが得策である。

「流河は、何が見える?」

最近、使用頻度が増したのは反問だ。
相手の反応を見たいと思っているのは、お互い様だから。

「誰かの本音」

躊躇いもせず、あっさりと答えた。
それは、まぎれもなく自分に向けられた剣先である。
受けるための盾は、用意していなかった。

「それは、怖いね」

月は答える。
何かを考えても何を工夫しても裏目に出るときは出るからだ。

「怖いですか?」

Lはほんの少し首を傾げる。
本当に疑問に思っているのかは、不明だ。

「怖いよ」

月は答えて微笑う。
怖くない、と思っていてもそれは答えるべきじゃない。

「どうしてですか?」
「本音は誰しも見せたくないものだろう?」

誰もが隠したいことばかりだ。

「後ろ暗いことがあれば」

向けられた剣先はすぅっと月の頬を掠めた。

後ろ暗いこと?
あるわけない。
そんなことは。

「流河もあるだろう?」
「秘密です」

Lは指を唇に当てた。

「それは、あるって答えているのと同じだよ」
「夜神君は?」
「ありすぎるから怖いんだよ」
「正直ですね」
「流河には、隠してもしかたない」
「どうして?」
「隠したって、ばれてしまうからさ。ここから見えているんだろ?」

月はLの心臓を指差す。
見られているはずの本音。
本当なら暴いてみせればいい。

「夜神君はいじわるですね」
「そうかな?」
「そうですよ」


向けられた剣先をかわして、月は満足そうに笑った。





 
 

2004/06/03

 
     
 

思いついたことをおもいついたまま。
私はたまにこんな文章を書きたくなる。

 
     
   
     
 

 

 
 
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     

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