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衝動 |
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春の日差しが心地好い頃。 休講になった講義室の一番後ろの窓際の席で、全てから隠れるように眠っている人を見つけた。 印象深い両の目が閉じているだけで、その表情は幼さを増す。 この瞳が、二度と開かなければいい。 話す声も笑う顔も動く手も。 なにもかも。 執着にも似た感情は、ぐるぐると全身をまきこんで身動きできなくなる。 そんなくだらないことに費やす時間はないというのに。 そう、自分の感情を優先することはくだらないことだ。 何度も繰り返し、戒めた。 惹かれていく自分を自分では止められなくなっていることに、どこかで気がついているにもかかわらず。 貴方がその目で私を捕らえた時、私は貴方を捕らえる事ができるだろうか。 口唇に触れて。 首筋に触れて。 抱き締めて、繋ぎたい。 体の奥から湧き上がってくるもの。 溢れる感情は、とどまることを知らない。 どうすればいいのだろう。 陽に透けて淡く光る茶色の髪に触れた。 同時に携帯が鳴った。 Lは慌ててその指を引っ込めた。 その音を合図に目を開けた月は、2度3度瞬きをして、正面の人影をLと認識した。 「流河・・・?」 驚いたように目を見開き、そのままLの頬に触れた。 「どうしました?」 その指は何かを確認すると、すぐに離れた。 「泣いているのかと思ったんだ。寝ぼけていたのかな」 月は笑い、両手を天に伸ばした。 背筋を逸らせ、なにもいない天井に目配せをしたように見えた。 Lは月の両肩を掴み、自分の方へと引き寄せた。 「な・・・に・・・」 机が邪魔をして抱きしめることはできなかったが、口唇には届いた。 何度も角度を変えて、Lは貪る様に月を求めた。 嫌がるように逃げる月をLは許さなかった。 「・・・っつ」 Lの口唇に血が滲む。 月が噛み付いたのだ。 「なんのあいさつだよ」 不快を露にした目で睨む月をLは見つめ返した。 「夜神くんが目を覚ますから悪いんです」 そう、その目で見ないで欲しい。 両手が鮮血に染まる残酷な想像をして、Lは両手を握り締めた。 目を潰せば、こんな気持ちになることも無い。 「僕のせいにするなよ。それは、流河のものだろう」 Lの心臓を指差し、月は立ち上がった。 「本能に導かれるままに行動されても対応に困るよ」 月は溜息を吐き、隣りの席に置いてあった鞄を肩に掛ける。 「・・・」 もう一度Lを見て、月はあからさまに怪訝な表情をした。 「どうかしましたか?」 「どうかしてるのは流河の方だ」 つきあっていられないとでも言いたげに、月はその場を離れた。 その後姿を視線で追い、Lは立ち上がらなかった。 自分は今、一体どんな表情をしていたのか。 ぽりぽりと後頭部を掻き、Lは窓の外を見た。 いつの間にか薄暗い雲が空を覆い、太陽を隠している。 (本当にどうかしているのかもしれない) 感情に捕らわれて身動きできなくなることだけはあってはならないと、自身を戒めるように繰り返した。 終 |
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2004/07/06 |
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思いつくまま文字を並べるとこうなってしまうといういい例。 |
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