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五行連載・その四 |
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青い空。 白い雲。 そして、前を歩く人影。 一メートルの距離を置いて歩く自分。 これから、どこにむかうのだろうか? 黙ってついて歩く。 話すことなど何もない。 だから、話さない。 けれど、歩いていく。 目的地など、知らないまま。 歩き始めて、1時間ほどたった。 僕がちゃんとついて歩いているのか確かめることもしない。 一度も振り返らずに、ずっと前を歩き続けていた竜崎が立ち止まった。 僕も一緒に立ち止まる 目の前の白いTシャツの猫背な背中がしばらく動かなかった。 時間だけが、過ぎていく。 試されているのか、それともただ単に何かを考えているのか。 背中からでは、何もわからない。 近づこうとは思わなかった。 この距離を保つ事も大事かもしれない。 「月くん」 振り返らずに言う。 沈黙を破ったのは、竜崎だった。 「なに?」 「ここをどこだと思いますか?」 「どこって?」 いま居る場所は、ビルとビルの間の路地。 陽の当たらない、薄暗い場所。 その先には、高速道路へ続く大通りがあるけれど、ここからは見えない。 今目の前の現実の事を聞いているわけじゃないのだろうか? 「月くんは、どこへ向かいたいと思っていますか?」 なかなか答えないでいると、竜崎が振り返った。 まっすぐに見つめてくる両目からは、なにも見えない。 (なにを考えているのだろう?) それは、純粋な興味だった。 「それは、必要なことか?」 目をそらさずに、答える。 目的は、わからない。 簡単に、何かを伝えることはできない。 「純粋な興味です」 竜崎は言う。 同じ事を考えていた。 それを受け取ったとしても答えの選択肢は少ない。 「じゃあ、答える必要はないね」 ここをどこだと思ってもこれからどこへ向かおうと思っても。 それは全て自分自身のものであり、竜崎には、関係ない。 「月くんは何に興味がありますか?」 質問の内容が変わる。 そしてそれもまた竜崎には答える必要のないものだった。 「それは、どうしても答えなければならないのか?」 「純粋な興味です」 再び同じ言葉が返ってきた。 「そんな事に興味を持つ竜崎の思考に興味があると言えなくもない」 まっすぐに見つめ続ける瞳を見つめ返して、口の端を緩める。 目的も何もわからない。 そんな問答に何があるのか。 これから先の行動にどんな制限がかかるのか。 純粋な興味と言う竜崎のその意図がわからない。 「月くん自身に私が個人的に興味があります。それは、私自身にも理由がわかりません」 「僕を疑っているのに?」 「それとは別の場所にある部分です」 「だから、こんなところにやってきたのか?」 人の気配のないビルとビルの間の路地。 「私が考えをまとめたかっただけかもしれませんし単純に月くんと二人きりになりたかっただけかもしれません」 「・・・もう少し答えが出てから話をしたほうがいいんじゃないか?」 思いつきだけの行動に振り回されても対応に困る。 竜崎との距離は保ったほうがいい。 近づかず、離れず。 それを保持する事が今できる事だ。 竜崎がどんな行動に出たとしても。 「それもそうですね」 首を傾げながらもあっさりと認めて、竜崎はホテルに戻りましょうと歩き出した。 今来た道をまっすぐに引き返していく。 その後ろを1メートルの距離を置いて歩く。 青い空と白い雲。 そして、目の前を歩く白いTシャツの猫背の背中。 興味があるとすれば、この目の前に居る存在そのもの。 そして、向かう先は、全てだ。 終 |
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21.11.26〜22.5.16 |
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その四はなんとBBSの |
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