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所在不明な理由  +++++ 5
 すぐに戻ってきたメールの返事に、ほっと安堵の息を吐いて、ベットの上に横になった。さんはどんな顔して、返事をくれたのだろうか?初めてのメールの遣り取りだとも気が付いていない気がする。きっと何時もの楽しそうな顔をして、メールを打ったに違いない。そして、木曜には、久し振りだねーと悪戯めいた笑い顔で言うのだ。
 いつからこんな風に、四六時中彼女のことを考えるようになったんだろう−−。
 遣る瀬なさに、右腕で目を覆った。

 散々悩んだ末にさんに送ったのは簡単なメールで、まあ携帯からなら普通の短さのもの。こういう時、短い用件のみで許される携帯メールの有り難さが身に沁みる。もっと良い誘い文句がある気がして色々打ってはみたけれど、打てば打つほど、何が言いたいか判らないものになってきて、結局、一言で送ってしまった。送った後になって、素っ気なすぎたかと気を揉んで、他のことをしようとしても手に着かない。仕方なく、携帯を玩んでそのまま返事を待ってしまった。すぐに返ってきたから良いものの、梨の礫だったら俺はどうするつもりだったのか。
 一つ溜め息を吐いて、サイドテーブルに携帯を放り出し、白い天井を見上げる。
 先月、映画の帰りに次に会う約束をしそびれてから、彼女に会っていない。しそびれたというより、迷っているうちに別れてしまったというのが本当は正しかったりする。
 彼氏がいると初めて知って、彼氏持ちのさんとこんな毎週のように約束をして良いのか、彼氏に怒られるんじゃないか心配になるのは当然で、という建前の裏で、その時に彼氏より俺の方に傾いているんじゃないかという期待も心のどこかでうっすらしてみた。だけど、それは一瞬の内に砕かれて、さんは気の合う年下の男友達と会ってるとしか認識していないから、彼女自身はなんの杞憂もないのだろうとすぐに解ってしまった。解ってしまったから、何時ものように次の約束を口にすることが出来なかった。
 あの場ではすぐには分からなかったけれど、俺はさんが好きらしい。気に入った、気が合う友人という範疇ではなく、彼氏がいると知るとダメージを受けるくらいに、何時の間にか惚れた腫れたの意味合いで好きになっていた。
 大体、最初からその気はあったよな、と息を小さく落とす。その時、付き合っていた彼女と別れたのも、さんと一緒にいる方が楽しかったのが原因だったと思い返すと、俺にしては遅い認識に、溜息も出ない。さんの年下眼鏡が障害だったんだな。彼女がそういう目で見るから、俺の方もすっかり友人として付き合わなくてはというフィルターが掛かっていた。零れでる感情の端々から、好きだという想いが見え隠れしていたのに。さんに別に好きな人がいると知ってから、気付くなんて本当に参った。

 欲しいんだと気付いてしまったいま、手に入らない彼女を前に今まで通り友人付き合いが出来るか?そう、この一月、自分に何度も問い掛けた。導き出される答えは何時もNOだった。
 今までと同じには付き合えない。些細な行動にも、彼女が欲しい気持ちが溢れでるだろう。
 諦めるか、努力するか。どちらかしかない。
 諦めるのは自分自身の問題で、何時か時間が癒してくれるだろうけど、彼女が振り向いてくれるかどうかは分からない。気付いたばかりの今なら、傷は浅いかもしれない。諦めるなら早いうちだ。
 そう理性は語りかけてくるけど、けれど、諦められるとは思えなかった。
 胸がきりきりと痛むほど、好きなのだ。まるでメロドラマのようだけど、彼女のことを考えると心臓が甘く疼く。そんな想いは初めてで、泣かしたくなくて、笑っていて欲しくて、幸せでいて欲しくて、出来れば、それを全て隣で見ていたい。抱き締めたい。あの髪に触れたい。あの口唇の熱を感じたい。そんな欲望さえ、今まで気が付かない振りをしてきた分、一気に膨れあがって、俺を苛んだ。
 こんなことを考えるようになるなんて苦笑するしかなかった。
 そう言えば、今までこんな風に思い悩むことはなかった気がする。何時ももっと軽い悩みで、苦しいよりも楽しくて仕方なかった。それが苦いばかりで、前途多難は確実で、実るかどうかなんて分からない恋に真剣になるなんて、それでも、彼女なら構わないと思ってしまう重傷さ。彼女の傍にいたい。
 諦めるのか、どうするのか、答えが出た訳ではないけど、さんに会いたくて堪らない。距離を置いたら少しは治まるかと思ったけど、反対に想いが募るだけだった。そして、ふとさんの日常から俺がいなくなるのなんて簡単なことだと気付いたら、もう居ても立ってもいられなかった。
 このまま会わずにいたら、何の接点もない二人だから、二度と会えなくなるかもしれない。もし、貰っている電話もメールも彼女のものでなかったら、彼女と繋がる方法は何もない。
 さんがどこに住んでいるか、俺がどこに住んでいるか互いに教えていない。俺の友人は誰もさんを知らないし、俺もさんの友人を知らない。二人が知り合いだと誰も知らず、このまま二度と会えなくても不思議ではない間柄−−。
 さんと俺とを繋ぐものがどんなに細いのか。そのことに思い当たった時に、呆然とした。
 こんなにどうしたらいいのか分からない程、好きになっているのに、互いの関係は本当にただの行きすがりだったんだと思い知らされる。逢いたいと、メールを出さずにはいられなかった。すれ違わない可能性の方が高かったのに、出会えた大切な偶然をそのまま捨て去ってどうするのか。
 早くさんに逢いたい。逢って彼女の声を聞きたい。彼女は俺のことをそんな風に思ってくれてるのだろうか?
 無性に、さんの笑顔が見たかった−−。

 勢いを付けてベットから起き上がると、レターラックに挟んでおいた前売りを財布に入れた。




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冴木さん悩み中。良い男は苦悩している姿も格好良いので、是非もっと苦悩して欲しいです。この冴木さんが良い男かどうかは置いておいて。
今回、冴木さんが出突っ張りなのは良いのですが……、冴木さんしか出ていなくて良いんだろうか?相変わらず、構成が上手くいきません(涙)。
また長くなってしまったので、途中で分けてしまいました。次はすぐにあげたいと思っていますので、また覗いてやって下さいませ。
                                     20031020

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