『ジングルベ〜ル ジングルべ〜ル 鈴が鳴る〜♪ 今日は〜楽しい〜ユールの日〜♪』
何だか不吉なクリスマスソングを歌いながら、魚っぽい人達がサンタコスチュームを着て町を練り歩く中、僕はみんなに配るクリスマスプレゼントを物色していた。
昨年までは、僕と同じくイブを共に過ごす相手のいない友人達と、「俺は仏教徒だ!」とか負け犬の遠吠えしながらくだを巻くのが常だったんだけど、今年は事情が違っていた。
普段は闇に閉ざされた暗黒世界『ン・カイ』も、今日は少し明るくなっている。オモチャ屋で買った卓上クリスマスツリーが極彩色の光を明滅させて、普段灯り代わりに光る水晶の柱にもモールが飾られていた。
いや、単にいつもの供物を“つぁとぅぐあ”さんに捧げに来ただけだし、別に本格的なパーティーをやるつもりもないけど、どうせなら少し雰囲気でも出そうかと思ったわけで。
“つぁとぅぐあ”さんはいつものようにのんびりと温かく迎えてくれた。“てぃんだろす”は元気に後を付いてくるし、例によって(なぜか)“いたくぁ”さんもいる。
「はい、“つぁとぅぐあ”さんには特大クリスマスケーキです」
「わぁ、ありがとうございますぅ。美味しそうですねぇ」
ウエディングケーキも真っ青の超特大ケーキを、台車で必死に引き摺りながら渡すと、“つぁとぅぐあ”さんはのほほんと喜んで受け取ってくれた。片手で。軽々と。
「えーと、“いたくぁ”さんには高級玉露と湯呑みです。お湯を注ぐと色が変わるやつ」
「……ありがとー……ごぜーますだー……」
“いたくぁ”さんも素直に玉露と湯呑みを受け取ってくれた。喜んでくれるのはこちらも嬉しいけど、無表情のまま踊るのはやめてください。怖いから。
「“てぃんだろす”には、前から欲しがっていた本『漫画わくわくアル・アジフ』初版本だよ」
「わぉん!」
“てぃんだろす”も尻尾をぱたぱた振って飛び付いて、満面の笑顔で僕の顔を舐めてくる。
みんな喜んでくれて何よりだ。
……なぜ人間の僕が神様にプレゼントを送る必要があるのか、少々疑問だけど……
とりあえず、出来合いだけどクリスマスディナーも用意してあるからみんなでご飯にしよう。ちなみに、ケーキやターキー等の食べ物は、各自取り分けてある。バイキング形式だと、“つぁとぅぐあ”さんが全部食べてしまうからだ。
「ケーキ美味しそうですねぇ」
「わん!」
「……チミには……プレゼントのケーキが……あるはずだ……」
「もう全部食べてしまいましたからぁ」
「……はい、僕のあげますよ」
「わぁ、ありがとうございますねぇ」
「……くぅん」
「……人参を……残しちゃダメ……」
「そう言いつつ、僕の皿からチキン取らないで下さい」
しばらく、なごやかな食事が続いていたのだけど、
「そういえばぁ、ひでぼんさんにはプレゼントがありませんねぇ」
“つぁとぅぐあ”さんが、僕に『にへら〜』と笑いかけてくれた。よかった、完全に忘れられたのかと思った。
「それではぁ、ボクからは『恩恵』をぉ――」
「い、いや、それは以前授かったのでお腹一杯です」
「……私からは……禁断の地巡りを……」
「謹んで遠慮します」
「……わぅん、あん、わん!」
“てぃんだろす”はしばらく困った顔をしていたけど、急に僕の背後に回って、肩をぽんぽん叩き出した。
「ははは、どうもありがとう。これで充分だよ」
と、急に“つぁとぅぐあ”さんが僕の方に身を乗り出してきた。たぷんと揺れる爆乳の先端が、コップを取ろうとした僕の手をくすぐる。
「それではぁ、ボクと“いたくぁ”ちゃんからはぁ――」
あの妖艶な眼差しが、僕の魂を射抜いた。それだけで、彼女の快楽に満ちたプレゼントが想像できる。
「……あの……急用を思い出したので……」
この場を逃げ出そうとする“いたくぁ”さんの着物の裾を、がっしり“つぁとぅぐあ”さんは握り締めていた。
いやぁ、それはとっても嬉しいけれど……
「――それじゃ、いつものパターンと同じでしょうがぁ!!」
その時、いきなり闇の洞窟に甲高い声が響いたかと思うと、
「ちぇすとー!!」
どげしっ
いきなり、“つぁとぅぐあ”さんの後頭部に飛び蹴りが炸裂した……って、わー!?
「あうっ……ヒドイですねぇ」
頭をさすりながら、あまり痛くなさそうに頭を上げる“つぁとぅぐあ”さんを、謎の人物が見下ろしていた。
首から下を茶色い薄手のタイツ――いわゆる全身タイツですっぽりと覆い、その上にミニスカサンタコスチュームを着た、気の強そうな極上の美女だった。吊り気味の切れ長の瞳は、Mっ気のある男なら睨まれただけで射精しそうなくらい威厳がある。ウェーブのかかったセミロングの髪は、雪のように純白だ。
しかし、頭から生えた見事な枝角が、彼女もまた人外の存在である事を示していた。
「久しぶりだねぇ、“いほうんでー”ちゃん」
『にへら〜』と片手を上げて挨拶する“つぁとぅぐあ”さんに、その“いほうんでー”という女性は、
「馴れ馴れしく挨拶するな! この食っちゃ寝旧支配者が!!」
スナップの効いた見事な空手チョップを決めてくれた。
「お前とあたしは不倶戴天の敵同士、永遠のライバルなのよ!!」
髪を掴んでガクガク揺する“いほうんでー”さんに対して、
「あぅ〜あぅ〜やめてくださいよぉ〜」
“つぁとぅぐあ”さんは、あまり困ってなさそうな顔で困った声を漏らしている。“てぃんだろす”は、あまりの突発事態に尻尾を立てたまま硬直していた。“いたくぁ”さんは……普段通りだ。
「ちょちょっと、何者ですか? あの物騒なサンタさんは」
「……“いほうんでー”……“つぁとぅぐあ”のライバル……自称だけど……」
「いや、それは話の流れでなんとなくわかりますが」
――以下は、“いたくぁ”さんの解説だ。
昔々、まだムーやアトランティスと呼ばれる大陸があった頃、地上にはヒューペルボリアという大陸が存在していた。
その大陸で国教として信仰されていたのが、ヘラジカの女神『イホウンデー』つまり、彼女だという。しかし、ある魔道師を巡る事件をきっかけに、イホウンデー信仰は廃れて、それに取って代わって広まったのが、“つぁとぅぐあ”さん――ツァトゥグア信仰だった。
つまり、“いほうんでー”さんにとって、“つぁとぅぐあ”さんは自分の縄張りを乗っ取った簒奪者だという事だ。
「……でも、それって単なる逆恨みのような」
「わぅん」
「……人間如きが……誰をどう信仰しようと……私達にとっては……関係の無い話……」
そんな僕達の呟きが聞こえたのか、“いほうんでー”さんは、きーっと歯を剥いて僕達を怒鳴り散らした。
「関係無く無いわよ!! よりによってこんなほえほえぷーな奴に、あたしの信者を乗っ取られるなんて、旧支配者のプライドが許さないわ!!」
「そんな事言われてもぉ……痛たたたたたぁ〜」
“つぁとぅぐあ”さんは、うめぼしぐりぐりされて悶えている。あの方、何されても無抵抗だからなぁ。無論、平気そうだけど。
しばらく彼女は僕が止めるのも聞かずに、“つぁとぅぐあ”さんを苛めていたけど、
「ぜー、ぜー……ふん、そろそろ本番といこうかしら」
何をやっても“つぁとぅぐあ”さんは平然としているので、直接的被害を与えるのは諦めたようだ。むしろ、“いほうんでー”さんの方が疲れてるし。
「さあ、勝負よ“つぁとぅぐあ”! 今度こそあたしが勝つ!!」
「え〜……またやるんですかぁ」
「うるさい! 勝負の内容は――」
“いほうんでー”さんは、びしっと僕を指差した。僕はぎょっとしながら自分を指差して、キョロキョロ辺りを見渡したけど、僕に間違いないようだ。
「あの人間を自分の支配下に置いた方が勝ちよ!!」
高らかに断言してくれた。うわーい。
「うん、いいですよぉ」
あっさり傾く“つぁとぅぐあ”さん。あのー、神々の戦いに僕を巻き込まないで欲しいのですけど……
「先行はあたしね。ふっふっふ、まずはこの人間から信者にして、いずれお前の信者を全て奪ってやるわ」
僕の意思は完全に無視して、“いほうんでー”さんは目の前にずいと接近した。その自信と威厳に満ちた態度は、確かに『神』の名に相応しい雰囲気を醸し出してはいる。
「さあ、お前の願いを言いなさい。どんな願いもかなえてあげるわ!」
「えーと、もうこんな事止めてくれませんか?」
「そう、わかったわ……って、なんじゃそりゃー!?」
“いほうんでー”さんは、信じられないといった表情で、僕の襟首を掴んだ。
「何か叶えたい望みがあるでしょう!? 欲望の無い人間などいないわ!!」
「いや、その辺は全部“つぁとぅぐあ”さんが叶えてくれましたし。特に、今の僕に願いは無いです」
「そんな……」
「あ、“つぁとぅぐあ”さんを苛めるのを止めて欲しいのですが」
「……ダメだ、この人間!」
いきなりダメ人間よばわりされてしまった。忌々しそうに僕の前から去って行く。
「じゃあ、次はボクがぁ……」
“つぁとぅぐあ”さんは、僕の目の前で四つん這いになって、顔を近付けて来た。その透明な優しい眼差しの奥に、この世の全ての快楽を凝縮した淫靡な輝きを見て、僕の魂はあの危険な美しさに一瞬で囚われてしまった。
「ではぁ、いただきまぁす」
気がつくと、僕の下半身は丸出しになっていた。まだ何もしていないのに、“つぁとぅぐあ”さんの媚薬のような体臭だけで、僕のペニスは半ばそそり立っている。
“つぁとぅぐあ”さんの紅く濡れた唇をゆっくりと割り、唾液の糸を引きながら、腐肉のように柔らかく熱い舌が、ねっとりと現れた。長く伸びた舌先から唾液が垂れて、ペニスの先端をてらてらと濡らす。
「はむぅ」
次の瞬間、僕の怒張は根元まで咥え込まれた。
まるで稲妻に打たれたような衝撃が股間を走った。熱い唾液を柔らかい舌がペニスごとかき回し、蠢く咥肉が断続的に締め付ける。冷たい歯が優しくカリや竿を甘噛みする度に、快感の鐘が頭の中を打ち鳴らした。まるでペニスが熱い口の中でドロドロに溶けてしまったようだ。
喉の奥からズルリと抜かれたペニスは、ビクビク震えながら固くそそり立っていた。
「うふふぅ……ボク、これ好きですよぉ」
彼女の唾液と僕の先走り汁で、まるでローションを塗ったようにヌルヌルになったペニスの先端を、“つぁとぅぐあ”さんの繊細な指先がゆっくりと撫で回す。躊躇う事無く伸ばされた淫舌がシャフトを這い、陰毛を絡め取り、陰嚢を口に食む。魔王のように美しい女神にとっては屈辱的と言える奉仕に、僕は白熱化した思考のどこかで、サディスティックな快楽を覚えた。
「……“つぁとぅぐあ”さん……そ、そろそろ……」
「はぁい……では、そろそろぉ」
“つぁとぅぐあ”さんが妖艶に微笑みながら、身を乗り出してきた。あの豊満過ぎる爆乳をぎゅっと抱えて、
「うふふぅ」
「――っ!?」
真上から僕のペニスを、合わさった爆乳の谷間に垂直に挿入したんだ。
魔法のように柔らかな乳房が僕のペニスに吸い付き、まるでペニスが乳肉と一体化してしまったみたいだ。
快楽のあまり自然にピストンしてしまうペニスを、あの恐るべき魔乳は完全に包み込んでいる。そのまま“つぁとぅぐあ”さんの手が自分の乳房を左右から揉みしだく度に、波打つ振動がペニスに伝わって、更なる快感を与えてくれた。
そして――
「ううっ!!」
「やぁん……ふふふぅ」
信じられないくらい大量に射精したザーメンが、爆乳の間から溢れ出る。“つぁとぅぐあ”さんは乳房を抱きかかえると、谷間から滲み出る白い粘液を、舌でぴちゃぴちゃと舐めすすった――
「……はっ!?」
ふと気がつくと、快楽の余韻から覚めた僕を、信じられないものを見たように吊り目を見開いた“いほうんでー”さんと、顔を真っ赤にした“てぃんだろす”を抱えた感情の読めない“いたくぁ”さんが、じっと見つめていた。
うう、さすがにこれは恥ずかしい……
でも、“つぁとぅぐあ”さんは相変わらず『にへら〜』と笑って、
「満足してもらえましたかぁ?」
「はい、大変満足しました」
深々と御辞儀してくれた。はずみで僕も御辞儀してしまう。
「ななななななにをやってるのよお前達はぁ!?」
数瞬後、あっけにとられていたらしい“いほうんでー”さんは、激昂して僕達に怒鳴りつけてきた。
「でもぉ、これでボクの勝ちですねぇ」
「そんなの認められるわけないでしょ!!」
「えぇ〜……それじゃぁ」
“つぁとぅぐあ”さんの瞳に、再び魔性の輝きが宿った。ざわざわと、周囲に何かが蠢く気配がする。
「きゃっ!?」
悲鳴を漏らした“いほうんでー”さんの手に絡みついた物――それは、“つぁとぅぐあ”さんの美しく、そして途方も無く長い髪の毛だった。艶やかな髪の毛は意志があるように動き、“いほうんでー”さんの四肢を雁字搦めに拘束している。
「え? ちょ、ちょっと……やぁん!!」
そして、髪の束がしゅるしゅると伸びては、彼女のサンタ服の袖口や襟、ミニスカートの中に潜り込んで、
「きゃぅうっ! そんなところぉ! だ、ダメぇ……ひゃあん!!」
“いほうんでー”さんの身体を直接愛撫しているようだった。いや、服越しなので外からよくわからないから推測だけど。
「みんながぁ…み、見てるのにぃ! だめ、ダメぇ! ひゃうっ…イク! イっちゃうぅぅ!!」
全身をわななかせ、涙を流しながら悶える“いほうんでー”さんは、やがてビクビクッと身体を硬直させて……ぐったりと動かなくなった。
「……はぁはぁ」
数分後、ようやく意識を取り戻した“いほうんでー”さんは、よろよろと起きあがると、
「……なんて事すんのよぉ!! バカバカバカぁ!!」
真っ赤な顔で“つぁとぅぐあ”さんに吼えたてた。
「えぇ〜……昔はよくこうしていたじゃないですかぁ」
「うるさい!! き、今日の所はこのくらいにしておいてあげる。首を洗って待っていなさい!!」
「ばいばぁい……また遊びに来て下さいねぇ」
泣きながら闇の中に消えて行く女神様を、“つぁとぅぐあ”さんはのんびり手を振って見送っていた。
……ふぅ、よくわからないけど、何とかなったみたいだ。
「それじゃ、食事の続きをしましょうか」
そう“つぁとぅぐあ”さんに保して、食卓の方に振り返ると――
「あら、帰ったの?」
「…………」
“いたくぁ”さんと“てぃんだろす”の他に、2人の女性が僕と“つぁとぅぐあ”さんの席に座って、勝手に食事を食べていた。
1人は、闇より暗い漆黒のロングストレートヘアーに、髪と等しい色の黒いセーラー服を着た、身震いするくらい妖しい美女。
もう1人は、泉の中に立つように、床に灰色のフレアスカートを広げたゴシックロリータな銀髪の超絶美少女だ。
「あぁ、“あとらっく=なちゃ”ちゃんと“あぶほーす”ちゃんも来てくれたんですねぇ」
“つぁとぅぐあ”さんは嬉しそうだ。おそらく友達か誰かなのだろう。
「何か面白そうな気配がしたから、深淵の橋作りは休憩して、ちょっと遊びに来てみたの」
“あとらっく=なちゃ”さんは黒髪の陰で冷たく微笑み、
「…………」
“あぶほーす”さんは灰色の美貌を崩さず黙々と食べている。
よくわからないけど、ゲストも来たみたいだし、パーティーを再開するとしよう。もっと食べ物を追加で持ってこようかな。
こうして、僕の奇妙なクリスマスパーティーは、穏やかな混沌の中で進行していったのだった……