百均事情



サプリメント
サングラス
CD−R


「おっ、新製品。」


流通経路不明な有名メーカーの洗顔剤
黒く細い金網で編まれたペン立て


「そういえば、そろそろ底をつくな。」


厚めのノート数冊
徳用のシャーペンの芯


「さて次は・・・」



「・・・乾先輩。」



パック詰めの粉末青汁を乾が手提げの籠へと入れようとした途端、後ろから非難の声が地を這うように低く響く。


「ん?どうした、海堂?」


後ろを向くと、眉間のシワが只今療養中である青学最強の男を彷彿とさせるような表情を惜しげもなく披露する海堂が、乾を呆れ半分で睨んでいた。


「今日、コーヒーフィルターが切れたから来たんスよね・・・・」

「あぁ、そうだけど?」


「それで、アンタ、今日、いくら持って来たんスか?」

「う〜ん・・・確か2140円・・・」


とぼけたような乾の返答をみなまで言わせないように、ドサッという音が海堂の足元から盛大に聞こえる。




「明らかに金額オーバーしてるだろうがっ!!」



床に置かれた籠の中には数十個以上の商品が所狭しと詰め込まれている。


「先輩が今持ってるのは二つ目の籠なこと忘れてたみたいっスね・・・」


ジトリ、と睨みを効かせて乾に返答を求める。

乾が集中しすぎたためにしでかした失態。

これに対しての弁明は、どんなケースでも海堂には焼け石に水なのはデータ収集済み。

乾には頭を掻きながら苦笑を浮かべた口元を海堂の返答にあてる他なかった。

ちなみに、只今二人が買い物をしているのは乾の自宅近くの『百円均一』の大手チェーン店。

また、この辺りで唯一、無漂白のペーパーフィルターが置いてある店でもある。

だが、全商品が百円とはいえ、乾が籠に押し込んだ商品の量はどう見ても所持金の数倍は下らない。


「ははは・・・」

「『ははは』じゃねぇ・・・」


最後には笑って誤魔化そうとする乾に、海堂は呆れ果てたため息を吐き出すことしか出来なかった。

付き合い始めると相手の予想外な癖を見つけることも少なくない。
海堂もその例に漏れることなく乾の予想外な癖の一つを垣間見ることとなってしまった。
乾は例外なく、百円ショップに来ると後先考えずに商品をかごに入れてしまう。

どうやら、一個百円という価格と豊富な商品が乾をそうさせるらしい。
最も、海堂には理解しがたい事実なのだが。


「アンタ、またかよ・・・」

「うん。」

「前にも注意しただろうがっ!百円だって、集めりゃ馬鹿にならない金額になるって!!」

「うん・・・」


乾の言葉だけ書き出しているだけなら謝罪しているように取れるが、彼の口調に反省の色はない。


「で、どうするんスか、ソレ。」


乾の財布からでは絶対に買い取れない商品の山を指し示す。

乾がどんなに頭を掻こうが、笑って誤魔化そうが、その事実は覆えせない。


「う〜ん・・・海堂から金借りるわけいかないしなぁ・・・」

「先輩・・・」


前回一緒に来たときと全く同じ返答をする乾に海堂はますます肩を落とす。
目前の知人には『懲りる』という言葉がないのか、と頭を抱えたくなってくる。


「あ、そうだ。」


乾はおもむろに携帯電話を取り出した。
そして、親指をせわしなく動かし、何か操作をし始める。
海堂が不審に思っていると、小さな画面と格闘していた乾が突然顔をあげる。


「海堂、ちょっと籠を見ててくれないか?すぐ戻るから。」

「・・・どこ行くんスか?」


海堂の頭を嫌な予感が通り過ぎていく。
できれば思い過ごしになってくれればいいのだが・・・


「今調べたんだけどさ、この近くに銀行のATMがあるみたいだから、金卸して来るよ。」


『知らなかったなぁ・・・調べてよかったよ』と言い残し、乾は海堂に背を向けて店の出口に足を進める。

が、



「予感的中かよ・・・」



さらに低く唸るような声が乾の背を震わせた。


「か、海堂・・・?」


海堂のあまりの声の低さに驚いて、乾が振り返る。
そこには俯いたまま肩を震わす海堂の姿があった。

乾の中でけたたましく警報が鳴り響く。
海堂が怒鳴らずに淡々と怒りを表すのは酷く珍しい。
このような場合、最低でも一週間は口を聞いてもらえなくなる、と乾のデータが警告を鳴らす。

下手をすれば、来週に控えている久方ぶりの休日の予定に悪影響を及ぼしかねない。
海堂の機嫌を一刻も早く上昇させなければ。
だが、今回は乾のデータでも海堂の怒りの原因の見当が全くつかない。
ので、今の海堂にどうアプローチすれば良いか全く判らない。
だが、放っておけば事態の悪化は絶対に免れない。
打開の突破口を探すため、とりあえず海堂の心境を雄弁に映し出しているはずの顔を覗き込もうとした。
その瞬間、海堂は落としたかごと共に乾の手の中の籠を奪うように取り、ずんずんと乾に背を向け離れていく。
突然の海堂の行動に暫く呆気に取られている乾を残し、海堂はさらに足を速めていく。
いくつも並んでいる商品棚が途切れ、少し広めのスペースに辿りつく頃、やっと我に返った乾がやっと海堂に追いついた。


「海堂、何処行くんだ!?」

一言も喋らずに黙々と歩いていく海堂を乾は必死で止めようとする。
だが、そんな乾を尻目に海堂の足は速度を上げていく。


「なぁ、海堂っ、うわぁっ!!」


突然、海堂の足が止まった。

目だけで海堂の行動を確認するしかなかった乾は反応が遅れてしまい、不本意にも前のめりになってしまう。
倒れそうになっている乾に見向きもせず、海堂は目前にある少し広く空いているディスプレイ用の机の上に、二つの籠の中身をすべてぶちまけた。


「海堂、なにするんだっ!?」


新品の商品に傷でも付いてしまったら、店員に何を言われても文句は言えない。
まして、まだ購入していない商品たちを無下に扱うのは尚更だ。

乾は焦って海堂を止めようとした。


が、


「コレ、先輩の部屋に掛けとく所ねぇからいらないっスね。」


ばらかまれた商品の中から紐と錨をモチーフにした壁飾りを空のかごに入れる。
乾が興味本意で籠に入れたものの1つである。


「あ、あぁ・・・」

確かに乾の部屋の壁は住人の覚え書きだらけで目も当てられないくらい黒くなっている。
手のひらサイズの壁飾りすら掛けられるスペースは存在していない。


「それに、この網のペン立て、何に使うんスか?」


今度は先程入れた黒い網の小物入れを指し示す。

シンプルではあるが、よくよく考えると、乾の机の上にはもうすでに満杯になっている大ぶりなペン立てが鎮座していて、どこにも置くスペースも無ければ、移し変えられる容積も無い。


「・・・ただ、入れてみただけ・・・」


海堂の詰問に押され、仕方なく本音をいう乾。

こうなったら、心の中で両手を挙げるしかない。


「じゃあ、要らないっスね。」


壁飾りを入れたかごの中にペン立てが追加される。
そうして次々と乾に確認を取りながら海堂が作業を始めて十数分後。
大仕事をやり終えたかのように清々しい表情を浮かべる海堂と、横でずれてもいない眼鏡を直しながら苦笑いしかすることの出来ない乾。
二人の目前には完全に必要なものと不必要なものとに適切に分別した商品の山が積み立てられていた。
壁飾りやペン立てを入れた籠はものの見事に商品で膨れ上がっている。
それに引き換え、隣に置かれていたかごには先程入れたCD−Rと流通経路不明な有名メーカーの洗顔剤、厚めのノート数冊に徳用のシャーペンの芯とコーヒーフィルター。
どちらが乾に必要な商品群なのはどちらであるのか一目同然である。


「海堂・・・いくらなんでも・・・」


大部分の商品を返品扱いにされ、意気消沈の乾が力無く海堂に抗議する。


「アンタ、今月はパソコン買って金欠だって言ってたじゃねェかっ!!」

「ま、まぁ、確かに・・・」


月の始めに格安で購入した最新モデルの購入額が乾の懐具合を圧迫しているのはれっきとした事実。
三日前にうっかり口を滑らしたのを思い出す。



「食費に被害出て倒れても知らねぇっ!!!」

そう捨て台詞を吐きながら、海堂は籠を持って一直線にレジへと向かう。
乾はそんな海堂の背を眺めながら綻ぶ口元を止めることが出来なかった。


昔から欲しいものを手に入れるために食費を削ったために倒れることを乾は止められない。


これも乾の困った癖のひとつである。
海堂と付き合い出してからもその傾向を正すことは出来なかった。
そのたびに雷を落としながらも心配そうな顔で看病する海堂への罪悪感は有り余るくらい乾の思考を占拠する。
だが、乾の想像するよりも数倍、いや数十倍も海堂は乾の体調について心配してくれているらしい。

不器用ではあるが優しさに溢れた海堂の行動を素早くデータに書き加えながら、今後の懐事情の運営改革を心に誓いながら乾は商品の代金を支払うため、海堂の元へと急いで歩み寄った。



END






へたれ乾さん大爆発・・・《汗》
こしかも海堂君が男前な妻になっている・・・

あれぇ〜?

いいのか?これで・・・?

ちなみに、これは私の実体験(苦笑)
どうしても買っちゃうんだよねぇ〜



ここまで読んでいただいてどうもありがとうございました。
ブラウザのバックでお帰りください。

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