「なあ、スサノオのおっさん。巫女様さぁ、一体何をやってんの?」

「今は多分、大蛇様に祈りを捧げている。」

「・・・また? 熱心だなぁ、巫女様は。って、俺も祈ってこないとな・・・イズモがうるさいし。でも、巫女様の場合はやりすぎじゃないかなぁ・・・」

オールド大陸東部・大蛇城。その中庭の階段に座り込んでいた妖術師のような身なりの少年は、姑のような性格をしたあの君主護衛を思い出す。怒らせると、色々な意味でとんでもなく恐ろしいあの男。

「幽災、お前もさっさと祈りに行け。」

中庭の中央にて、大きな二本の長刀をひたすらに振り回している大男。蛇の絵が描いてある鎧に、背中に担いでいる、数え切れない程の武器、武器、武器。更にその無骨な顔つき。また、外見に違わず中味もとことん無愛想に出来ているこの男は、今は自分の修行の事で頭が一杯のようだ。

 

だーめだ、こりゃ。

 

幽災は内心でぼそりと呟き、スサノオに背を向けた。この男は自分の姿など見ていない。今近づいたら、体を二つにされてしまいそうだ。

人間ってのはどうしても、自分の好きなことを始めると、周りが見えなくなってしまうらしい。

 

それ以前にまず、人が通らないとはいえ中庭で真剣を振り回すのは止めて欲しいのだが。

・・・今言っても恐らく男の耳には届くまい。

溜息をついた後、幽災は消えるようにその場を離れた。

 

 

 

大蛇城は広い。

アマテラスがいる部屋まで行かなければならないのだが、新入りでまだこの城の事をよく知らない幽災は、瞬く間に迷ってしまった。

「・・・あれ?」

ここは一体何処なのだろう。一階なのか二階なのか三階なのか・・・

大蛇城内であることは確かなのだが、何か違うような気がする。

 

・・・何なんだ? 此処・・・

 

気が付くと目の前には大きな扉。その大きな扉には、大きな大蛇の絵。

はっきり言って下手な絵だ。

絵の具らしきもので塗ってあるその大蛇絵は、所々はみ出ていたり、目の位置がおかしかったり。

・・・描いた人物の努力は伺える。

 

巫女様の私室か?

・・・いや、いくら何でもそれはあるまい・・・

 

アマテラスは家事全般が苦手・・・だという噂は色々な場所で耳にするが、絵も下手だとは限らない。

しかし、部屋の入り口にまで大蛇の絵を描くような大蛇狂信者は、幽災の記憶の限りではアマテラスくらいなものだが。

 

違うとしたら、誰の部屋だ?

 

「おや? 幽災ではありませんか、何をしているのです?」

「・・・あっ・・・巫女様!」

噂をすれば影、とはよく言ったものだ。

ゆっくりと歩いて――――と言うよりは、浮いて――――こちらにやって来るのは、白い服を身に纏った、何処か抜けている印象のある女。

自らの主人・アマテラス。彼女が廊下にいる、という事は祈祷が終わってしまったということだ。自分は祈祷をすっぽかしたことになる。

ならばあの姑男は、今頃はきっと自分を探しているだろう。

説教をするために。

 

「私の部屋に何か用ですか?」

「す、すみません、俺、道に迷って・・・祈祷に行けなくて・・・」

・・・? 今、大事な事を聞き流した気がする・・・

「あぁ、迷ってしまったのですか。ここは広いですからね。人間誰しも、知らない場所へ来た時は迷うものです。そうだ、ここまで来たのですから、お茶でもどうです?」

・・・お茶?

何処で?

怪訝な顔をする幽災に、アマテラスは微笑み。

「こちらが私の部屋です。どうぞ。」

何ぃ――――――――!!?

「この絵に驚きましたか? 私、努力して描いたのですが、上手い下手がよく分からないもので・・・」

「え・・・いえ・・・え、上手いですよ。」

大蛇狂信者――――もとい大蛇教の偉大なる巫女アマテラスの事である。下手だなどと言ったら、『うーん、そうですか。それでは、今すぐ上手に描き直しましょう。大蛇様に失礼ですからね。幽災、描き直しに協力して頂けますか?』などと言われそうな気がする。

そんな幽災の思いを知ってか知らずか、アマテラスはやはりにっこりと微笑み。

「では、開けますよ。」

扉に触れ、目を瞑り、小さく何かを呟き始めた。

嫌な予感がするのは果たして気のせいだろうか。

 

 

 

「スサノオ、幽災を見ませんでしたか?」

同時刻、中庭で飽きもせずに長刀を振り回し続ける大男に、声を掛けている優男。

「スサノオ? 聞いているのですか?」

「・・・イズモ。」

「はい。」

「・・・黙っていろ。」

声は聞こえているようだ。が、内容を読み取っている気配はない。スサノオはただ、無表情で刀を振り回している。

優男―――――イズモはやれやれと頭を振り、立ち上がった。

「幽災・・・結局祈りに来なかったですね・・・。まったく、あの者はいつもこうだ・・・」

溜息と同時にぼそりと呟くと、イズモは中庭を後にした。

つい先程この場所で、自らが探している人物が、同じ様に溜息をついていたのを彼は知らない。

 

 

 

「・・・巫女様?」

思わず幽災は呟く。茶の葉を取ってきますと言い残してアマテラスが手にしてきた物は、明らかに茶の葉ではない。

まず葉の色が白い時点で、それを疑って欲しいのだが、白い茶というのも、自分が知らないだけで、本当は存在するのかもしれない。

非常に失礼な物言いだが、アマテラスの部屋なのだから、何があったとしてもおかしくはないのだ。

「幽災、茶の葉とはこれでよろしいのですか?」

「いや、俺に聞かれても、分からないんですけど・・・」

「これ、お茶・・・ですよね?」

「・・・巫女様・・・」

その白い粉末が一体何なのか、むしろこちらが知りたい。

 

覚悟は決めたはずなのに、とてつもなくこの部屋から出たい気分になってきた。

今すぐこの部屋から逃げろと、本能が囁き始めている。

だが、今日は結局祈りに行けなかった為、イズモに見つかったら確実に怒鳴り散らしてくるであろう。

とりあえず今は、この部屋が安全地帯である。

・・・はずなのだが。

 

気を静める為に、息をつき、部屋を見渡す。

入室した時には、普通の部屋に見えたのだが、それは整理がきっちりしてあっただけで、先程感じた嫌な予感はしっかりと当たり。

大蛇についての文献類が本棚にはずらり。呪術書の類の物もある。

その隅に、『蛇の正しい飼い方』などという書物があったことなど、この際どうでもいい。

「幽災、どうぞ。」

「・・・あ、どうも、ありがとうございます・・・」

気が付くと、既にアマテラスが茶らしき物を入れ、目の前に出していた。

無色透明である所を見るに、結局先程の白い粉末で作ったようだ。

臭いを嗅ぐ。強烈な臭いがした。

また、茶碗の底やら壁面やら、液体の触れている部分全体からたち出ている泡は一体何なのか。

心なしか、茶碗が溶けている様に見えるのは気のせいだろうか。少なくともこれだけは断言出来る。

 

―――――これは茶じゃない・・・!!!

 

しかし幽災の思いとは裏腹に、アマテラスはその液体が入った茶碗に手を掛けた。

「私も頂きましょう。」

「あ・・・巫女様・・・あの」

その時。

「熱・・・!」

アマテラスが茶――――とはとても信じ難い――――を自らの掌に零した。

 

しゅぅぅぅ・・・

 

「巫女様、大丈夫ですか!?」

「ええ・・・」

嫌な音がした。とても嫌な音がした。

よっぽど熱い御茶のようで、きっと火傷をしてしまったのだろう。

今の音が、只の火傷の音であることを信じたい。

危険薬物が手にかかって溶けた音だなどとは、自分は決して信じない。決して。

「大丈夫ですよ、幽災。」

アマテラスはにっこりと微笑む。

・・・おかしい。

火傷であるにしろそうでないにしろ痛いはずなのだが、痛みを我慢しているとは思えない笑顔。何を考えているのか全く分からない。

アマテラスは基本的には嘘をつかない性格なのだが、彼女が何を考えているのか、詳しい事を読み取る事が、幽災は未だ一度も出来ていない。

それが出来る人が本当にいるのか、少々疑問ではあるが。

彼女の掌を見た。何の跡も残ってはいない。確かに茶・・・であると思われる液体がかかったはずなのに。

 

何かの呪術か!?

 

・・・待て待て待て。元々火傷も何もなかったのかもしれない。

彼が心を落ち着かせ、アマテラスを見たその時、思考は中断された。

死神が、ついに彼を捕捉した。

 

「祈りをすっぽかして・・・アマテラス様の部屋に上がり込んで・・・茶など出させて・・・火傷をさせる、ですか・・・幽災。」

特徴のあるさっぱりした声。個性的な口調。アマテラスには聞こえていないようであったが、幽災の耳にははっきりと聞こえた。

大蛇城警備隊隊員・イズモが部屋の入り口に立っていた。その体に殺気を漲らせて。

「・・・あ・・・!」

「おや、イズモ、どうかしましたか?」

「いえいえ、アマテラス様、幽災を貸して頂きたく存じます。」

(!!! 何ぃっ・・・!!!)

「あら、そういうことですか。構いませんよ。」

(そんなっ!!!)

「・・・では。幽災、少し手伝ってもらいたい事がありますので、こちらに。」

彼は自らの口元を扇子で隠しながら、にこにこ顔で言い放つ。

「では、頑張ってらっしゃい、幽災。」

何も気付いていないようで、微笑みながら手を振る巫女。

助けてと叫びたいのに、声が出ない。

後ろから送られてくる笑顔の殺気が、彼の口を回らなくしていた。

「ではアマテラス様、失礼致しました。」

少年は、にっこりと笑う男に引き摺られるようにして、部屋を出た。

 

 

 

翌日。

 

スサノオは、相変わらず二本の長刀を持ち、中庭を訪れていた。

普段と変わりない朝日が差し込み、普段と変わらない広い庭があるだけだ。

・・・だが。

「む?」

人気が全くと言っていいほど感じられない大蛇城中庭の中央部に、赤い水溜まりがあった。

それは普通ならば、誰でもおかしいと思うものだが。

(・・・またか)

スサノオは内心で呟く。おそらくあの二人だ・・・というよりも、あの二人以外には考えられない。

自分と同じ警備隊の男と、皮肉屋の少年呪術師の事を思い出す。

溜息をついた後、気にも止めずにスサノオは素振りを始めた。

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

<ろごもうしゃん様のコメント>

あー・・・こんなの送ってしまってよかったのでしょうか・・・(泣

幽災メインで、アマ幽気味? 何か違いますが。

幽災はアマテラスにだけは遠慮しているようなので、こんな書き方をしましたが。

幽災の性格が反映できていない上に、アマテラスの天然ボケもうまく発動(ぉぃ)してません。

もっと努力しないと駄目駄目ですね・・・

 

異常なほど下手な駄文ですが、受け取って頂ければ幸いです。

ともあれ、2000HITおめでとうございましたー!

 

 



2000ヒット祝いにろごもうしゃん様に頂きました!!
モバフの皆さん勢ぞろいでモバフ好きの私としてはにやけが止まりません!!
それぞれ特徴でて生き生きしていらっしゃいますし、もう感激です〜!!
得体の知れない茶(!?)を出すアマテラスが!
アマテラスに振り回されイズモにお仕置きくらっている幽災が!!
鬼姑なイズモが!!!
何より不審な血だまりがあっても全く動じていない傍観者なスサノオが!!!!
ああ、アマテラス確かに家事苦手そう、扉に絵も描いていそうとツボ突かれながら思いっきり頷いていました。
天然ボケの可愛さにツボを突かれながら、白い粉の正体や何故無事だったのかを考えると底知れなさを感じますアマテラス様。
幽災もあのメンバーの中では普通な反応で可愛いです。
ひきつった顔の幽災が想像できてもう!!
イズモって手加減しなそうですもんね〜。
そのイズモは怒りつつ笑顔という、まさしく自分にとってのイズモ像でますます頬の筋肉緩みっぱなしです。
もうこのイズモ最高ですよ!
渋いスサノオもまた素敵です。
血だまりが出来るほど流血してるんだから少しは気に止めたれ幽災の事(爆笑)!!
これが日常風景なんですね…モバフ…行ってみたい恐ろしい国!!(ガ○スの○面風に)

ろごもうしゃん様、素敵な小説を本当にありがとうございました!!
有頂天になって無双狂喜乱舞しております!


ろごもうしゃん様のサイトは「こちら」です。


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