「ど、どうして、すすすすっ裸なの!?」
「おまえを待っていたからにきまってるだろ!」
「なんでそこでキレるのよ!」
 逆ギレする浩平に留美はツッコミを入れた後、ため息をつく。
「OK。わかったわ浩平」
 眉をしかめながらも懸命に冷静になろうとする乙女(候補)は、視線を浩平のアレをチラチラみながらも状況把握を試みる。
 落ち着けあたし、と呟きながら手を顔にあて、冷静だというポーズを作ってみせる。
「えっと、ここは浩平の部屋よね?」
「ああ」
「そして、あたしはあんたを起こしに来た」
「らしいな」
「だけど、あんたは……」
 フルフルと全身を震わせ、顔には遠慮なく青筋を立て、浩平のアレに向かって指を突き出す。ご自慢のツインテールは、重力に逆らうがごとく天井を向いている。
「なんで、フル○ン(乙女(候補)なんで18禁でも、ね?)なのよおぉぉぉー!」





"永遠の在処"
yhoshiwo





 それは、いつもと変わらない平和な日々。
 鳥の鳴き声が晴れた空にこだまし、一日の疲れに侵されていない新鮮で澄んだ空気が町を包む。
 往来する人々は眠気の覚めない表情で会社や学校へと足を進め、主婦は清々したような表情を浮かべながらゴミを捨てる。
 そんなどこにでもありそうな平凡な朝の中、キチンと支度をして家を出てきた女の子。
 いつものように彼氏を起こしに行こうとする彼女の心は、空のように高く神聖で、海の凪ように穏やかで優しかった。

 今日はあいつからキスをねだってくれないかな、という期待と、それを想像して覚えたくすぐったい恥ずかしさを胸に秘め、貰った合鍵で家に入る。
 一階には誰もいないことを知りながらも、小さな声で「おはよう」と呟き、靴を脱ぐ。
 十分に手入れをしてある自分の靴を、彼氏のそれに寄り添わせるように並べ、二階に上る。
 トントンと、階段を上がるリズムで胸が鼓動するのが嬉しい。
 あいつを起してから学校に行くだけなのに、どうしてこんなにドキドキしているのだろう。
 そう思いながらも、弾むような気持ちは隠せない。

 最後の身支度をする為に、彼氏のいるドアの前で立ち止まる。手鏡で笑顔を確認し、前髪を軽く整える。
 スカートはひざ上から数センチという、お気に入りのラインであることを確認する。
 こんなことをしているとあいつが知ったら、馬鹿にされるかな、なんて思いながら、声が通るように軽く咳払いをしてみる。
 だけど、それはあんたのためなんだからね、と自分で弁解しながら頬を赤らめてしまう。健気な彼女。

 準備が完了すると、心の中で「よしっ」という言葉をかけ、彼氏のいるドアを緊張の面持ちでそうっと開ける。
 すると、女の子の王子様は────

「ベッドの上で、フルチソで仁王立ちをしていた、と」
「冷静に言うなぁー!」
 留美がベッドへと駆け上がりドロップキックをかけると、浩平は、「ぐはぁ」と言いながらよろけ、壁にぶつかった。
「な、なんだよいきなり! 痛てえじゃねえか!」
 センチメンタルグラフティーの原画イメージとちっとも同じでないゲーム版へ向けた、あの秋葉原級に強烈でありながら絶望的な怒りを留美にぶつける。
「あんたねえぇ〜 なんて格好しているのよ!」
 最初は恥ずかしかったのに、クラブの雰囲気にあてられてか、最後の方はノリノリで覚えたパラパラのフリだったのに、翌日行ってみると別バージョンになっていて一から覚え直しの、あの理不尽で絶望的な怒りを浩平にぶつける。
「あのな、俺が理由もなくこんな格好していると思うか?」
「思う」
「ま、まあ、待てよ、マイハニー」
 いつのまにかかけられていたヘッドロックを懸命に外そうと試みるが、留美の怨念のようなそれに叶うはずがないと観念し、留美の右肩を軽く叩いて降参する。
「ったく」
 留美も甘いもので、そんな浩平から腕を外すと、浩平の顔を両手で触れて訊く。
「で、どうしてそんな格好なの?」
 その真剣な表情に、浩平は少しだけ笑いながら言う。
「それを答える前に──おはよう、留美」
 しっとりとした髪に彼氏の指が触れる。
 あれだけ時間をかけてセットしたはずなのに喜ぶ留美。ほどかれることを望んだプレゼントのリボンのように触れてほしい。そんなことを考えながら、目を閉じていく。
 二人は唇を合わす。朝のキスににしては少しだけ密度の高いキス。
 留美はせかすように動く浩平の舌を、少しずつ受け容れていく。
 ──ああ。どうして最初からこんなふうにできないのだろう。
 そんなことを思いながら、浩平の舌に自分のそれを這わせていった。



☆ミ



「で、どういうことなのかなぁ?」
 親密なキスの時間の中で閉ざしていた目を開けてみると、現実はひどく冷めていた。思わずチチブデンキの売り上げの大半を占めると噂されるおでん缶を一気に食べたくなるような気持ちに、留美は今度は焼き鳥缶を食べてみたい、とあさっての事を考えた。
「ああ、これはな」
 腰に手をあて、自慢するようにご子息を可憐な乙女に見せつける若者と書いてチャレンジャー。
「ちょ、ちょっと」
 赤面しながらもつい、男性のシンボリックなストゥーパ(塔)を見て拝謁してしまう、少女と書いて処女にかけるという、激太りした長渕のような顔をしている(もっとも本人は長渕にカブされたと思っているだろうが)某TUBEのボーカルさんのようにテレてしまう留美。自分がとっくに卒業している世界を懐かしむように思ったかどうかはわかんね。
 浩平は、議長席に向かって走り、マイクをむしり取って採決をさせない族議員の下っ端のような強引さで、それが屈服のサインだと解釈した。BPS的に言えば超法規的措置。
「留美」
「なによ?」
「今、何時だ?」
 腕時計を見る。
「7時30分」
「学校には何時までに行けばいいんだ?」
「え、そりゃあ、8時25分に着けば……」
 何を訊いているのかと戸惑う留美に、浩平は、ハッと鼻で笑い、ケント・デリカットをイメージした肩のすくめ方をした。
「わかってないな留美ちんは」
「な、なにがよ」
 B21という……もういいか。
「あのな留美」
 再びベッドの上に仁王立ちの浩平。床に正座してそれを見上げる留美。
「今日は学校は休みだ」
「え?」
 そりゃ、少しはぼったくっているけど、金額の半分もカットってどういうこと? と見積を出した後の呆れた営業マンのような顔をする留美。
「今日は、学校は、休みだ」
 零細企業のワンマン社長のような、気分で営業日を決めんなよ的な宣言に留美は驚いた。
「ええ!? ど、どいういうこと!?」
「こいうことだ」
 浩平はベッドから降り、ベッドの下の隙間から何かを取り出そうとする。留美は、彼氏とはいえ、さすがにお尻の穴を見せられるのはどうかと、もう倫理基準なんてどどうでもいいじゃん、と同人ソフトの過激さに危機感を抱きながらも、どこか投げやり気味なB級エロゲメーカのような想いで現実から目を逸らした。
 浩平は、自分の手にガチっと確信めいた感触があると、そのままベッドから引き出して、目の前いるかわいそうにな女の子に見せつけた。
「ネコミミモードだ」
「な、なんですってぇー」
 ヲタ的には絶対的にかわいらしい三角形に近いネコ耳のついたヘアバンド。フサフサな耳の毛は、コスメイトでもなかなか手の届かない高級素材を使用していた。
「これでキミは、猫になれる!」
 うっとりとするフルチンに向かって、留美は冷静にツッコンだ。
「全然、意味がわからないんですけど」
 とってつけたように出てきたネコミミモード。だが、そこには触れてはならないと留美は思った。
 そうしないとこの物語は破綻する。いや、いっそのことそれを利用して、このくだらないシーンを終わらせてしまおうと考えてみるが、
「さあ、服を脱げ」
 遅かった。
「浩平。あんた……」
 ガックリとしながら留美は呟いた。
「さあ、猫になろう。だから服を脱げ」
 浩平はそんなセリフの最中にも、留美のスカートをおろそうとベルトに手を掛けていた。
 そんな彼氏を持った留美は、はぁ、とため息をつきながらも、「皺にしたくないからハンガーをちょうだい」と言ってしまうのであった。



☆ミ



 浩平は軽くキスをしてから、全裸にした留美を抱き上げ、ボフッとベッドに投げる。留美はそのままベッドに寝転び、浩平に視線を投げる。
「よつんばいになってくれ」
 恥ずかしさと、恥ずかしさ。そして、恥ずかしさで一杯の留美という仔猫は、よろよろとベッドの上でよつんばいになる。
「こ、こう?」
 最初から全裸の浩平に対峙する。浩平は満足そうに装着したネコミミ、いや失礼、最初から当然の属性として生えている留美の触り心地の良い山型の耳を撫でる。
「ほら、ニャーンは?」
 ゲーセンのDDRで軽快なステップを刻みながらも、所詮は秋葉流ヲタファッションしか持ち合わせのない、だっさいバンダナとむさくるしいメガネをかけた小太りの男のように自分の世界に入る浩平。
 そんなドン引きな状況を、銃後の鑑なんて某前総理ちっくな言葉が頭に浮かぶくらいに、耐えて、耐えて、耐えまくるが、やっぱり哀しくなってしまう留美。理不尽な仕打ちに抗議しよう。そう思って声を上げた。
「あんたねえ、さっきっから黙って聞いていれば、なにを言わせ──」
「ニャーンは?」
 ──だめだ。orz
 留美は覚悟して浩平を見上げた。──こうなったらもうダメなのだ。そんな諦めの表情を浮かべながら。
「にゃ、にゃーん?」
「ちがーう!」
 小林亜☆もびっくりなちゃぶ台返しのポーズ。留美はそんな浩平ワールドにすっかり陥れられてしまい、素で驚く。
「え?」
「もっとかわいく!」
「にゃーん?」
「ちがうっぺ! 右前足は親指を立てて、口に持ってくるんだろ? それにもっとお尻をあげろよ」
「そんなこと言ってな──」
「頭使えよ」
 不条理なことを平気でいう浩平。だが留美にはもう、反論する気力など残っていなかった。
 そんな彼女の姿を見て、「まあ猫なんで、本当はのど元をくすぐるんですが、今はおっぱいの方な気分なんです」と誰に向けて説明しているのか不明だが、とにかく凄い自信を持って、いやらしい手つきで留美の乳首を弄んだ。
「さあ、お鳴きなさい」
「んっ、ちょっとぉ」
 乳首の先端を指の腹で擦りつけられ、思わず声を出してしまう。
「ニャーンでしょ?」
 触るために腰を屈めている浩平は、少しだけ背を伸ばして留美を見下す。まるで、「おまえは俺の肉奴隷と書いてペットなり〜」と言わんばかりだ。
「さあ、お鳴きなさい」
 繰り返すことで強調を促す文章手法を知っている筈もない浩平は、自らの原始的な欲求から産出された生理的本能で、留美に求めるのであった。
「ニャーン」
 浩平の言いつけ通りのポーズをして鳴いてみせる。顔は半分泣きそうだった。
「いっけね。これは猫じゃねえや。雌豹のポーズだわ。わりい、今のナシ」
「なんですってえぇぇぇー!」
 思わず立ち上がりそうになる留美。
「おっと、猫が二足歩行する気か?」
「あ……って、あたしは人間だ!」
 右ストレートが浩平を襲う。
「お? キャトファイトか? そうなのか? そうなのか? 留美ちんよ」
 軽やかにかわす。
「あんた、その年でエロ産業に踊らされていると、本気で生身の女の子に興味がなくなるわよ?」
 留美は空振りした右手をどうすれば良いものかと思いながら、天井を見上げた。その所在無い右手は、まさに彼女の心模様のようであった。
 そんな清清しい朝はまだまだ続く。
「さて、と」
 ベッドに横たわり、満足そうに留美の身体を撫でながら浩平は話を続ける。その間もよつんばいのかわいそうな仔猫ちゃん。
 浩平は、重力に忠実な状態を維持する胸を横柄に揉みながら、留美を見た。
「留美」
「なによ?」
 ふてくされたような声に浩平は苦笑する。
「そんな声出すなよ。猫だろ?」
「ちがーう!」
 こんどはこっちが亜☆かよっと心の中でツッコム哀しい乙女(候補)。
 浩平は留美をよつんばいのまま引き寄せ、唇に指をあてる。
「舐めるよね?」
「舐・め・ま・せ・ん」
 カリッと少しだけ歯を立てる猫。だが、そんなことは折込済みだといわんばかりのご主人さま。
「そうそう、その反抗的な態度もまたいいわけで」
 ツンデレ万歳(マンセー)な浩平は、アンビバレントな欲求──すなわち従順と反抗──を満たすことに成功した。
 留美は何をやっても浩平の思う壺のように思い、生命を授けてくれた両親に、「こんな男にひっかかってしまいました。ごめんなさい」と心の底から詫びる。
「にゃーんっ……」
 その鳴き声は、まさに仔猫の鳴き声であった。



★ミ
(このへんで休憩をとってください)



 もっとエッチなことをさせよう。浩平は、信長の野望全国版を津軽でプレーして全国統一した自信を背景に、留美に言いつけようとした。
 ──とその前に、あることに気づいた。
「留美ちんよ」
「その、ちんってなによ、というかもういいわ。なに?」
 お尻に指が這っているのを知らないフリをして訊く。彼女もそこそこの経験を経ている。そんなことで大声を上げるほどネンネではない。しかし、ネンネではないということは、もう乙女でもないのではないかと、寂しくなった。信長の野望全国版で云えば、最初のターンも来ないうちに為す術もなく滅亡していく、六角あたりの末路を眺める心境だろうか。
「何か足りないと思わないか?」
「……あんたの頭──」
 指がいきなり入ってきた。
「ちょ、いきなりなんてことすんのよ!」
「俺は準備OKだからさ」
「あたしはまだだっつーの」
 抜こうとしない浩平に、留美は我慢するしかなかった。まだ愛液が分泌されていないそこは、指をダイレクトな感覚で受け止めていた。
「で、話を戻そう」
 さすがに濡れていないのに乱暴はできない、と僅かずつ指をスライドさせていく浩平。留美はビリっとくる感覚とまだ摩擦の大きすぎる快楽に困惑しながら聞き返す。
「なによう」
「足りないんだよ」
「だから何がよ?」
「猫として、おまえは足りないんだ」
 普通に屈辱的なことを言われているようでムッとする。いやまて、あたしは人間だ。猫でないといわれてどうして怒る? いや、そもそも……。
 高級電脳で妖しげに売っていそうな、留美の脳内乙女ちっくCPUで考えても答えのでないことにストップをかける浩平。
「おまえには耳がある」
「そ、そうねえ」
 絶対に鏡を使って自分自身で見たくないものに手をあてる留美。
「だが、猫にはもう一つ大切なものがある!」
 浩平はちょっとだけクリを弄りながら、指を動かす。留美の前足が耐えるようにシーツをしっかり握っているのを見て、嬉しくなった。
「な、なにが足りないのよ?」
 さすがに少しずつではあるが、気持ち良くなってくる留美。どうしてこんなド変態を好きになってしまったのだろうか、できればもう一度あっちの世界に行ってくれないかと思った。あるいは、瑞佳にでもやってもらえばいいじゃない、と思ってしまった。
 ──ダメ。
 それはダメだと瞬時に思った。こんなド変態でも、浩平は────
「ホラホラ、気持ち良くなってばかりいるなよ!」
 ──うわーん、みずかぁ。あんた、こいつにどんな教育をしてきたのよー。
 浩平の指使いにちょっとだけうっとりしながらも、心は涙でどしゃぶりの七瀬留美さんであった。
「で、なにが足りないのよう」
 指を抜かれたことに少しだけ残念さを覚えながら、留美は訊いた。
 浩平はそんな留美に指を口に含ませ、もう一度入れてやると暗に示しながら、罪のない彼女に断言した。
「シッポだ」
「(さっきから同じリアクションですいませんが)なんですってぇぇぇー」
 留美の身体に潜んでいた性の快楽が一気に吹っ飛んだ。それは留美にとって仕方のないことだった。
 なぜなら彼女は、目の前にいる同い年のボーイフレンドが、目を輝かせながらマニアックな雑誌を見せては熱く語るシーンを思い出してしまったのだから。
 そしてそこにはシッポのアクセサリーがあったのだ。なぜかしっほの反対側にはボールのようなものが何個かついていた。「これはなに?」と訊くと、おまえの中にいれるんだよ、と嬉しそうに言われたのを思い出してしまったのだ。
 留美は、あの球状のものを愉しげに入れていく浩平の喜ぶ顔を想像した。
 たしかに、浩平が喜ぶのなら、できることはしてあげたいと思っていた。だが自分はまだ、ノーマルと言える域の素人さんだ。
 自ら汚れていくWEB芸人のように、他人の冷ややかな視線を快楽に変換するだけの変態さは持ち合わせていない。そう思うと、彼女は想像の翼をいそいそと畳んで、現実の世界に視線を移した。
「だけどな」
 そこには、この世の終わり、いってみればUOでPKばかりやってアク禁になったような、渋谷のカラオケBOXで、王様ゲームの命令として男同士でフェラをしていたのを通りかかった女子高校生に見られたような、ナンパされたと思って喜んでついていけば、絵に描いたようなボッタクリ店で、サラ金のカードをその場で作らされたような、そんな悲劇の顔をした彼氏が待ち受けていた。
「だけど?」
 留美の合いの手に、浩平は一度俯いてから、顔を上げて留美に叫ぶのだった。
「シッポを、シッポを……買ってなかったんだ!」



☆ミ



 留美は涙した。
「シッポになるものをさがしてくる」と言い残して下に降りた浩平を、よつんばいの格好のまま待っている。
 それはご主人さまの命令で、逆らうことはできなかった。
「はぁー」
 自分の置かれている状況にため息がでる。なんでこんなことになったのだろう、と。
 ひざこぞうがシーツにすれて痛くなってくると、今度こそ、戻ってきたら殴ってやる、と乙女組からパンクラスに転向(もしくは復帰)する決意をした。
「おまたせ! ニャンニャン!」
 頭のおかしい人が、バーンとドアを盛大に開け、留美に向かって宣言する。
「留美!」
 主の方を向くために、ベッドの上でクルッと反転する仔猫ちゃん。
「なに? って……………………(反転中)……………………いやあぁぁぁ」
 遅延同期回路を通過したATMセルのような、おっぱりポロリ事件が起きてから生放送番組で採用し始められたディレイ放送のような、間のおいた絶叫が平和な静寂にこだまする。
「これで、イける!」
 浩平の右手には────新鮮そうな長葱。
「ま、まさか……ほ、本気?」
「コレが俺のジャスティス!」
 ──抹殺(デリート)するしかない!
 少しだけ揺らいだ姿勢を我慢した後、立ち上がって、軽やかなステップで浩平のみぞおちめがけて蹴りを繰り出すK−1ファイター。(パンクラスではなかったw)
「このドドドドドドドドドへんたーい!」
 十分に腰を落として体重を乗せた蹴りだった。彼女の長い足は浩平の間合いの防衛ラインを突破して、人体の弱点である場所にめがけて飛んでいく。
 だが──。
「踏み込みが甘ーい!」
 しゃがみこみ、留美の軸足をはらう。その動作は、万引き小僧のように軽やかで狡猾だった。
「え?」
 決まればもう一度永遠の世界に招待できたはずのそれは、大きく予定外の軌跡を描いた。そして、彼女は彼氏の足払いで宙に浮いてしまった。
「ちぇすとおぉ」
 浩平は空に舞う一瞬の女王を抱きしめるように受け取り、そのままベッドに送り込んだ。
「ふ、ふえーん」
 解放されるという喜びが、某美国の武力介入によって一転させられた。それは戦火を拡大させてしまい、陰惨な現実から逃げ回らなければならない弱い市民を産み出してしまった。その犠牲者の一人のように、留美は泣いた。
 留美はこの一撃にかけていた。だが、結果は────
「さあ、お尻をこっちにむけてくれ」
 興奮して永遠どころか、地球誕生からの時間軸を経た永劫の世界へ逝ってしまった彼氏がいるだけだった。
「どうして、長葱、なの」
 留美はツンデレらしく、勝ち気さが敗北を宣言させられると、自らのアイデンティティを守るために従順になった。それがツンデレとしての哀しい宿命だった。
「ねえ、なんで、長葱なの?」
 従属を受け容れるための大義名分が欲しかった。──そう、それがあれば、あたしはあなたのしもべになれる。だから、教えて欲しい。留美は懇願した。
 浩平は横柄な態度で留美の顎を手でつかみ、自分の方に寄せた。そして、隠すもののない彼女の膣を弄りながら言った。
「それが──」
 もう一方の手で、留美の前髪を愛おしそうにかき上げる。
「あのお方のご意志だからだ」
「うわーん。みのりふさんのばかぁー」
「……諦めろ。この世にあのお方がいる限り、ネギ類は世界からなくならないんだ」
「それはいいけど、あたしと長葱は関係ないじゃない!」
 そんな反抗も、将棋ではいえば、負けを認めるための形作りのようなものであった。せめて負けるのであれば形だけでも作っておきたい。無抵抗に殺されるような敗北は嫌だ。そんな気持ちが留美にはあった。──彼女が将棋を知っているかは不明だが。
「浩平」
「なんだ」
 シクシクと泣く留美。そんな彼女をよつんばいにする、仔猫マニヤの浩平。
「……せめて、優しくしてね」
 返事はなかった。これがジゴロ浩平の手筋。籠絡した相手に手は差し伸べない。釣った魚に餌はやらない。彼はどこまでも一流のサディストだった。
「うう、なんでこんなことに……」
 長葱を見て泣き崩れる仔猫。彼女は後日、昼のワイドショーに出演して、「平和の象徴であるグリーンの向こうに、このお題の提唱者のほくそ笑む顔が見えた」と磨りガラスの向こう側で語ることになるとかならないとか。



☆ミ



 部屋の空気は異様だった。
 セックスをしているときに醸し出される、むわっとしたそれと、長葱のツーンとした匂い。留美の甘い香りは、そんな空気の中、業務用脱臭剤のような強力さをもってかき消されてしまった。
 ベッドには長葱を持って興奮しているバカと、これから始まる、言葉にしたくないあまりにも変態なプレーにゲンナリしている女の子がいた。
 バイブだって使ったことがないのに、と浩平のマニアすぎる雑誌に掲載されていたそれらを脳裏に浮かべながら留美は哀しんだ。そして、ああ、まさか自分の大事なところに長葱が入るなんて、人権蹂躙も甚だしい。ああ、でもあたしって猫だっけ、ってちがーう! とノリツッコミをしていた。それは現実に目を閉ざし、「わたしは貝になりたい」と泣き出す、人間として退嬰した行為だった。
「直接入れるの?」
 恐る恐る尋ねる。せめて処刑方法くらいは知っておきたい。それがどんな益をもたらすなんて知らない。だけど、気持ちを刹那でも落ち着かせることができるなら、あたしはそれを知りたい。そう言いたい気持ちを瞳に篭めて浩平を見る。
「イヤか?」
 何を言っているの? という反応。頭悪いなあと言いたげな彼氏の視線に、留美は、「もういいや。なんでもばっちこーいでスよ」と微笑みなら返事をした。
「うん。でもさ。さすがに直接だと、食べられなくなるだろ?」
 留美は、「この期に及んで、なんつー間違った博愛精神なんですかっー」と叫びたくなった。だがそんな常識的なツッコミはいらないことを知っていた。自分の役目はわかっている。秘所に長葱を刺した痴態を、本革張りの長椅子に悠然と座り、コヒーバの最高級葉巻を吸いながらこの部屋に隠されたカメラから映し出される映像を、モニタ越しに眺めるネギの紳士に見せることだった。そう。そういう意味では、浩平すら、あのお方の前ではただのアシスタントにすぎなかったのだ……。
「いや、普通に俺の趣味だし」
 先程、主催者の名前を持ち出してまで語ったことを軽く流してしまう浩平。そう。彼の妄想具現化能力はすさまじかったのだ!(意味不明)
 浩平は机の引き出しから小さな小箱を取り出す。
「な、あ、あんた! それって」
 浩平が、「え?」という顔をすると、留美は何故か元気を取り戻して、浩平に非を鳴らした。
「あんた、いつも『避妊してよ』って言っても、『いやあゴムないし』ってつけてくれなかったのに! ちゃんとあるんじゃない!」
「んあ?」
 どうしてそんなに怒るのですか? という表情に、キレ気味になる留美。
「いい? あんたね。中田氏なんてシャレにならないロシアンルーレットを続けていると、そのうち、赤ちゃんができちゃうわよ?」
「うーん」
「うーんじゃねぇっつーの!」
 両前足をブンブンと振る仔猫。
「そ、そりゃあ、赤ちゃんが欲しくないわけじゃないわよ。だけどさ」
「だけど?」
「今は……無理でしょう? あ、でも浩平がね、いいっていうのなら……って聞いてないしっ!」
 長葱をコンドームに突っ込む浩平。少しだけ塗られたヌメヌメに眉をしかめながらも、長葱をいとおしむような浩平の表情に、留美は哀しくなった。
「あたしたちの避妊より、長葱の方が大事なわけね」
「中田氏、超気持ちイイー」
 キランと歯から眩しい輝きを放つ浩平。そんな光が留美を容赦なく襲った。
 留美はそんなどうしようもない光景を、「ああ、射精して気持ち良さそうな浩平に悪いと思って、そっとお風呂場に行って自分で処理をしていたのはなんだったのだろう。というかあんなにドバドバ出しておいて、平気な顔をしているあんたは何様なのさ!」と悲嘆にくれた。若さ若さって何だ。
「なあ、留美」
 長葱の世界から還ってきた浩平は笑顔で留美を見る。相変わらず、いい女だな、と思った。──ここまで従順な女はいないぜ、という捻じ曲がった感情だが。
「なによ?」
 滑稽なポーズを強要されているのに、そんな笑顔の浩平に向かって少しだけ嬉しそうな声を出す女の子。彼氏の微笑みに頬ずりしたくなる衝動を抑えて見つめるその健気さは、誰もが世界ウルルン紀行よりもウルルンできそうなものだった。
「コンドームってのはさ」
「うん……」
「お尻のときにしか使わないんだぜ?(名言)」
「さ、サイテェー」
 まだそこには使用されていないことに感謝しつつも、そんな暴言にガックリする乙女(くどいけど候補)。こいつは、大事なデートにラーメン屋をチョイスできる男だったという現実に投げ出された自分に、とてもとても不幸を感じてしまった。
「まあ、いいじゃん」
 生命が誕生するかどうかのことを、ファミレスでメニューを決めるような気軽さでどうでもいい扱いをする鬼畜。
 留美は、そんなボーイフレンドと書いてルビにはご主人さまとふられる浩平を見て、「ああ、せめて瑞佳に危害が及ばなかったのは良かった」と自己犠牲の価値を自分で噛み締めるのであった。
 長葱は直径が約1センチだった。当然、チソチソはそんなφではないわけで(通常時でもありえないですよね? ま、まさか読者さまのは(ry))、コンドームは、傍若無人を掲げてやって来たロシア娘二人組のコンサートのようにガラガラだった。(ドームつながり)
 だから浩平は、深く悲しんだ。
「がばがばだぁ」
「あたしを見て言うなぁ!」
 もう、あたし、だめかもしれない。最後のラインをとっくに超えていたことを認める日が来たのかもしれない。そんな想いが留美を駆け巡る。
「輪ゴムだな」
 そんな想いなど関係ありません、という態度で、浩平は机の引き出しから輪ゴムを取り出す。
「これで縛ればいいか」
 次善の策とばかりに残念そうな浩平。彼のビジョンは、コンドームにパンパンと詰まった長葱だったのだ。
「反論する気がもうしない……」
 留美は心が冷えてきたような気持ちになった。こんなことをする学生は日本でもあたしたちだけだ、と思いながら。
「そうだ!」
 突如、ネギの天使の囁きがあったのか、浩平は留美にキスを両頬にして幸せを祝ってから、大声で告げた。
「毛利だ! そうか、毛利だよ!」
「はぁ?」
 留美は、長葱のささったゆるゆるのコンドームのように、間の抜けた声を出した。
「一本でもニンジン、二本でもサンダル、三足でも、長葱!」
「ご主人さまぁ、もうあたしには、あなたの言うことがわかりませーん(涙)」
 何本かの輪ゴムを、ドクター○松のような、「また発明しちまったぜ」という笑顔で取り出す。
「長葱、三本入れますんで」
「な、なんですってぇぇぇー」
 すっかり心も膣内も冷めきった留美に、三本の長葱が襲いかかろうとしていた。



★ミ
(すいませんね。これからエロと長葱を入れますんで)



「完成!」
 シッポは完成した。その異様なものは、浩平の脳を満足と興奮で犯しぬいた。
「ちょっとー。本当にそれを、あたしの大事なところに入れるわけ?」
「うい、まどまぁーぜる」
 輪ゴムは偉大だった。彼は、毛利家の結束のように三本の長葱を見事に束ね、親戚筋の足立家まで平穏に抑えてきた技量をコンドームにぶつけたのだ。
 それは素晴らしいシッポであった。ニヒルな表情で言い放つ芸人でも、「これは猫に間違いない」と絶賛するだろう。
「留美」
「なによぅ」
 半泣きの留美。
「濡れろ」
「滅茶苦茶ですよ、ご主人さまぁ」
 そうは言いながらも、痛くなるのは嫌なので、いそいそとオナニーをする健気な留美さんでした。
「ん……」
 女の子の生理的なことはよくわかんねーけど、取り敢えずクリを弄りながら、膣壁を擦りあげれば濡れるでしょ? という童貞の想像のような幼稚な浩平の視線に犯されながら、留美ちんはオナニーを始めた。それはどんなに恥ずかしく、そして哀しい行為なのだろうか。きっと、そんな横暴な男の命令で、弱冠よりも年下の身空のうちに、女体盛りを経験させられた先週なんて大したことないっスよ、と思えるくらいに哀しいことだったに違いない。
 留美は両前足で性器を弄り上げる。どうして彼氏がいるのにこんなことしなければいけないの? むしろ浩平の前だから? いや、そういえば最初においたしてしまったのは剣道部の部長だったなあ。あの頃はあのオカズが一番で、最高だったなあ、とセルフエッチ履歴を脳内で再確認しながら、弄り上げた。
「んーいいねえ」
 浩平にとって、三次元で二次元の萌えを追求するのは最高の幸せだった。自分の彼女の扇情的で従属的な痴態に、ペニスが勃起するのを感じざるを得なかった。そうだ、こいつは最高の女で、いつも俺の言うことを聞いてくれるいい奴だ。だけど、そんなもの欲しそうな目で見てもだめだ、今日はそこには俺のではないものを入れるのだから、と自分の演劇に酔うように悦に入ることができるのだ。
「あ、あっ」
 色気のある声がしてきた。留美は丁寧に指を動かして快楽を効率良く貪る。中指を少しだけ膣に埋めるのが彼女の好みだった。
 同時にクリを上から押さえつけるようにしてこねくりまわす。そして瞳を潤ましながら、ぼうっと浩平のペニスを見た。
 ──なんで、あんなにグロテスクなのに、興奮してしまうのだろう。
 右手に大事そうに持つシッポと比べながら、ああ、あたしは浩平の方を入れて欲しいなあ、と思う留美。
「んんー」
 そんな留美は、そろそろ収まらないところまできていた。浩平はその事を上気した表情を見て満足した。
「入れるぞ」
 その宣言に、留美は黙って頷いた。
 長い間、よつんばいになっていて痺れていた。だが浩平がいいというまではそれは変えることができない。人間とて羊と一緒なのだ。柵が設けられてないと不安になるのだ。その柵がどんなに理不尽でも、柵に囲まれていない空白の地に置かれるよりはマシなのだ。そう留美は思うことにしていた。だから、浩平の無茶も受け容れられたし、これからもそうするだろう、と自分の行動を客観的に予測し、現在の境遇を是としたのであった。
 浩平の手によって、シッポの装着が開始された。
「ん」
 留美のやや幼い形の襞に先端があたる。そしてツプリと音を立てて膣口に埋まっていくシッポ。留美は変態的な興奮を少しだけ覚える自分に戸惑いながらも、好きな人のためだと健気な想いで受け容れていった。
 最初はゴムの感じが少しだけしたが、すぐに浩平のペニスと同じ感覚になった。
 ──でも浩平の方が大きいな。
 何故か嬉しくなるそんな自分の愚かしさも、快楽にしながら黙って挿入されていった。
 浩平は息をしていなかった。留美の後ろから、少しずつシッポを突き立てるように入れていく。バックで留美を犯すときは、自分のペニスはこんな角度で入っているのかと興奮しながら、愉しんで。
 呼吸しているのは膣の方だった。留美には見えないが、それは蠢くように膣壁が収縮と呼吸をしていた。浩平はそれが留美の意思とは切り離された肉体の悦びだと知っていたので、苛めるにはもってこいの材料を得た気分になった。
「おまえ、喜んでいるだろう?」
「な、なにをいうのよぉ」
「素直に認めろよ」
「い、いやよ。くっ……こ、このド変態ぃ」
 留美は振り向くことをせずに、背後からの声に抗った。そうしないと、だらしない表情を好きな人に向けそうで怖かった。
 シッポは1ミリずつ埋まっていく。留美は心の中で、少しだけイラ立ちの火花があがったのを自覚した。
 ──早く入れきって、動かして欲しい!
 ──でも、そんなことを言ったら、浩平は幻滅するかなぁ。
 女の深い性を望む留美。だが、どうしても最後の一線の越えることはできなかった。自分が淫らな雌猫であることは知っている。だけど、それは浩平が望むからだと、最後の言い訳を残しておきたかった。彼女自身が淫蕩な行為に耽りたいだけなのだという真実は、彼女の華奢な身体には厳しすぎた。
「はあぁー」
 長いため息のような声を上げてしまう。
「やっぱり、気持ち良いんだろう?」
 意地悪く、3センチ程埋もれたシッポをまた膣から出るか出ないかというところまで戻してしまう浩平。それは浩平の亀頭部分だけのスライドのような感覚を留美に与えた。
「あん、や、やだあぁぁ」
 そんなお預けはない! 留美は身体に沸き起こる快楽を浩平にわかって貰おうとしてしまいそうになるのを必死で堪えた。
 ──ダメ。それだけはダメ。浩平に嫌われるのはやなの。そんな甲斐甲斐しい彼女。
「わかったよ。じゃあ、もっとお尻を上げてくれ」
 浩平は心のニヤつきを抑えながら、できるだけ優しく言った。そして、「うんっ」と隠すこともせずに漏らす、快楽に無垢な彼女の笑顔と声に、一人ほくそ笑んだ。
 浩平は、お尻を上げると、今度は突き刺すような角度で膣に入れられるのだと知った。
 僅かなヘアーが乾いていて可愛そうだ、と言わんばかりに、留美の愛液をそこへ塗っていく。
「んんんー」
 視的な快楽しかないので、留美には快楽を与えない。だが、浩平は満足そうに弄んだ。
 嗜虐的な行為に満足すると、シッポの埋没させることに専念することになった。浩平はネコミミ越しに留美の頭を撫でてやる。
「後で、一緒に風呂に入ろうな」
「……うん」
 気丈な彼女の跡はどこにもなかった。そんなことすらご褒美に思えてしまう異常な空間に、彼女は浸り続けていた。
 シッポは先程とは違って、早いペースで侵入をしていく。
「ああ、あんっ」
 1センチ/秒に入れていく。スーと入ってくるシッポの快感。どうしてこんなに気持ちが良いのだろうと戸惑ってしまう留美。
「もう少し入れるぞ」
「う、うん」
 浩平はコンドームぎりぎりのところまで入れる。
「ああ。はあぁー」
 コンドームを固定している輪ゴムまで膣内に入ると、留美にはそれが突起のように感られた。すべりの悪いそれは、肉壁に摩擦と違和感を与えた。
「ねえ、浩平。なんだかヘンだよぅ」
 留美の言葉を喘ぎとして扱い、浩平はシッポを前後に動かしてくいく。
「んん、ん、ん、ん、ああ、ああー。だめぇ、それ、あ、あ、あ、い、いいー」
 ついに白状してしまった留美。それの聞き逃さない浩平。
「いいんだな?」
「うん、ごめん。ごめんね。いい。いいの。こうへい、ごめんね」
 シッポの当たり具合を、腰を振りながら自分の気持ち良さに変えようとする留美。
「そうか、いいのか」
 浩平は思わずペニスに手をやってしまう。その言葉に浩平自身も興奮を覚えてしまった。
「ああ、あ、ああ。なに? 浩平、自分でしちゃっているの?」
 甘い声を出す留美。
「ああ。わるいか?」
「わるく、あ、あ、ない……よ」
 不満を漏らすように、荒々しくシッポを動かし、留美の子宮口に当てつける。もちもちした中を通った後に感じるあのぶつぶつとした奥の感触を思い出しながら。
「ああ、ごめん、ごめん。浩平。怒らないで」
 普段の強気な態度などどこにもなかった。
「だめだ、これでイけ」
 激しくシッポを抜き差しする。クリトリスを乱暴に弄りながら、お尻を掴む。そうして更に激しく運動する為の土台を得て、浩平は一気に突き刺す。
「あああん、いっちゃうよぉ、あたし、ネギでいっちゃうよぉ」
 静かな朝には不釣合いな叫びが部屋中に響き渡る。
「ほら、イっちゃえよ」
「ああああん! だめ! だめぇー。だめぇぇぇー」
 女の子はついに姿勢を維持することができずに、ベッドにうつ伏せになって埋まっていった。そして──痙攣を繰り返し、絶頂を迎えた。
 浩平は、そんな気持良い世界に浸っていることを許さないかのように、彼女の身体をひっくり返し、仰向けになった彼女の、可愛らしい口元に自分のものを押しつけた。
「ん……」
 黙ってそれを受け止める留美。
「んん、んく、んん……」
 留美はその行為の意味をわきまえていた。好きな人のものをベトベトにする。そして、興奮を過ぎた高い衝動を口内で発散させ、飲み下す。そういうことのはずだと理解していた。
 気持ち良い証拠に、浩平の腰が僅かながら動いていた。留美は嬉しくなって、懸命に奉仕する。
「ん、んんん……んん。ちゅぷ、ちゅぷ……」
 こんなに音を立ててするフェラは初めてだった。だけど任務に忠実たらんと懸命に勤しむ彼女。その真面目さは浩平をひどく喜ばせた。
「ん、いいぞ留美ぃ」
 留美のツインテールを掴んで頭ごと自分のペニスの根元に叩きつける。動物的な支配欲が、浩平の脳の中心にある原始的な箇所を活性化させた。
「んん、んふぅ、ん……」
 口から少しだけ離して、裏筋から鈴口までを舌で舐めさせる。意図を諒解した彼女は、チロチロと舌を素早く動かし、手を使って根元からしごき上げる。
「ああ、いいなそれ」
 浩平は満足の言葉を上げる。留美はその言葉をもって確信とし、その行為を懸命に続ける。方向や速度に変化をつけながら優しく舐めていく。
 直接すぎる快感に、もうそろそろ限界だと表情で意思を示す。留美はそんな浩平を上目使いで見る。
 あとは浩平の思うままに動いた。留美にまたがり、自分の射精のために留美を道具にして、乱暴に腰を動かし、留美の口の中に差し込むように犯していく。
 舌に自分の亀頭を旨く乗せることを第一に考えて、動かしていく。留美の小さな舌の上から外れないようにしなければならないもどかしさすら、射精前の快楽にしながら、これから放出される精液を彼女が飲んでいくシーンを想像して、射精へと急ぐ。
 留美は出来るだけ力を抜いて、浩平の動かす力に抵抗しないようにした。それは彼女自身も犯されているようで、悪くない感じがしていた。
「はあ、はあ、はあ」
 今度は浩平の方が本気の声を上げだした。留美は嬉しい気持ちで胸が一杯になるのを感じる。ああ、なんとなく女として嬉しいな、と思った。
 浩平はいつも、イク瞬間を留美に告げなかった。理由のない性癖だが、それは留美にとってはやや困ったことであった。──準備もなく、口内に白濁のものが飛び交うのだから。
 だが、あたしだって待っていたいのだから、と思っていた留美は、その瞬間を捕られるシグナルを過去に発見していた。浩平の射精を行う前には、ググっと腰を引き、まるで精液を溜めているかのような瞬間があるのだ。それを知っている彼女は、自分の興奮を失うことなく、彼氏の果てる前を知ることができた。
 今回も例外ではなかった。浩平はグッとペニスを押しつけたかと思うと、一度、ギリギリまで抜いた。
 ──あ、浩平、イクんだ。
 留美は目を閉じて、それを待った。
「んん!」
 そして、浩平の爆ぜるようなそれを、口内で受け止めていった。
「んっ、ンク、ンン、ング……」
 膣内射精でも感じることのできるペニスの躍動感を、口の中で感じる留美。ビクンビクンと動く太いものから出てくる樹液を、いつものようにじっくりと受け止めながら飲んでいく。
 留美には、飲みきれないくらいに出てくる精子の味が、まだ自分の中に入り込んでいるシッポのそれと同じように思えた。
 口元から白い雫が流れ出す。
「ああ、う、うう……」
 満たされた口腔から逃げ出すような白い筋は、喉下から首を伝い、髪の毛まで流れていった。
 それでも浩平は、出し終わらない欲望を、気持ち良さそうに、いつまでもいつまでも留美に流し込み続けていく。
 そして、そんな行為を受けている彼女も、背筋と子宮の深いところまでがゾクゾクしていることに、悦びを覚えるのだった。



☆ミ



 永遠の再会をしてから、名前で呼び合うようになり、身体を重ねるのが普通の生活をしている二人。
 だから、変態チックなプレーを受け容れてでも、留美は浩平といるのが当たり前だと信じていた。
 だが、今日のことはさすがに特別すぎた。
「ねえ。さすがに長葱というのは変態すぎない?」
 浩平の膝枕に身を委ね、セリフとは裏腹の甘えた声で話す。
「まあな。だけど、あのお方の言うことだからさ」
 困ったような少年のような顔。二人はもう、大人の世界に身を置く年齢であっても、どこか少年少女のようだった。
「へんなのー」
 留美は笑いながら浩平を見る。そんな留美に浩平は軽くキスをする。
「風呂に入る前に、少し休もうか」
「うん」
「あ、それとさ」
「なに?」
「──ごめんな、無理させて。腰、悪いのに、さ」
「浩平……」
 浩平は留美を強く抱きしめる。留美は少しだけ驚きながらも、そんな優しさに身を任せ、「ばかぁ」と小さく呟いた。

 長葱への熱い想いは、いつの間にやら甘い雰囲気に流されてしまった。
 だが、愛で包み合う若々しい男女を、EIZOのモニターから見ていたネギの紳士は、優しい微笑みを二人に捧げていた。
 そして、二人に心の中で祝辞を述べてから、ネットに漂うように存在するメッセ仲間に己の信じる生き方を施すため、今日もマウスとキボードを忙しく操作するのであった。





"The onion is eternal."
ネギは永遠なり





fin





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