いつものように街は何も変わらない風景をしている
コンクリートジャングルと呼んだのは誰だっただろうか、まさに灰色
目の前に聳え立つ灰色の塊。灰色の針葉樹。
これが豊かさの象徴なのだとしたら…少し嫌な話だ
人々の思い描く楽園というのは鮮やかな色をしている
まったく対照的な世界だ、これじゃあ

「逆にこの曖昧さが…いいんだろうか…」

なんて口から言葉を漏らしてみるがそういうものじゃないだろう
ただ単に耐久性の問題。着色というコスト削減の問題。
出る杭は打たれる。無個性。日本のそんな感性が働いてるのだと思う
あぁ、何でだろう

「もっと色を付けたらいいのにな…赤とか…」

そう呟いて血のような吐き気のする赤を思い浮かべた


3rd seen 少年の午後


「…すげぇ元気じゃねぇか馬鹿教師…」

「おうよ、頑丈だけが俺の自慢だ」

俺は今、市内の病院へと来ていた。更に言うと瀬戸和海の見舞いへと来ていた。
昨日の戦い…正体不明のトランス、黒い獣との戦いで倒れた瀬戸はその日の内にネオがいつも厄介になっている病院へと運ばれた
昨日のあの時、未完成のデバイスと知りながら瀬戸はOverd systemを起動した
1秒間だけの光速移動。光と同じかそれ以上の速度で行動が出来るゼクスの特殊機能
それを発動し、トランスに挑んだまでは良かった
バラストアーマーの各所から火花を散らし、紫煙を巻き上げながら発動した光速移動
その速度から繰り出されるゼクシールの一撃は確実に相手の心臓を貫くだろう
そう思っていた
だけど…

「いやまいったね実際。あんな化け物がいるとは思ってなかったしな」

なんて笑っているベッドの上の男
笑ってはいるが多分悔しいのではないだろうか
確かにあの一撃はトランスの心臓を捉えた
吸い込まれるようにゼクシールはトランスの左胸を突いた
が、突いただけだった
遅れる事数瞬。輝きを失ったゼクスとゼクシールが砕ける乾いた音が俺の目に、耳に届いた

「…最初の蜘蛛野郎の時点で俺はもう散々だったよ…
でもさ、いくら未完成のデバイスだったからってよ、傷ひとつ付けられないってのは…」

「水乃、あんまり気にするな。来週にでも一気にパワーアップじゃねえか?
それが少年漫画のお約束さ。作者はナニ考えてるんだよ、ってくらいの」

簡単に言ってくれる
そりゃネオの技術力は信じている
漫画や映画のようなオーバーテクノロジーを我が物としているんだ、技術的には優れているんだろう
だけど、今回の事でネオに対する不信感が強まった
俺達はいいように使われているだけじゃないか? と

「…俺は、ネオを…あの社長を信じられねぇ」

俺は本心を言ってしまった
いくら村上社長が両親の知り合いだったとしても
いくら弟の捜索を手伝ってくれるとしても

「…そうか…信じられないか
俺は嫌いじゃないぞ、あの社長。いい奴じゃないか?
十夜の事、気に掛けてくれてるんだろ?」

「……」

特に何も言わなかった
言えなかったのじゃなくて言わなかった
あの社長も昔に弟と生き別れになっているらしい
今じゃその弟が生きてるか死んでるかさえ解らないというらしい
つまりは俺と同じ状況ってわけだ

「それに何だ、少なからず今俺達が戦ってるのは自分に利益があるからだろ?
お前が戦う事によってネオは十夜を探してくれている。一人じゃ出来る事は限られているからな」

それはありがたい
だけどそれ以上の理由がありそうだ、あの会社――ネオファクトリーには
でも今はこうやってネオの意向に沿う形しか残ってないわけだ

「とりあえず何だ、明日にでも退院出来そうだからあんまり変な気ぃ使うなよ」

嘘だ
トランスの興味が俺達から逸れてどっかに行った後、瀬戸は意識を失った
暗くてどんな感じか解らなかったが、病院に運ばれてすぐに集中治療室入り
しかもその後は面会謝絶まで陥った

「…そっちこそ、変な気ぃ使うなよ」

「ん? 何か言ったか?」

「このくたばりぞこないって言ったんだよ」

それだけを言って病室を後にする
荒々しく扉を閉めて

帰り際に看護士に聞いてみた
本当に明日退院するのか、と

「…アイツの方が化け物じゃねぇか…」

どうやら本当に退院するようだった




立ち入り禁止
最初に目に入ってきた文字だ
黄色い帯に黒い文字。鮮やかなイエローに暗く鮮やかな黒。
嫌でも目に入る
見覚えのある風景、それはすぐに見つかった
自分の住んでいる街からは目と鼻の先。自分の通っている学校がある街。
近代的な建築物、施設が広がる中にも緑と青が入り混じった街。
最先端と時代遅れが共存しているような様だった

「…ぁ、う」

一際高く鳴る鼓動がひとつ
吐き出される息を抑えて口元を押さえる
見知った顔はいない
だが野次馬は増える一方だ。人払いをする警察官も数が多い
すぐに解った。ここでまた「事件」が起きたのだと
そして見た事もない筈の殺害現場が脳裏に浮かんでくる
明確に、明瞭に、眼前に、神経に
居ても立ってもいられずその場から目を逸らす

「…?」

ふと、視界の端にある女性が入ってくる
知らない女性だ。だが気になる。何でだろうか。

―――ジジ…

「…っう…」

直後…
脳神経を直接犯してくるようなノイズに襲われる
目で見える全ての風景が歪んで見えた。しかも醜悪に
灰色のビル郡が全て吐き気のするような血の赤に変わる

「何でこんなっ!」

こんな映像は見たくない、そう思って目を瞑る
しかし白昼の悪夢はその手を離してはくれなかった
優しく両手で包み込むように直接脳を触れている感覚
どれほどこの苦行が続くのかと思ったが、意外にもあっさりとその苦しみは手を引いた
ゆっくりと目を開く
そして言い表せない違和感を覚えた

「何が…おかしいんだろう…何か…おかしい筈なのに…」




アテもなく街をぶらつく
まだ瀬戸の入院が延びるようだったら見舞いの品でも下見していこうか思っていたのだが…

「ったく、前から思ってたけど本当に頑丈だよな」

クルクルと携帯電話を回しながら歩く
相変わらずの街並み
空は薄いオレンジ色に変わり、街灯も次々と点灯を始める
道行く人は店から流れてくるラブソングをBGMに楽しいお喋り

「……腹立たしい…」

街一帯幸せムード。ピンク色。
正直言って精神的によろしくない状況なのは一目瞭然
この場でデバイスを取り出して大暴れしたい気分にすらなる

「俺は負け組みか! 負け組みなんだな…」

ショーウィンドウのマネキンに語り掛けても返事はない
春の装いをしたマネキンは遠くを見つめたままだ
お互いにどうしていいか解らない
というか自分自身がよく解らない

「「はぁ〜…」」

と、俺以外の溜息が聞こえてくる
横を見ると見知った顔があった
マネキンよりも顔色の悪い男が一人

「何やってんだ如月…」

「え? あ? 水乃先輩…ちょっと思う所があって…」

如月清和。赤乃木高校1年にして生徒会書記。
性格は実に真面目で優等生といった存在
基本的に俺とは正反対の存在…なのだが
文化祭のクラス委員に任命された事がきっかけとなり知り合う事になった
プライベートで会うのは初めてなのだが…

「何だ、悩み事か…」

「はい」

それから会話が途切れる
俺達は付き合い始めのカップルだってのかよ
正直切ない。あまりにも無残な自分に

「ショーウィンドウのマネキンにでも恋しちゃったりしたのか?」

なんて馬鹿げたことを聞いてみる
勿論この空気に耐えられなくなったからだ
街のピンク風とショーウィンドウ前の黄昏風に

「それだったら…ちょっとロマンチックですよね」

「まじかっ!?」

「勿論冗談ですけど…」

ちょっと意外だ
如月はこういう冗談を好むような性格ではないと思っていた
何て言うかお堅いイメージが俺の中には存在していた
こんなカップルが愛を語り合ってチュッチュチュッチュするような場所にいるもが余りにも不自然なのが逆に自然なくらい
で、本当のところはどうなんだろう、俺が立ち入ってしまってもいい問題なのか
こんな場所に一人でいるって事は誰か好きな奴がいてプレゼントでも買いにきたとか…?

「水乃先輩は水乃先輩ですか?」

「は?」

急な質問に思考の渦に囚われていた意識が舞い戻る
というか質問の意味が解らない。意図も解らない
暫く悩んでいると如月が更に続けた

「すいません。えーと…自分が自分じゃないような感じとか、感覚とかしたことありませんか?」

「悪い。ちょっと解らない。
あーいや、言いたくないような内容だったら別に言ってくれなくてもいいんだけど」

「いえ…そんな事は無いと言うか、むしろ意見を聞きたいくらいなんですが…」

と言って如月は俺に近付いてくる
どうせここにいたって世間の冷たい風にさらされるだけだ

「まぁ暇だから別にいいけどさ」

「お時間をとらせてすいません」

なんて頭を下げてくる
本当に真面目な奴だ
で、どうしようか、ここで立ち話もなんだしな…

「とりあえずどっかに移動するか」

この一言が結構な命取り
カップル溢れる店内で悲しいかな、男二人で食事をする事になった
あぁ…悲しきかな春先の二人旅


〜to be next seen〜

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