| 眩く光る青い光と白い光 この世のものとは思えないほどの赤黒さを帯びた下水道内を照らし出す 人の姿から異常なる者へと進化した蜘蛛のトランスを相手にする為に二人がデバイスを展開した光だ 起動したデバイスは粒子状に変換されたゼプストアーマーを使用者に装着させる その後、各デバイス毎に備え付けられたプログラムやウェポンを装備者が使用出来るように解凍する 全てが終了次第、直ちに戦闘態勢へと入れるようになる この間ほぼ1秒 ツヴァイへと変身した水乃とゼクスへと変身した二人の姿がそこにはあった 2nd seen―――ライダー 「っし、好調だ。デビュー戦、いくかっ!」 ツヴァイは両拳を力一杯ぶつけた 青白い光と共に両手に装着されたリボルバーナックルが起動する 「やれやれ、斑の女郎蜘蛛退治ですかよ、っと」 ゼクスは2、3度首を回しトランスを睨みつける 表情のうかがい知れない昆虫の顔だったが、そのトランスの口元が歪んだようだった それはトランスが発する独特のノイズなのか、本当にトランスが笑ったのか… 「っらぁぁ!」 そんな変化があったのかどうかも下水内の赤に溶かされていく ツヴァイの放った顔面への攻撃によってトランスの雰囲気が一瞬に変化する 「ふんっ!」 ツヴァイの一撃は空を切ったが、後ろから飛び出したゼクスの蹴りがトランスの胴を捉えた 水飛沫を上げながらトランスが下水内を転がる 叫び声にも似た甲高いノイズを撒き散らしながらトランスが飛び起きる そこへ間髪入れずにツヴァイのリボルバーナックルが炸裂する インパクトの瞬間小規模の爆発が起きる 爆発が起きたトランスの部位び激しいノイズが走る 「うおっ!?」 馬乗り気味になっていたツヴァイにトランスの口から吐かれた炎が襲い掛かる 間一髪でそれを飛び退きながらよける 「アッツイ吐息にドキドキハラハラか」 「うっせぇ馬鹿教師! っくそ! 蜘蛛野郎のくせに火ぃ吹きやがって」 二人が離れた隙にトランスは立ち上がり体勢を整える 赤く光る目、口元から漏れる赤い炎の光が斑模様のトランスを更に怪しく浮かび上がらせる ツヴァイはトランスを睨み付けながら手首を振る 先ほどのインパクト時の爆発に使用された弾丸の薬莢が下水の水に沈んでいく 「しかも大して効いてないみたいだしな…」 甲虫にも似た硬い殻に覆われている蜘蛛のトランス 人間からの変化というのも合わさってか、通常の蜘蛛とは違う特徴が見られる 「っつーかさ、どうやって倒せばいいんだよこいつら」 「さあな、基本俺達には武装はないし、頼れるのは己の肉体のみだからな」 瀬戸と水乃の使用しているデバイスはほぼ完成状態なのだが、一部の機能がまだ使用出来ていなかった 完全に完成済みのアインスデバイスに比べると出力はおよそ50%低下 そして一番の違い、致命的な違いはメインウェポンが使用出来ないという事だった 「ま、正直使えそうな武装はお前のソレだけだからな」 ゼクスはツヴァイの肩をポンと叩きながらリボルバーナックルを指差す 実際のところ、トランスに有効的なダメージを与える事が出来る武装といえばツヴァイのリボルバーナックルしかなかった カタログスペック的には様々な武装や機能が付いているのだが、いかんせん実戦投入には早すぎる時期 そもそも実戦に投入しようと計画はされてはいたがまだまだ先の予定だった アインスだけではトランスが引き起こす事件に対応しきれなくなってしまった為の、予想外の実戦投入だったのだ 「ま、やれるところまでやってやるつもりだけどな!」 「頼もしいぜ」 ロースペックだからといって逃げ出す場面でもない それを解っている二人だからこそどうにかしようと対応策を考えている 勝算がないわけでもなかったからだった どれが現実でどれが虚実か 夢を見ているようで地に足がついてるようで しっかりと歩いているようで麻薬に侵されたように空を感じているようで 真綿に触れるように優しく手で触れたみたいで 鋭利な刃物で深々と中身を抉り出すかのようで… 知らない誰かが走っている。いや、跳んでいる 知らない自分が跳んでいる。いや、獣染みたスピードで地面を蹴っている 目の前には恐怖に引き攣った顔で逃げ惑う…ナニカ 薄暗い闇夜でもはっきりと解るような白いシルエットが見える それが人の形を保っていたのは一瞬だけ それが何の形になったのかは解らない 形が崩れたのかどうかも解らない 赤く染まったようでまったく別の色に染まったようで キレイな泣き声を聞いたようで醜い歌声を聴いたようで 気が付けば見た事もない生き物と対峙していた でも自分には解った 相手がどんなに醜態な姿をしていようと、どんなに巨大であろうと あぁ、コレは自分より格下だ、と ソレは暗闇に姿を隠した 自分に刺さるある感情でソレの考えている事は容易に想像できた 自分と同じだ 自分の欲望の為に誰でもない誰かを、誰でもいい誰かを襲う それが『食欲』か『独占欲』かの違いだけ もっとも、自分の独占欲というのは『一通り愛でてからバラバラにしたい』というものであった 暗闇からソレの攻撃が襲い掛かる だが遅い。所詮は弱者。神の姿を模倣しているとはいってもレプリカ。フェイク。 迫る何かを自分の右手で払う。 ただそれだけでソレの何かは音を立てて地面に落ちる そして地面に落ちたソレはテレビの砂嵐のようなノイズを撒き散らし霧散した まさかここまで脆い存在だとは思ってはいなかった もういい、あまり長く見ていたい存在でもないし手早く終わらせてしまおう ソレは既に最初に見た白いシルエットへと変化していた 片方の腕がなくなってる 本当に脆いものだ そう思いながら―― 見慣れた街の片隅で、白い何かは赤いガラクタへと変化していった 「水乃…」 先を歩いていた瀬戸の歩みが止まる 下水道からさほど離れていない場所だ 瀬戸の言わんとしていた事が水乃にも解った 周囲に漂うノイズの残骸と血の匂い 「まさか…さっきのアイツ…」 さっきのアイツ 勿論、蜘蛛のトランスの事だ 下水道内で戦っていた水乃と瀬戸 トランスに致命的なダメージを与える術のない二人だったが 少しずつ、本当に少しずつだったがトランスを追い詰めていく程にはダメージを与えていた 何十分戦った頃だろうか、トランスは形勢が不利な事を悟り逃げ始めたのだった そしてこの場所 覚えのあるノイズ 「…さーて、どう出るか… 有効手段もない、長距離の機動力は相手が上 しかも弱ったら誰かの血を貰いにいく…か」 「下手に戦いが長引いたら体力回復の為に誰かが犠牲になる?」 「ま、そういうこった 水乃センセイはどう考える?」 などと言いながら水乃に意見を求める瀬戸 逃げられる前にブっ倒す、と水乃は言いたかったがそれも無理 せめてカタログスペッククラスの力があればそれも可能だったが 無い物強請りをしてもしょうがない、そう呟きながら瀬戸は路地裏へと進む 「水乃! さっさと戦闘態勢に入れ!」 奥から瀬戸の叫ぶ声が聞こえる 「なっ! ちっ!」 飛び出してくる黒い影 水乃は転がりながらその影を避け、ポケットからデバイスを取り出す だがそこから動けなかった 黒い巨大な身体。狼にも似たその体型。太い腕に長い爪。 さっき見た蜘蛛のトランスの方がよっぽど恐ろしい姿をしていた しかし腹の底から何かが逆流してくるような感覚を覚えた 黒い体のよりももっと黒い瞳。暗闇にありながらもはっきりとした黒 純度100%のブラック。漆黒を超えた黒。黒よりも黒い黒。 その瞳に見つめられるだけで嘔吐感が増し、睨まれるだけで鼓動が止まりそうになる。 動けない水乃と動かない黒 「っは! っ…はぁ! な、何だよこいつぁ…こ、こんなのありかよ…聞いてねぇぞこんなの! 何が…わかんねぇ…何が君達になら出来るだ馬鹿社長め…くっそ!」 取り乱す水乃 眼前の黒は何もしていない ただ水乃を見つめているだけだった 「ったく、まだまだ甘いなお前はっ…!」 そんな事を言いながらゼクスが黒に飛び掛る 蜘蛛のトランスとの戦いでは見せなかったが、ゼクスに付随されていたある機能を使っていた 蜘蛛のトランスを倒す勝算。そのひとつである光速移動。 そしてゼクスの右手に装着されたクローハンド・ゼクシール 光速のスピードに乗せてゼクシールを心臓に突き刺し、一撃必殺を狙っていたのだった。 「ッッッッッッッッ!!!!!!」 身体が軋む バラストアーマーの耐久力がカタログスペックの10分の1だ 武装や機能がある程度揃っているゼクスだったが、全てを使いこなすにはある程度の耐久度が必要だった それがまだ整っていないという事は、武装や機能が使えないのと同じだった 「テメェ! 馬鹿教師! 死ぬ気かっ!」 水乃は叫んだ しかしその声は届かない いや、届いていたのかも知れないが発動してしまったら止められない 光は黒に激突しようとしていた 「そんだけ大技出すんだから勝てよ馬鹿教師!」 そんな声が聞こえた気がした 「つっ…!」 目覚めはいつもこんな頭痛から だけど今日は違う違和感があった 「…えっ…」 自分でも解るほどに情けない声を出していた 右手に違和感 「これ…は…」 自分の右手に握られていたもの 「うわぁぁああぁあぁ!」 赤く染まった… ナニカだった 「そ…そんな…だってこれ…見たこと…だってあれは…」 昨夜見た映像を思い出す 今でも鮮明に思い出せる 白いシルエットと赤い化粧 それを作り上げたのは誰でもなく自分 自分の腕で 自分の口で 自分の意思で 自分の、自分の、全部、全部自分の意思で、身体で 「だって、そんな事ない…だって、あんな女の人…知らない!」 言ってから気付く 女の人 ただの白いシルエットをなぜ女の人と言ったのか 言った本人でさえ不思議がる 何でだろうか、なぜか気になる 先ほどまでの恐怖は小さくなっていた 新しく湧いて出た疑問の方が気になって仕方がなかった そこで思い立つ 「…よく覚えてないけど…あそこに行けば」 夢の中で見たあの風景 見た事のあるあの街の風景 幸いな事に今日は学校も休みなので早速出掛ける事にした 自分の中の恐怖と疑問を拭い去る為に 〜to be next seen〜 |