| ゼロインダストリィ本社ビル爆発事故から一年が過ぎようとしていた… ゼロインダストリィは実質的に崩壊、社長不在のまま『倒産』という事になった だが、ゼロインダストリィが無くなってからも、健二は七星書について研究は続けていた 健二がなぜこうも七星書に拘るのか それはあの日――ゼロインダストリィ崩壊の時に入手したアタッシュケースから始まった アタッシュケースの中にはいくつかのレポートとMOが数枚入っていた ジェスターはどこまで知っていたのか… レポートとMOには健二も知り得ない様々な情報が書かれていた ゼロと名付けられたベルトのポテンシャルや材質、内部構造などが表記されていた ブラックボックスもあったが、それ以外については事細かに書かれていた 健二はネオファクトリーという、実質的なゼロインダストリィの後継会社を作った 研究を続ける為に、だ 後継会社であるネオファクトリーは規模こそ小さいが組織の形態としてはゼロインダストリィと同じだった その中でも健二が一番力を入れていたのが… 「炎、準備はいいか?」 防弾ガラスの張られた部屋の向こうにいる炎に支持を出す健二 炎は真剣な表情で手にした変身デバイス――アインスデバイスを見つめていた 健二が指で指示を出す 炎はデバイスを展開し、ベルトを腰に装着すると健二に向かって一回だけ頷く 炎は意識を集中し、起動コードを発動させる 「変身!!」 ベルトが光を発し、炎を包み込む 「社長! 波形が乱れています!」 白衣を着た研究員が叫ぶ 健二は慌ててパソコンのモニターを覗き込む 大きく乱れる波形 グリーンゾーン下を流れていた波がイエローゾーンにまで変化する 異常発生の合図だ 波形は一直線に下降し、レッドゾーンにまで突入した それと同時にガラスの向こう側にいる炎は頭を抱え苦しみだす 「炎! 炎! 駄目だ、実験は中止だ、早くベルトを外すんだ!」 目の前のマイクを掴み健二は叫ぶ。健二の声はガラスの向こう側に設置されているスピーカーを通し反響した だが炎は健二達のいる部屋を横目で見ただけでベルトを外そうとはしなかった 度重なる失敗と幾度となく繰り返されてきた開発作業 それを終わらせるべく…終わらせる事が無理だったとしても少しくらいは有用なデータが取れるように… 炎はベルトを外そうとはしない、限界ギリギリまでベルトを装着し続けた 以前にもあったベルトの暴走事故で炎は一度生死の境を彷徨っていた 普通の思考の人間なら二度とこんな事――ベルトの起動実験を行おうなんて思わないだろう 「まだ…まだ大丈夫……早く完成させなきゃ……駄目なんだ…ぐ…うぅ…ぁ」 しかし炎は見てしまったのだ ジェスターの資料の中にあったファイルに記載されていた『ブラッディトランス』という化け物達を そしてトランスが人々を襲っているのも 今ネオファクトリーが開発しているこのベルトこそが、トランスに対抗出来る唯一の手段 炎はそう信じてこの実験にもう一度参加したのだった 「いいからよせ! お前の身体の方がもたないぞ! また前みたいな事になったら…」 以前起きたベルトの暴走事故をまた起こしたら… 健二は最後の一言を言い出そうとしてやめた、その言葉は炎の努力を無駄にしてしまいそうに思えたからだ 様々な研究、特に実験段階においては色々な危険が伴う その規模は小さいものだったり大きなものだったり、実験において失敗は常に起こりうるものだ たった一度の成功の為にいくつもの失敗が起こるのは逃れられない事 炎だってそれを知りながら、自分の身を危険に晒しながらも実験に参加してくれた だが今回の実験で前みたいな危険な事故が起きれば… 「だ、大丈夫です…何故か解らないんすけど…何か解りそうなんです… それに…知っています…今回も前みたいな事が…起きれば…プロジェクト自体を凍結…させなきゃならない… でも続けさせて下さい…ぐっ…ホント、何か解り掛けてるんです…」 「無理をしてどうなる! お前以外にこのベルトを使える資質を持った奴なんていないんだぞ! お前だから耐えられるかもしれないんだぞ! まだ解らない事が多過ぎるというのに… こんな状態でお前がいなくなったら!」 健二はキーボードに向かい強制停止のコードを入力する 炎は装着しているアインスデバイスはネオファクトリーにあるハイビルチュアコンピューター・ファインと直結している デバイスから常に送られてくるデータを記録すると同時に、デバイスのアップデートプログラムの送信などが可能だ 勿論強制停止も、だ ファインからの強制停止コードがアインスデバイスに送られる アインスデバイスから発せられる光が止み、アインスデバイスの起動が停止した モニターには起動停止の文字が映し出される。今回の実験もこれで終了となる ガラスの向こうには力なく座り込んだ炎だけが居た… それは都市の中心部にあった いつ頃からそれがあったのかは誰にも解らない 世の中が変わり始めたのはそれが出来てからだろうか、それとも別の何かが原因なのか 表向きは普通の製薬会社だ。飲み薬から塗り薬、様々な物を扱っていた しかし一度裏を返せば日々人体実験の繰り返し 神をも恐れぬ所業が日夜繰り広げられていた ゼロインダストリィ崩壊後、行方知れずだった冴子は今その製薬会社にいた 勿論、仮面を被った企業の事業には携わってはいなかった 本来の目的、完全なる生命体を作り上げる為に冴子は日々研究に時間を費やしていた 偶然発見したトランスウィルスに改良を重ねる毎日 試作品が出来上がる度に人体実験を行い、そして失敗する 完全なる生命体を作る程には到底及ばなかった そしてその失敗作達のほとんどは処分されてしまう 一晩で何十人もの人間が犠牲になったこともあった 同じ頃、各地で不可解な事件が起き始めていた 体中の血液を全て抜き取られるという猟奇殺人 目撃者の話によると、その姿は人間という存在を既に超えており、まるで化け物のようだと言う 巨大な牙を持っていたとか、長い爪を持っていたとか、背中に翼が生えていたとか… この街で何かが始まろうとしていた 〜to be next page〜 |