ガーゴイルと変身したジェスターの戦いが始まった
先に仕掛けたのはジェスターだ
素早く繰り出される左のジャブ二連撃
ガーゴイルは反応すら出来ずに右頬へとジェスターのジャブを受ける
更に追撃するジェスター
よろめいて数歩後退したガーゴイルに低姿勢で突っ込む

「眠れ」

ジェスターの繰り出した右のアッパーがガーゴイルの顎へと吸い込まれていく
ジェスターのこの一撃で決まるだろう
健二と炎はそう思っていた、が

「うわっ!?」

「くっ!」

突如鳴り響く爆音
揺れる地面
傾くビル
下の階で爆発があったのだろう
徐々にビルが傾いていった
ガーゴイルはジェスターの攻撃が止んだ隙をついて空中に逃げていた

「く、や、やべぇ…このままじゃ倒れるっ!!」

健二は左手に七星書を抱えながら、屋上から滑り落ちまいと耐えていた
指に力を込めて屋上のコンクリート製の床を握ろうとする
だがいくら力を込めても、平たんな床のせいか、ただただ滑り落ちていってしまうだけだった

「ぐっ!」

何とか落下しまいと耐えている健二と炎から少し離れた所ではガーゴイルの反撃が始まっていた
足場が悪いせいか、今は空を飛べるガーゴイルの方が有利だった
振り下ろされるガーゴイルの爪の一撃
ジェスターはガーゴイルの一撃を背中に受けてしまう

「う…ぐぁ」

飛び散る火花
響き渡る金属音
だがガーゴイルの攻撃は止まらなかった
さらに迫りくる爪の一撃
その攻撃はジェスターの頭を捉え、串刺しにしようと迫っていった

「健二さん! これ!」

健二は炎の声をする方を向いた
滑っていくヘリコプターの近く、ジェスターが置き去りにしたアタッシュケースを抱えた炎が視界に入った
炎の手にはまるで漫画かアニメにでも出てきそうな程に巨大な銃が握られていた
炎はその銃を健二に投げて渡した
健二は飛び上がるようにしてその銃を掴む
そこからの動作は自分でも、周りの人々が見ても自然な流れで行われていた
片手で銃を水平に構え、照準をガーゴイルへと向ける
人差し指に力を少し込めて銃身へとエネルギーを送り込む
エネルギーの充填は一瞬の中の一瞬で終了、銃撃スタンバイに入る

「当たれぇぇぇぇぇ!!」

人差し指に全ての力を込めてトリガーを引く
視界を覆いつくすマズルフラッシュ
砲身から発せられた光の弾丸はガーゴイルの右肩へと命中した
弾ける水滴のような光、赤く発する炎のような輝きが発せられる
吹き飛ぶガーゴイル

「くぅぅうぁぁぁ!」

何とか体制を立て直し着地するが、斜面となっている為に健二の体は滑っていってしまう
必死に床を掴むが、結果は先程と同じだった
しかも、ビルの傾きが急になってきた為に、滑り落ちる速度が増している

「うわぁあぁぁぁあぁぁ!」

初島は耐え切れなくなり、傾いた屋上から滑り落ちてしまう
その途中で炎が初島に手を差し伸べるが、僅かに距離が足りなかった
屋上から落下していく初島
だが次に危険なのは健二だった
初島と同じくなるのはもう目前だった

「ふん、世話の焼ける!」

ジェスターは立ち上がり、斜面を駆け上がっていく
そして健二の腕を掴み更に斜面を駆け上がる
そのままの勢いで炎を抱えあげる

「飛ぶぞ!」

それだけを言い、ジェスターは二人を抱えたまま隣のビルへと飛び移ろうと助走をつける
力強く地面を蹴り、ジェスターは飛び上がる

「うわぁあぁぁ!」

「ああああぁぁ!」

みるみる近づいてくるコンクリート
だがジェスターは冷静だった
三人分の重量を支え、その足は地面へと着地する

「た、助かった…?」

床に倒れ込み崩れ行くゼロインダストリィのビルを見上げる健二
何度も爆炎を上げながら崩壊していくゼロインダストリィのビルがそこにはあった

「…っ!」

崩れていくビルの屋上に現れる一人の女性
健二はそれを見逃さなかった
その女性は手に青く光る何かが入ったシャーレを持っていた

「冴…子…」

冴子はこちらを見下ろし、三人を嘲笑うかのような表情を見せる
そして手にしたシャーレの中身を屋上から撒いた
健二はその行動に驚愕した
青く染められた何か…
青く染められた細菌、ゼロバクテリア
ラットの体を、体内のDNAを、何もかもを変化させてしまう悪魔の細菌を
冴子は何の躊躇もなく撒いた

「…やっちまった…最悪な事をっ!」

健二は立ち上がり冴子を見上げる
無意識の内に手にした銃を冴子に向けていた
照準を冴子の心臓に向け、トリガーを引こうとする

「やめろ、やめておけ…」

だがジェスターに止められてしまう

「お前はやらなくていい、これは俺の仕事だ」

ジェスターは健二から銃を奪い、崩壊するゼロインダストリィのビルへと向かった

「健二さん……」

銃を構えたままの姿勢で健二は固まっていた
何故だか自分でも解らなかったが、ずっとその場に留まっていたいと思っていた


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