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「研究者ってのは、体力が、無いんだ、よ!」
階段を上りながら健二は叫ぶ
その声は警報音に掻き消されていたが炎の耳には届いていたようだ
「遺跡発掘の、考古学者って、聞いてますよ、体力勝負じゃ、ないんすか」
息を切らしながら走り続けているが、まだまだ余裕な感じもした
だがそうそう余裕を見せてもいられない
そろそろ冴子の言う1分が経過してしまう
そうなるとガーゴイルが二人を目掛けて襲い掛かってくるのだ
冴子の言葉にはそういう意味が含まれていた
「ま、まぁ、俺達の通ってきた所は、防火シャッターを、下ろしてきたから、大丈夫っすよね」
「どうだかな、少しは、時間稼ぎに、なるんじゃないかっ」
そろそろ屋上に近づいてきた
屋上に上ったからといって、事態がよくなるという保障はない
むしろ逃げ場が無いという事を考えれば死ぬまでの時間が少々延びただけなのかもしれない
30階に到達する二人
屋上まではあと5階
後ろからガーゴイルが迫ってくる気配もなかった
二人は呼吸を整える為に、エレベーターに向かう廊下は徒歩で移動した
未だに鳴り響く警報機、回る赤色灯
頭痛を起こしそうな空間だった
暫く歩いていると、炎は何かに見られているような感覚に襲われた
だが前を見ても後ろを見ても、天井を見ても何もなかった
不思議に思いながらも健二の後について歩く
30階から屋上に上がるにはエレベーターを使わなければならない
30階に備え付けられているエレベーターは他の階のエレベーターとは違い、制御事態が独立していた
しかも誰かがこのエレベーターを使用した形跡があり、エレベーターが戻ってくるのを待つだけだった
「冴子…一体何を考えているんだ…」
「……謎の化石…っすか……
この本も何かに関係してるんじゃないっすか?」
「もしかしたらな……あのベルトも」
「この本とベルトは一体何なんですかね」
「この本については何も解らない…ベルトだってそうだ
最初の一ヶ月は俺の手元にあったけどな……他の研究室に移されちまったし」
「そうっすか……あ、来ましたよ」
健二と炎が話してる間にエレベーターが到着する
電子版にはOPENの文字が点灯し、エレベーターの扉が開く
「やばい……早く乗れ!!」
健二は叫びながら炎をエレベーターの中に突き飛ばす
それと同時にエレベーター前の広間のガラスが割れて飛び散る
「空飛んできやがった! 防火シャッターも意味ないなこれじゃ!!」
健二もエレベーターに乗る
そしてすぐさま『閉ボタン』を連打する
ゆっくりと閉じるエレベーターのドア
迫ってくるガーゴイル
「早く閉まれぇぇぇぇぇ!!」
焦る健二とは裏腹に、エレベーターのドアはゆっくりと閉まっていく
完全に閉まるまで後5cmというところでガーゴイルの手がドアの隙間に進入してくる
健二は完全にドアを締め切ろうとボタンを連打するが、徐々にドアが開いていく
進入してきたガーゴイルの一本の腕が伸び、健二へと襲いかかる
何とか後ろに下がり直前で爪をかわしたが、左腕爪がかすり鮮血が滲み出てくる
「くっそおおおお! 放せ!!」
倒れ込む健二を目の当たりにし、炎が行動に出た
手にした七聖書を振り上げ、ドアの隙間から見えるガーゴイルの頭に叩きつける
「グルギャァァァァァ!」
苦痛の叫びを上げ、ガーゴイルは後ろへと吹っ飛んだ
その隙に炎はボタンを押し、ドアを閉める
「大丈夫っすか?」
「あ、ああ……ありがとな」
「いいっすよ別に、飯とか奢って貰ってるし」
「ははっ、お前は飯さえ奢ればボディーガードになってくれるってか」
「そんなんじゃないっすよ」
炎は笑いながら手にした七聖書を健二に手渡す
健二は起き上がりそれを受け取る
「しっかし…七聖書でぶん殴るとはね……
これを残した先人に申し訳ないかもな」
屋上に到着するとそこにはゼロインダストリィのヘリコプターが待機していた
その脇には数名の研究員と一人の人物がいた
黒い服に身を固めているその人物に、二人は見覚えがあった
「しゃ、社長…?」
ゼロインダストリィの社長である初島がそこにいた
初島は二人に気が付くが特に気にも留めずに研究員と話を続けていた
「グゥゥゥゥ……クルァァァァァ!」
「ったくしつこいな!」
振り切ったと思ったガーゴイルがまた現れる
空を飛んで30階まで追ってきたのだ、そう簡単に諦める筈はないだろう
二人は全力疾走で初島の下へと駆け寄った
「何だお前達は、それにあれは何だ?」
「あー社長、状況が状況なんで手短に説明しま…うわぁ!!」
初島目掛けて突っ込んできたガーゴイル
健二は突き飛ばすようにして初島を庇う
「つっ!」
ガーゴイルの爪は健二の背中を浅く抉り、そのままの勢いで二人の研究員に向かっていく
研究員はそれに反応すら出来ず、ガーゴイルの爪の餌食となる
健二は手にした本を初島の眼前に突き出し、今の状況を説明した
「この本、それとベルトと一緒に発掘された化石がありますよね!」
「あ、ああ」
「その化石がアレです。はっきり言ってヤバイです。何人か既に殺されています。
一刻も早く逃げる事をおすすめします!」
「いや…その必要は無い…」
待機しているヘリコプターの後部座席から一人の男が降りてくる
その男は手にしているアタッシュケースを開くと中から一本のベルトを取り出した
「お前は……いや、あなたは…ジェスターさん…」
その男の名はジェスター・ジェミリオン、ゼロインダストリィの副社長だ
彼は副社長であり、有能な研究者でもあった
遺跡で発見されたベルトは、初めは健二が研究・解析を任されていた
だが研究を始めて一ヶ月後に担当が健二ではない別の誰かへと変わっていた
それがジェスターだった
「古代の化石の獣か……ふん、これでこのベルトの意味も解ってきたな、一本の線が繋がったぜ」
「それは一体…どういう……」
「ふん、まあそこで見ていろ」
ジェスターは手にしたベルトを腰に装着する
そして殺した研究員の血を啜っているガーゴイルへと近づいていく
ガーゴイルもジェスターに気が付いたのかゆっくりと立ち上がり、爪を構えた
「いくぜ…変身っ!!」
ジェスターの掛け声と共に腰のベルトの宝石が光り出す
光はジェスターを完全に覆い隠し、そして徐々に弱まっていく
「これがベルトの存在理由だ……こいつらのような化け物を駆逐する為のな!!」
光が弱まり、霧散するように光が飛び散る
そしてその場に現れたのは鎧のような物を纏ったジェスターだった
ジェスターはボクシングのような構えを取るとガーゴイルに向かって走り出した
〜to be next page〜
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