ゼロインダストリィ本社ビル内に響く警報音
回転、発光する赤色灯
誰がどう見てもどう聞いても間違いない、この警報音と赤い光が表すのは…
異常事態、緊急事態、生命に関わる程の危険事態を表している

「何だ! 何だ今の爆発音は!」

七聖書の分析をしてた健二が慌てて研究室から飛び出してくる
ビルの廊下は既に赤い光に包まれていた
他の社員も次々と部屋から飛び出してくる

「健二さん!」

飛び出してくる人々の中にいた炎が健二に近づいてくる
健二も炎を発見すると小走りで炎に近づいていった

「どうしたんだ! 何があった!」

「爆発事故です。発生場所は地下5階…第三研究室…」

「冴子の所か!」

エレベーターに向かって駆け出そうとした健二の腕を炎が掴んだ
そして自分の所へと引き戻す

「今エレベーターは動いてません! それに早く避難しないとっ!」

「避難しないと何だ…うわっ!」

突如響く爆発音
ビル全体が揺れ、少しだけだがビルが傾く
ビルを支えている柱が折れたのだろう
早く脱出しなければ危険な状態だった

「ちょっと待ってろ! すぐ戻る」

そう言って研究室へと戻っていく健二
健二を追って炎もまた研究室へと入っていく
第七研究室は第三研究室とは違い、どこかアナログな雰囲気を出していた
計器類は最小限の物しかなく、ほとんどのスペースは本の置き場だった
研究室というよりも図書室という表現がピッタリなくらいに本が置かれている

健二は足元に転がる本を飛び越えながら一冊の本の下へと辿り着く
表紙には七つの宝石が組み込まれた真っ白な本――七聖書だ
健二はガラスケースを開け、それを手に取ると大事に抱え炎の待つ場所へと戻ってくる

「過去の遺産と心中なんてもっての外だからな、行くぞ!」

「早くしましょう!」

二人は研究室を飛び出ると赤色灯によって赤く染まっている廊下を走り出す
この階にいた人々はすでに下に降りているらしく、他に誰もいなかった
階段を降り、まずは10階に辿り着く
このビルは5階毎に階段の位置が別の場所にあった
1階から5階は西側、5階から10階は中央、10階から15階は東側…
といったように面倒な作りになっている

「社長は何考えてこんな面倒に作ったんだか…」

炎が10階にある中央階段に向かって走りながら愚痴を零す
少し後を走っていた健二は何も答えずにただ後を付いていくだけだった

程なくして中央階段に辿り着き、一気に5階まで降りようとする
だがその時だった

「う、う、う、う、うわぁぁああぁぁぁ!」

すぐ下の9階から叫び声が聞こえた
しかもそれはひとつだけではなく、複数の叫び声が
健二と炎は顔を見合わせると恐る恐る階段を降りていく
9階に辿り着き、辺りを見回す

「何だ! おい! どうした、大丈夫か!」

廊下に出ると数人の人物が床に倒れていた
健二は持っていた七聖書を炎に渡すと倒れている男の一人に近づいていく
健二はゆっくりと男を起こす
男の体には所々に切り傷があった
三本の線が平行に並んだ切り傷だ
獣の爪によって出来るような傷に似ていた
しかしその傷口は刃物で切られたように綺麗にすっぱりと切れていた

「う…え……」

「うえ? 上か? 上から逃げてきたのか?」

「ち、違う……天井に…まだアイツがぁぁぁあぁぁぁあぁ!」

男は叫んだ
男の瞳は何かに恐怖しているような瞳だった
健二は男の叫び声を聞き、背筋が凍るような感覚に襲われる
ほとんど反射的に男から離れていた
その直後…
天井から男に向かって得体の知れないものが降って来る

「な…あ…」

天井から降って来たソレは、その指から伸びている爪を男の体に深々と突き刺した
男は呻き声のひとつも上げずに絶命する

「け、健二さん…は、早くこっち…に…」

炎は目の前にいる化け物に恐怖していた
それでも出せるだけの声を出した
その声は健二に届いたらしく、健二は何回か頷いた後、ゆっくりと立ち上がる
化け物はジュルジュルと音を立てながら男の血を啜っており、こちらには気づいていなかった
階段まで後数歩、あそこまで辿り着けば何とかなるかも知れない
健二は足が縺れながらもゆっくりと歩き出す、足音を立てないように歩く

「け、健二さん……」

炎は泣き笑いしたような表情で健二の名を呼ぶ
健二もその意味が解ったらしく、歩みを止め後ろを振り返る

「は、はは……もうお腹いっぱいかよ……」

健二と炎の視線の先には二人を見つめている化け物の姿があった
霊長類を彷彿とさせる体の作りをしている
二足で立ちながらも足と同じくらいの長さの腕を支えとして立っているその姿は、宛ら猿のようだ
大人の顔すらも軽々と掴めそうなその手からは鋭い爪が伸びている
口には牙もある、体の色も赤い色をしている
廊下を赤く染める赤色灯に負けない程の赤色、血の色にも似ていた

「クルォォォォォォォ!!!!!」

化け物が二人を睨み付け叫び声を上げる
警報音を掻き消す程に大きな声だ
それと同時に二人は我に返る

「に、逃げるぞ!!」

健二と炎は二人同時に駆け出した
階段を降り、8階、7階、6階、5階へと降りる
そして廊下を走り西側階段を目指す

「さ、冴子か!?」

二人が目指す5階の階段の手前で冴子が立っていた
冴子は二人が近づいても微動だにせず、その場に立っているだけだった

「おい、早く逃げないと! 変な化け物だっているんだぞ!」

「化……ない……イル……ラ……ス」

「は?」

「化け物じゃない、あれはガーゴイルトランス…」

「何言ってるんだよ! ガーゴイルトランスだって!?」

「あれは…私が蘇らした……いや…作った…」

冴子は今にも消え入りそうな声で喋っている
そうこうしている間にも化け物の咆哮が近づいてくる
だが何故か健二はこの場所から動く気にはなれなかった
冴子の言っている事に興味を持ってしまっていたからだ
『知りたがり』の性分が出てきたのかもしれない

「どういう事だ…」

「あれは……発掘された化石……私の血で…蘇った……
ゼロバクテリア……いえ、ゼロウィルスは……とても物凄いもの……
DNAを変化させて……何もかもを変えてしまって……知識だって…もの凄いものになって…」

「まさかお前……人体実験がしたくなったな……」

「自分にウィルスを打った……血が燃えるような感覚がした…
頭のモヤが晴れるような感覚がした……力が漲ってきた……」

「なんて事を……これがお前の言っていたZ計画ってヤツか?
DNAの変化? 生物の進化? お前は神になったつもりか? 生命は単純なもんじゃないぞ
それに…Z計画だって委員会で認められなかっただろう!」

「神? ……ウィルスを打ってから膨大な知識が私の中に入ってきた…
それを駆使すれば神なんて……容易い事……神すらも作る事が出来る…
Z計画のZは……ZeusのZ……」

「狂ってやがるな貴様………」

健二は俯いたままの冴子を睨み付ける
冴子は顔をあげると小さく笑った
妖艶な笑み、妖艶な微笑、悪魔の笑み、悪魔の微笑…
健二と炎に悪寒が走った

「健二さん!」

二人が感じた悪寒は冴子に対してなのか
それともたった今視界に入ったガーゴイルに対してなのか
健二は冴子に背を向けると階段に向かって駆け出そうとした
だがそれを冴子に止められる

「下はもう無理…火の手が迫って来てる……逃げるなら上に行くしかない……」

「あんな化けモンを振り切って上に行けっていうのか!?」

「ふふ…大丈夫、1分だけ時間をあげる……その間に逃げればいい…」

そう言うと冴子は右手を高々と上げる
それと同時にガーゴイルの動きが止まり冴子の横へと降り立った

「上に逃げたって…どうやって脱出するんすか!」

炎は健二と冴子を交互に見ながら叫んだ
健二は冴子を見つめながら何かを考えていた
暫くして健二は意を決したように冴子の脇を通り過ぎる

「……いいぜ、何が目的か知らないけど……こっちしかないんだろ?」

「さあ……でもただの人間だったら……下の炎で焼かれてしまうわ……」

「ってことだ、炎、行くぞ!」

「くっ、仕方ないっすか!」

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