俺達は村瀬にこの世界で行動する為のノウハウを聞きながらモロクの街をドゥエガーと一緒に歩いていた
俺達の装備とやらを整える為に武器屋へと向かっているとの事だ
ドゥエガーが言うには戦う準備はほとんど出来ているらしい
後は俺達の準備が整えばいつでも戦えるとの事だ
だが俺達にも基本的な作戦は知っておいて欲しいとの事で、今日一日だけを使って準備をする事となった
村瀬が言うにはラグナロクという世界にはその世界なりの力の使い方があるとの事だ
村瀬は剣士、様々な武器と技を使って戦う前衛タイプの職業。普段の村瀬からは想像は出来ない…
梶原はアーチャー、弓と矢を使って後方から敵を撃つ職業。こいつの事はよく解らない
そして瀬戸はアサシン、暗殺者との事だ
それに俺はプリーストという職業らしい
回復魔法や補助魔法を使う、パーティーの生命線との事だ
村瀬と梶原はこのゲームで各々が就いている職業のキャラクターを持っているらしいが
何で俺と瀬戸がこの職業なのかは解らない
ラグナロクオンラインというゲームの名前すら聞いた事のない俺達には何の事やらさっぱりだ

「着いたぞ、ここだ」

村瀬からのある程度のレクチャーが終了した所で目的の場所に着いたようだ
ドゥエガーが指差した所には何の変哲もない一軒家が建っていた

「あれ?」

村瀬は何か気付いたのか、その建物を見て首を傾げていた

「武器屋の場所ってここじゃないんじゃ…」

「あぁ、普通に見ればただの一軒家だ
でもそれは表向きだ、お前らの話を聞いててちょっと思うところがあってな」

そう言いながらドゥエガーは建物の扉を開けた
その建物の中は薄暗く、そしてかび臭かった
もう何年もの間ずっと開かずの間だったかのような、そんな雰囲気がしている

「ここに住んでる奴も変わっててな。ちょっと前にモロクへふらっと来かたと思うと一歩もここから出ないんだ」

ドゥエガーはどんどんと建物の中へと入っていった
俺達もその後について建物の中に入っていく
ジメっとした空気が流れ、湿気を帯びた風が外に流れ出ていくのが解った

「建物の中を見た奴が言うには…
アルデバランにあるような機械を弄っているらしい、ルーンミッドガッツにはないような技術だと言っていた」

「そいつと俺等と何か関係があるのか?」

頭に引っかかりそうになった蜘蛛の巣を振り払いながら俺は言った
ソイツと俺等との共通点が話の内容の何処にも見えない

「俺はそいつに一度会った事があるんだ
ミサキというその男とお前たちの雰囲気…どこか似ているような気がしてな」




R.G.Sの車―――キャンピングカー程の大きさのトレーラーに乗り込み俺達は海岸線を走っていた
トレーラーの後部にはいくつもの計器類とパソコンが積まれていた
そして後部と運転席の中間の位置には乱雑に置かれた毛布がある
R.G.Sという男はこのトレーラーで生活をしているらしい
その目的は解らない

「えーと…竹原さん、何から話したらいいか迷う所ですが……」

「あぁ、俺も何から聞いたらいいか解らない」

信号待ちをしている最中にR.G.Sが不意に言葉を発した
結構大きなエンジンを積んでいる筈なのだが、エンジン音は意外と静かでR.G.Sの声をはっきりと聞く事が出来る
こっちの声もはっきりとR.G.Sに届いただろう

「なぜこのような事が…ラグナロクの世界に入り込んでしまうという事が起きたのかは解りません」

「だろうな」

「だけどちゃんと戻ってくる事も出来るらしいですし…
もう一度…何度でもラグナロクの世界に入る事も出来るらしいです」

普通の人が聞いたらありえない事だと思うが俺はR.G.Sの言葉を信じていた
実際に俺の友人の二人がそのような状態になっていると思われるからだ
原因不明の奇病、などと世間を騒がしているのはこの事で間違いないと思う

「それで、何処に向かっているんだ?」

信号が青に変わる
R.G.Sはゆっくりとアクセルを踏んでいく

「邪魔が入らない所」

「邪魔が? ってどういう事だ」

「…色々と調べていますから、邪魔者も多いって事ですよ」

俺はその言葉を聞いてサイドミラーを覗き込んでしまう
気にし過ぎだとは思うがなんとも嫌な予感がしたからだ
一応尾行だとか黒い車が追いかけてくるとかは無かったが

「あぁちなみに…」

「何だ?」

「何か格闘技とかはやっていますか?」

「…? 小学生ん時に少しやってたくらいかな」

「そうですか…」

「あぁ…そうだけど」

そこから沈黙が流れる

「って何でそんな事を聞くんだ?」

「邪魔者が多いって事ですよ」

R.G.Sの言う邪魔者ってのがどんなのかは解らない
何か格闘技をやっているのかと聞いてくるくらいだ、多分そんな連中なのだろう
今更ながらもしかしてヤバイ事に首を突っ込んだんじゃないかと思うくらいだ
せめて守が帰って来るまではその邪魔者とやらが邪魔に入らなければいいが…

「ここです、着きました」

R.G.Sの運転で着いた場所は海浜公園の近くにある駐車場だった
100台近く止められるであろうその駐車場には、R.G.Sのトレーラー以外の車は止まっていなかった
R.G.Sはエンジンを止めると座席の後ろにある扉から後部へと移動した

「早速ですが始めますよ」

トレーラーの天井にある蛍光灯の電源を入れ、パソコンの電源もオンにする
自作のパソコンなのだろうか、入っているOSがウィンドウズとは違うものだった
起動画面はほぼ一瞬だったせいかOSの名前までは解らない

「そうですね、まずはあなたのご友人に連絡を取れるようにしましょう」

「出来るのか?」

「えぇ、私の弟がすでにラグナロクの世界に入っています
どうにかして連絡を取れるようにしてみますよ。絶対に」

R.G.Sはモニターに向かったままそう言った
それに気になる事も…
弟がラグナロクの世界にいるとの事だ
R.G.Sの言う俺に協力して欲しい事ってまさか弟をラグナロクの世界から助け出す事?
だとしても、だ
守を助け出す事に協力してくれるなら弟を先に助ける事も出来るんじゃないかと思ってしまう
それとも目的はそれ以外…?

「繋がりましたよ。あなたのご友人の特徴を教えてくれませんか? 弟に伝えます」

パソコンを立ち上げたと思ったら意外とすんなり連絡が取れたようだ
普通に考えてありえない出来事だとは思っていたが、ゲームの中の人間と簡単に連絡が取れるものなのか
しかしR.G.Sが嘘を言っているようにも思えないし、嘘をつく必要もないと思う

「ゲームの中とこっちの守は同じ姿なのか?」

と、守の特徴を言う前にふと疑問に思った
美香がゲームの中に入ったと思われる時の美香のキャラクターと本人の容姿は似ていなかったからだ

「基本的には同じらしいです。私達の世界から見たラグナロクオンラインという世界は少し違って見えますから」

「違って見えるというのは?」

「誰かの目的なのかは解りませんが…
こっちの世界から向こうの世界を覗いた場合、何の変哲もないゲームという世界が見えるのですよ」

「って事は…こっちで認識している守と、向こうに入った人間から見た守は同じと?」

「えぇ、基本的には…」

基本的には、という言葉が引っ掛かるが同じと見てもいいだろう
染色と顔を隠す程の頭装備をしていなければ同じ人物だと解るだろうし
俺は村瀬守という人間を思い浮かべながらR.G.Sへと守の特徴を告げる

「村瀬守という男の特徴は…」


〜次回へ続く〜