「で…理由くらいは聞かせてもらいたいんだけどな?」

巨大な鳥のような生き物に引っ張られる馬車のような物に乗り俺達は街中を移動していた
その途中、瀬戸は窓の外を眺めながら気の良さそうな青年――カグラに問いかけた
2時間以上も半軟禁状態にさせられたんだ、愚痴くらい溢してもいい扱いは受けた
だがそんな事よりも何で俺達が、少なくとも客人である俺達があんな所に閉じ込められたのかは聞いてもいいだろう
済し崩しでカグラと一緒に移動する事になったが明らかに妖しげなオーラが漂っている
瀬戸じゃあないが、どうにも近寄りたくはないと思ってしまう

「すいません。ゲフェンから昔馴染みの方が来られてましてね
その方は結構な地位のお方なので、用心してあのような事に…」

カグラは両手を膝につけ、額も膝につきそうになるくらい丁寧に頭を下げた
ここまでやられると逆に俺の方が困る
だが何でだろうか…さっきからカグラの後ろに見え隠れするような黒い影は
時々何とも言えない感覚が俺の体を突き抜けていった
恐怖感と嫌悪感を練り合わせたような、ホラーハウスとジェットコースターが混じり合ったような感覚が襲ってくる

「本当に失礼致しました。客人に対してこれでは無礼ですよね」

なんてカグラは言うがその笑顔が嘘臭い
瀬戸はカグラから発せられる黒い霧のようなオーラに気付いているのかいないのか…
「そうか」とだけ言って視線を窓の外に移した

「罪滅ぼしとは言いませんが、本日は私の紹介で宿を取らせて頂きました。
先ほども申し上げました通り、ゲフェンよりの訪問者がいますゆえ…」

「いや、感謝してるよ…」

それだけは俺も心の底から感謝している
見知らぬ土地で何をしたらいいか解らない状態だ
ここはありがたくカグラの好意に甘えておこう。せめてこの先の身の振り方を考えるには一晩くらい必要だ

「えと…失礼ですが、モロクへは観光に?」

「まぁそんなもんだ」

「そうですか…」

そしてまた沈黙の空間が出来上がる
これといって話題があるわけでもないし、当たり前といえば当たり前
必要最低限の会話のキャッチボールで終了してしまう
会話が無いのには慣れているから重苦しい空気も気にはならない
俺も瀬戸に倣い窓の外に視線を移した
活気がありそうな装いをしているが、皆どこか暗い顔をしているのが印象的だった
その眼差しは何かに怯えているようにも見えた
華やかそうに見えるこの街にはスラムのような危険な場所もある
裏表の差が激しい。この街は何かある、そう俺は直感的に感じながらカグラの屋敷での出来事を思い出していた




大通りから音が消え去った
事前にドゥエガーから話を聞いていたとは言え奇妙な感覚だ
真っ赤な太陽が照り付けているのに体中が冷気に包まれたようにブルっと震える
まだ自分の目では確認出来ないが、カグラが大通りに現れているのは明白だった

「何かおかしい…」

ドゥエガーは足を止めて大通りのずっと先を見つめた
何がおかしいのかは僕には解らない
この今の状況でさえおかしいと思う

「いったい何が―――」

そこまで言って大きな爆発音に僕の言葉は遮られた
静寂を切り裂き、夕暮れに染まった赤い街を更に赤く染める
僕達がいる場所から随分と先の場所で赤い炎が立ち上っていた

「うわっ!!」

一旦騒がしくなった大通りは収集のつかない状態になっていた
逃げ惑う人々が僕達の脇を通り抜けて行った
僕とドゥエガーはその人達とは逆に、爆心地と見られる場所へと走っていた
途中でこの辺りに潜んでいたドゥエガーの仲間達とも合流した

「あー! マモルー!」

「梶原!?」

炎の柱が眼前で燃え盛っている場所までやってきた
そこで僕の名前を呼びながら走ってくる梶原と出会う
良かった、どうやら無事だったらしい

「一体何があったんだ!」

ドゥエガーは辺りで倒れてる一人の男に近付き、抱き起こす
軽く体をゆすってみるが反応は無かった
どうやら既に事切れているようだ

「小物が…カグラ様に襲いかかろうなんて……1000年は早い!!」

炎を二つに切り裂き、赤髪をしたウィザード姿の男が立ち上る火柱の中から出てきた
その後ろにはペコペコに引かれている馬車のようなものがあった
ペコペコが引いてるんだから鳥車か…

「ちぃ! カグラの側近、アディックか! 厄介だぞこれは」

「そんなに厄介な人なんですか!?」

「ああ…魔法の実力的にはカグラの上を行くんじゃないかって言われてるくらいだ
しかも非情な性格をしてやがる、下手すりゃ一瞬で消し炭だ!」

アディックがパチンと指を鳴らすと今まで燃え盛っていた炎は消え、辺りは静寂に包まれる
そしてゆっくりと僕達の方へと近付いてくる
僕は恐怖でまったく動けない
ドゥエガーも僕と同じようだ、アディックに向かって睨み付けるくらいしか出来ていなかった
だが非情な赤い炎をその手に灯らせ、アディックは一歩また一歩と僕達に近付いてくる

「貴様もか、貴様らもカグラ様に近付こうとする愚か者か!
反体制のテロリスト共は全て消し去る…例え子供でも、女でも容赦はしない!」

「しまった! 梶原ーーー!」

アディックの燃え盛る手の平が梶原の眼前にまで伸びていく
梶原は恐怖で声も出ないようだった
僕は震える体を必死で抑え立ち上がって、腰に掛けてあった剣に手を伸ばす

「あぐっ!」

「貴様から先に死にたいか?」

だがそれもアディックの放った火球が腕に命中し、遮られる

「マモル!」

梶原の叫ぶ声が耳を突き抜けるように響いた
僕は腕を押さえながら咄嗟にその場から飛び退いた
直後に降り注ぐの炎の雨。それは僕の立っていた所へと容赦なく降り注いだ
一瞬でも反応が遅れていたら今頃、僕の体は炎に包まれていただろう

「ちっくしょう! まだ準備も終わってないってのによ!」

ドゥエガーが叫びながら近くに放置されていたカートを蹴り飛ばす
中には沢山の鉱石類が積まれている。直撃すればただでは済まないだろう
蹴り飛ばされたカートは一直線にアディックへと向かっていく

「ふんっ!」

アディックが手を翳すと、石畳の上に巨大な炎の壁が現れる
それに遮られカートは一瞬のうちに黒焦げになってしまった
僕は素早く梶原へと走り寄り、梶原の腕を掴んで引っ張る

「早く! 早く逃げよう!」

一刻も早くこの場から立ち去りたい
僕が考えていたのはそれだけだった。この場にいれば間違いなく死んでしまうだろう
だがそれも叶わないらしい

「うわぁ!」

振り返ったその先にも立ち上る炎の柱
左右は石造りの家屋が壁のように聳え立っている
逃げ場はどこにも無いようだ

「くそっ!」

ドゥエガーが立ち上る炎の柱を見つめながら吐き捨てるように言った
本当にそうだ、僕だってそう言いたい、何でこんなにも恐ろしい事に巻き込まれなきゃならないのか
それ以上に思うのは、アディックという男の思考回路だ
ただ普通にこの場所へと来ただけなのに無関係……とも言えないが、僕達を殺そうとしている
明らかな殺意と敵意を持って、石畳をザッザッと音を鳴らして僕達に近付いて来る
ズキリと痛んだ右腕を押さえながら、ただただ赤い炎に照らされるアディックだけを見つめていた

「あぁもぅ! 何でこうなるかなぁ!」

その時だ
どこからともなく聞こえてきた声に僕は驚いた
その声の主と思われる人物がアディックの背後から飛び出してくる
黒いローブと、ローブに描かれた十字架の模様からプリーストだと解る
そのプリーストは一瞬でアディックとの間合いを詰め、魔法を詠唱しているアデイックへと拳を突き出した
アディックはそれを何とか避けようとするがプリーストの拳はアディックの肩口を突いた

「くっ! 貴様…」

手にしていた杖――アークワンドを地に落としアディックは後ずさりをする

「ったく、どーなってんだよこりゃ?
おい瀬戸、そっちは大丈夫かよ?」

「問題ない」

立ち上る炎がプリーストの顔を照らす
その顔を見て僕はまた驚いた
僕はこの人を知っている
名前は備前克哉。僕の通っていた高校の保険医。ヘビースモーカー。
口は悪いが生徒思いの先生だ。でも何でこんな所に…
ゲームとかには興味ないような感じだったのに

「ビゼン…お前も敵か…カグラ様へと近付き…そして…」

「もうお前らが何言ってるかさっぱりだ
だがな、平気で人を殺しちまう奴等となんか一緒にいられない、それだけだ」

備前先生はつま先で落ちたアークワンドを蹴り上げそれを槍のように構えた
本来は殴る為に存在している訳じゃない杖だけど、備前先生が持つと杖の雰囲気が一気に変化した
まるで武道家が棍を持ったような雰囲気さえ感じられる
今、僕には備前先生が救世主に見えた


〜次回へ続く〜

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