暫く歩くと城壁のように長く、何かを取り囲むように立てられた壁を発見した
遠くから見ても、その大きさが桁外れだという事が解る
俺達は砂漠に出来た小高い砂丘を滑るように下り、城壁へと近付いた
城壁に備え付けられている門のすぐ近くには、水が湧き出し泉を作っていた

「失礼、ちょっと尋ねたいのですが…」

「………」

俺は泉で水を汲んでいる少年に近付きこの場所はなんというところか聞こうとした
だが少年は手にしたバケツを投げ捨て、無言で門の向こうへと行ってしまった
何も悪い事はしていないと思うのだが
もしかしてこの砂漠に住んでいる人間は外の人間を毛嫌いしているとか、か?
それともただ単に俺に嫌われるような所があったのか

「この格好からして既に怪しいだろうな」

瀬戸は泉の水を手で掬って口に運んでいた
まぁ瀬戸の言うことは御もっともだと思うが…
この暑苦しい砂漠で暑苦しい格好をした男が二人、普通に考えて怪しいだろう

「で、どうするよ」

俺も瀬戸に倣い泉の水を口に運ぶ
砂漠の熱に熱された体が冷えていくような感覚がする
ここまでの道程の2時間、熱射と熱波に晒され続けた体には『命の水』とも言える味だ
誇張ではなく本当に生き返った感じさえした

「こん中入ってみるしかないんじゃねぇの?
こんな壁に守られてるくらいだ、結構大きな街か何かだと思うけどな」

瀬戸は袖口で口を拭いながら門を指差した
門と言っても完全には締め切られておらず、半開きな状態だ
だが門の向こうは薄暗く、中がどうなっているのかは解らない
つまりは入らなければならないって事か

「虎穴に入らずば…か、しゃあない行くか」

俺はコートについた砂を払い落とし門に向かって歩き出す
この城壁の向こうは巨大な街か、それとも廃墟か遺跡か
半開き状態の門の向こうからは微かな物音さえ聞こえてこない
人の気配こそすれど物音聞こえず…

「盗賊とか山賊の類が住み着いてたりしてな」

そんなのいる訳ないだろう
確かに何かが出そうな雰囲気ではあるが
さっきの少年が手に武器を持って襲ってくるとでも言うのか

「がっ!?」

門を潜った直後に頭に響く衝撃、体を突き抜ける激痛、縺れる足
俺はよろめきながらも何とか倒れまいと踏ん張り、右足で地面を強く踏みしめる
そして右足を軸に体を半回転、視界の端に映った奴の顔を掴み壁に叩きつける
ゴスッという鈍い音が薄暗いこの空間に響き、その人物は気を失って崩れ落ちる

「ったく、いってぇな……こんなぶっといモンで殴ったら危ねぇじゃねぇか」

俺は崩れ落ちた男の手からバットのような物を取り上げ、門の外に投げ捨てる
目が覚めてまた襲われたらたまったもんじゃないし

「さて備前……」

「あぁ、お前の言った通り…かもな」

いくつもの気配が俺達を取り囲む
薄暗い状態だ、何人いるかまでは解らないが、結構な人数だ
これから俺達を襲いますよ、という雰囲気がバリバリ感じて取れる、ドス黒い殺気だ
俺と瀬戸は身構えると、これから起こるであろう事態に備えた

「ちぃ!」

初撃はすぐ傍の建物の影から飛び出してきた男の一撃
右肩の辺りを狙った攻撃を避け、右の拳を鳩尾に叩き込む
そして動きの止まったところで左の拳を顎へと放つ

今度は二人同時に飛び掛ってきた
瀬戸の方には三人だ
瀬戸は一人の男の腕を掴み、振り回すようにして残りの二人に叩き付ける
そして掴んだ男も地面に叩き付け、その男が持っていたナイフを奪い取った

俺はバックステップで二人の攻撃を避ける
二人が着地した隙を狙って剣を持った男の頭部に回し蹴りを入れて吹き飛ばす
そしてもう一人の襟を掴み、背負い投げの要領で男を壁に投げつける

「ったく、次から次へとっ」

瀬戸が二人の男の攻撃をナイフで防ぎながら言った
倒しても倒しても次々と現れる男達に半ば押され気味だ
一人一人の強さはそれ程でもないが、物量作戦に出られればこっちが不利なのは言うまでもない
圧倒的…では無いが戦力差がそこにはある

「相手にしてられないな」

俺は瀬戸に襲い掛かっている一人の襟首を引っ掴み引き寄せる
その隙に、瀬戸は二人の男の鳩尾に蹴りを入れる
次の奴等が襲ってくるまでのこの隙に俺達はその場を離れようと走り出す
だがそう簡単には逃がしてくれないらしい
俺達の横や頭の上を飛び交う矢の群れ
それと一緒に迫ってくるいくつもの気配
俺達を追いかけてくる気配は徐々に増えていき、俺達が相手に出来ない程の数にまで到達していた
何の因果でこんな目に合わなきゃならんのだ
瀬戸と一緒だといっつも面倒事に巻き込まれるってーか…運命か

「中々楽しいな」

瀬戸はどうしてだか、こんな状況を楽しんでるようだった
ちょっとありえないっすよセトサン
原住民よろしくみたいに追いかけられて襲われてるのに楽しいって

「いやいやいや、死ぬ! 死ぬって! 洒落んならん! まだ頭痛いし!」

そんなやり取りをしてる俺達の頭上では相変わらず矢が飛び交っている
緊張感が無いと言うのだろうが、どうにもこんな状況に慣れている自分がいた
自分でも驚くくらい馴染んでいる

どこを走ったのかどこを通ったのか解らなくなってきたその時だ
俺達の行く先に一人の赤髪の男が立っていた
追いかけて来る奴等とは違う、明らかに違う、はっきりと違う雰囲気
砂漠の熱波よりも、砂漠の熱射よりも更に燃え上がる何かが男の体から立ち込めていた
俺と瀬戸は立ち止まり、身構えた
迫ってくる気配が段々と近づいて来る
まさに四面楚歌な状態

しかしそこからの展開は俺の考えていた事とは少し違っていた
赤髪の男が手を高々と上げると炎の壁が俺達の背後に現れた。男が上げた手のように高々と炎の壁が現れた
だがそれを飛び越えて襲い掛かってくる男が二人いた
赤髪の男は手で銃の形を作ると声高らかに叫ぶ

「ファイアーボルト!」

赤髪の男の指から二発の炎が発射される
その炎は俺達の横を擦り抜け、飛び出してきた男達に命中した
赤炎を体に纏い転がり悶えている
そして暫くしてその二人は動かなくなった
立ち込める焦げた匂いと異臭
なんとも言えない感覚だ、気持ち悪い、助かった、気持ち悪い…

「失礼…何やら騒がしいので来てみたのですが、冒険者の方でしたか」

その男は満面の笑みを見せながら言った
助けて貰ったとはいえ、少しばかりの警戒心は抱いた

「冒険者…? まぁいい、何なんだここは、いきなり頭割られそうになるし殺されそうになるし」

しかし話の通じるような奴の登場はありがたい
炎を指から発射したりとか、いよいよ漫画らしくなってきたけどな

「南門と西門を含む外周はスラムになってますからね
普通の冒険者がモロクの街に入るには北門か東門からになりますよ
でなければあなた達みたいに襲われますからね」

「なるほどね、つまりここは身分格差が激しい街、となるのか?」

「そういう訳でもございませんよ、あぁ、モロクの街は初めてですか
アサシンという職業をしているのにおかしな話ですね」

そんな事を言いながら赤髪の男は笑っていた
この世界のルールやらあり方なんて全然解らないわけで、どこに笑う要素があったのか解らない

「よろしければ街をご案内致しましょうか?」

願っても無い申し出だとは思う
何か隠してるとかそういう風な感じには見えないし大丈夫だろう
右も左も解らないこの状況で迷う必要なんて無いのかもしれないし
ここはこいつの言葉に甘えておくか

「それじゃあお願いしようかな」

「喜んで」


〜次回へ続く〜

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