| ラグナロクの世界にログインすれば『おはよう』『こんにちは』『こんばんは』という言葉は簡単に出てくる しかし現実の世界ではそうはいかない 僕は口下手なせいか、クラスでもそんなに友達が多い方ではない 話した事のないクラスメートだって沢山いた 「よっす、守」 「あ、竹原君おはよう」 だからと言ってクラス内で孤立している訳ではない 今挨拶した竹原君は数少ない僕の友達だった 竹原君は僕以外にも友達は沢山いるのに、僕といつも一緒に話をしてくれた 「聞いてくれよ、昨日さぁ〜…折角製造に成功したソドメを精錬してたら+6でクホっちゃってさ」 「あはは、お金が無いうちは+5で止めておくのかいいよ」 「そうだけどさぁ、武器はもっと強くしたいだろぅ」 僕と竹原君には共通の趣味・話題があった それがラグナロクオンラインというゲームだ MMORPGの中でもとても有名なゲームがラグナロクだ どういう経緯で竹原君がラグナロクを始めたのかは解らないが、いつの間にか僕と竹原君との間で共通の話題となった 接続しているサーバーも同じという事もあり、昼は学校で 夜はラグナロク内でいつも情報交換や雑談をしていた 「あれ? そう言えば美香の奴はまだ来てないのか?」 「まだ見てないけど…」 竹原君の口から出た美香という名前 この人も僕や竹原君と同じでラグナロクをプレイしていた 僕は剣士で竹原君はアコライト、そして美香さんは商人だった 竹原君が美香さんにラグナロクを勧めた事で最近になってプレイを始めたのだ だけど困った事があって… 「もしかしてまたラグナやってて学校をサボったのか?」 竹原君が言うように、美香さんは時々学校を休んでいる 休むといっても病気や怪我ではなく、いわゆるズル休み しかもラグナロクをプレイしてて休むという事までやっている 「そろそろ出席日数が危ないって本人が言ってたし…サボるなんて…」 「あのな守…世の中にはラグナの為に留年したりする奴もいるんだ」 「それは解ってるけど…」 「ま、先生が来てから聞いてみるってのでいいんじゃない? もしかしたら本当に怪我とか病気で休んでるのかもしれないしさ」 「うん…」 竹原君の言葉に僕は頷く ホームルームを知らせるチャイムが鳴り、僕は自分の席へと座った 美香さん…留年とか…大丈夫だよね 放課後、僕と竹原君は美香さんの家を訪ねた 美香さんが学校を休んだ理由を先生に聞いてみたが連絡は入っていないとの事だった 心配になった…という訳じゃないが、とりあえず美香さんの家に訪ねる事にした 竹原君はズル休みはするな、と説教する為らしいけど ―――ピンポーン 僕は玄関のチャイムを鳴らす だが反応は無い 美香さんは出かけているのだろうか 家の中には誰もいないのだろうか ―――ピンポーン 再度チャイムを鳴らす だけどさっきと同じく反応が無かった 「留守かな…?」 「鍵掛けないで出掛けるなんて無用心じゃないか?」 「そうだね…って何勝手に玄関を開けてるのさ!」 横を見ると竹原君がドアノブに手をかけていた しかも少しドアを開けている 僕は慌てて竹原君の腕を掴んだ 「ちょ、ちょっと駄目だって」 だが竹原君はドアを開けてしまう 不法侵入で訴えられても知らないよ… 泥棒と間違われても僕は責任は取れないよ 「んー…? これは美香の靴だよなぁ」 そう言って竹原君は一足の靴を指差した そこには女物と思われる一足のスニーカーが置いてあった 竹原君の言うように多分美香さんの物だ 美香さんはよく履いていたのを覚えている 「ったく、家にいんじゃないか…家にいるなら返事しろっての おーい! 美香ーー! 勝手に上がるぞー!」 だが返事は返ってこなかった 竹原君は業を煮やしたのか、靴を脱ぐと家に上がり込んでいった 僕も慌ててその後を追う 家の中は静まり返っており、冷蔵庫の音や時計の針の音しか聞こえてこない 僕と竹原君は美香さんの部屋を目指し階段を上っていく 階段を上りきり、一番奥にある美香さんの部屋の前へと辿り着く 「おい、いるなら返事しろよ」 「ちょ、竹原君、ノックぐらい…」 急にドアを開けた竹原君に僕は駆け寄った 「おい美香! 返事しろって! おい! …美香…?」 突然大きな声を上げたかと思うと小声になってしまう竹原君 部屋の中に美香さんはいるようだけど、竹原君の様子が何かおかしい 僕は竹原君の後ろから恐る恐る部屋の中を覗く 「っ!」 僕は驚いた 驚いたというか恐怖した パソコンの前に座っている美香さんの様子がおかしいのだ 腕はだらんと垂れており、目線は天井に向かっている 目の焦点は合っておらず、虚ろな目をしていた 「……死んで……」 「ひぃっ!?」 「…ないな、しっかり生きてる」 「ちょ、驚かさないでよ」 竹原君が体を揺すろうが顔を叩こうが美香さんは何の反応も示さない 一体美香さんはどうかしちゃったのだろうか 美香さんの身に何か起こったのだろうか 考えても、何も解らなかった 〜次回へ続く〜 |