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朝起きると女になっていた
安っぽい小説や漫画じゃあるまいし…
だけどこれは現実、事実なのだ
「な、な、な、何で…? 何でだ!? 何故!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!」
「落ち着いてられるかぁぁぁぁ! 何だ!? 何が原因だ!?」
考えうる原因を頭の中で考える
とりあえず昨日飲んだポーションがやばいんじゃないか…?
そして、ふとした事に気がつく
「ディルさんも飲んだよな…俺みたいに…」
「あ、そうだった…よね、でも…」
「でも…何だ?」
「頭痛が酷いだけで、なんとも無いわよ」
となると…あの謎ポーションは関係ないのか…?
だとしたら何が原因だろう
「…呪い、とかな」
「っ!?」
何気なく放った一言にエルリラが妙に反応を示す
呪い…って…まさかコイツ、俺に呪いでもかけたのか!?
「…一応聞いとくけどさ…」
「知らない知らない知らないー!」
エルリラはそれだけ言うと部屋から飛び出していってしまった
あの行動は絶対に怪しい、怪しいなんてもんじゃない
確実に俺に呪いをかけたか、かけようとしたかのどっちだな…
とりあえず当面の目標はこの身体をどうするか、だな
着替えはこのままでいいとして、どうにかして元の身体に戻らないとな
しかも誰にも知られずにひっそりと
新学期が始まるまであと少しだ、間違ってこのままの姿で学校に行ったりしたら…
それだけは避けねば…
知り合いにでも見つかった日にゃ何言われるかたまったもんじゃない
「よし……とりあえず…」
時計を見ると針は8時を指していた
プロンテラの人口は多いと言っても、この時間に出れば知り合いに会う事なんて無いだろう
街自体も広い事だし…
ドアを開けると辺りを見渡し、人影が無い事を確認する
まぁ今は寮にはディルとエルリラしかいない訳だが…
念の為…
で…
俺は寮を飛び出すと南門通りにやってきた
取り合えず目指すは大聖堂
呪われてるんだったら…
「しっかし…何だか視線が痛い…」
通りに入ってからというもの、誰かに見られているような気がする
むしろ見られている
確実に見られている、大勢に見られている
特に男共に
さっきは寮を出る事に必死だったから気がつかなかったが、考えてみると俺は今すごい格好だな
その、何と言うか…この服に問題があるっていうか…
思いっきり胸元を強調してるってーか、胸を半分出してるっつーか
何か知らんが凄く恥ずかしいぞ
「む…ぅぅ…」
無理矢理胸を隠そうとして服を引っ張り続ける
自分が情けなく思えてきた…
何でこうなったんだろう、俺って何か悪い事したっけ…?
「…したかも…」
何気なく呟く、多分…したのかもな
「ん? どうかしたの?」
「あ…いえ、何でもないです」
どうやら他人に聞こえてしまったらしく、近くにいたシーフがこちらを向く
俺は俯くとその場から去ろうとする
「ちょっと待ってよ」
しかしその手を掴んで来るシーフの男
「あのさ、暇だったらどっか遊びにいかね?」
…こ、これはもしかして…俗に言うナンパというやつでは…?
背筋に寒気が走る、いくら今俺が女の身体とはいえナンパされるなんて
はっきり言って気色悪い
「いや、俺…これから行くとこあるんで」
その手を振り解き走り去る
追いかけてくる様子は無かったが俺は無我夢中で走った
言い得ぬ不快感に襲われプロンテラの大通りを噴水広場へと向けて走った
「はぁ、はぁ、はぁ…」
噴水前のベンチに頭を抱えて座り込む
「はぁ〜…」
少し休むと乱れていた呼吸は元に戻った
だが元に戻らないものがあった
やはりここでも視線が痛い
流石プロンテラだ、朝といえども噴水広場には多くの人で賑わっていた
露店を開いている人、それを見て回っている人、買い物帰りの人にダンジョン帰りの人
様々な人がいる
そんな人々を見て、俺はイレギュラーな存在なんじゃ無いのか?
そんな思いが頭を駆け巡る
駄目だ、悪い時はどんどん悪い方向に物事を考えちゃうな
「…ふぅ」
もう人目を気にしてなんていられないな
そう思うと俺は大聖堂に向けてまた全力疾走を敢行した
そこに行けばこんな悪夢のような状態が終わるんだ
そう信じて
〜次回へ続く〜
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