枝テロと呼ばれる古木の枝を使ったテロ行為があってから随分と時間が経っていた
それなのにこの場を収めようと駆けつける騎士団の姿は少なかった
見えている範囲だけで数人しかいない
その中には深淵の騎士の攻撃を紙一重で避けているベルガーの姿もあった
俺にこの騒動を止める実力も無いし、ただ見ているか逃げるくらいしか出来ない
だけどそれ以上にやっておかなきゃならない事があった
危険な事だとは解るのだが、行かなければならない場所があった
行かなくちゃいけない理由なんて無かったけど…

「エルリラ、アイラにWIS出来るか?」

「え? で、出来るけど?」

俺のICカードにはアイラの登録をしていなかった
というより、登録されてる奴はジュリアンとカイルと円璽だけだ
パーティーを組んだ事がある上、クラスメイトなのに登録していないのは変だと思われてるだろうか
そもそも人との繋がりは太く短くがモットーな俺だ
登録を増やしてもその人達全員と付き合うかどうかと言われれば「どうだろう」と答える
必要最低限の登録だけでいいと思ってしまうのもそうだからだ

「繋がったら俺に回してくれ」

その場から逃げるように俺とエルリラは離れた
正確には俺が急に走り出し、その後を数秒遅れでエルリラが追いかけてくるという形だ
アイラの性格じゃこの騒ぎを聞いて寮に戻っているだろう
それまでに準備出来ればすぐに奴を追える筈だ
自然と俺の拳には力が入っていた


第72話 フェイヨンへ飛ぶ


「悪い、急にこんな事を頼んじゃって」

寮に着くとアイラが玄関前で待機していた
これからフェイヨンへのワープポータルを開いてもらう為だ
さっき連絡しておいたので青ジェムの準備は出来ているようだ
今すぐにでもポータルを開ける状態だった

「いえいいんです。こんな事でも役に立てるなら」

アイラはいつもの調子で俯きながら小声でそう言った
未だに男と話すのはあまり慣れてないようだった

「まさかとは思うけど…変な事に首突っ込んでるじゃないでしょうね?」

俺とアイラの会話に割り込むようにして槍のようなエルリラの言葉が突き刺さってきた
…そう言えば忘れてたけど、以前もエルリラを振り切って夜の校舎に侵入なんて事をしたっけ
その後のエルリラは相当怒り心頭だったと覚えている
どういう訳かエルリラの勘ってやつは鋭く、そしてどういう訳か俺達の行動を止めようとする

「変な事には首突っ込まないって、ちょっと気になる事があるだけだ」

嘘は言っていない
気になる事を調べる為にフェイヨンに行こうとしている。それは事実だ
だけど自分自身でもそれが本当の目的だとは思ってはいない
だからと言って何が本当の目的かさえも解らない

「今すぐがいいんだ、今すぐ行かなきゃならない気がするんだ
何かが解るような気がする、パズルのピースがぴったりとはめ込まれるような…そんな確信があるんだ」