「騎士達は深淵の前へ出ろ!」

「プリーストの手が足りない! 誰かいないのか!」

祭り気分から一転
噴水前の中央広場は一気に騒然となった
枝によるテロの類が起きるのが予想していたのか、騎士団や自警団の到着は遅くなかった
今は数人の先遣部隊が深淵の騎士を抑えているがどれくらいもつか分からない状況だ
今の俺なんかじゃ一瞬で体を真っ二つにされてしまうだろう
出来る事なら今すぐにこの場所から離れたいところだ

「フゥゥゥゥゥゥ…」

だが目の前にいる男―――シオンがそれを許してはくれないだろう
自分から首を突っ込んだ事だというのは解っているが、些か厄介ではある
モンク独特の呼吸法だろうか、シオンの長い呼吸が終わったかと思うとシオンの周囲に幾つもの光球が現れた

「本気だよな…やっぱり」


第71話 深淵の騎士


「あぁ、そう言えば思い出したぞ…カイゼルとか言う男を」

シオンは右手を高く上げ、左手を下げ気味にして構えを取った
しかしすぐに仕掛けてくるような素振りは見せていない

「色々と厄介らしいな、セラフィックゲート以上に」

「厄介? どういう事だ…」

俺もメイスを握り締めて真っ直ぐにシオンを睨み付ける
シオンの言っている事は俺には理解出来ないが、言葉で人を惑わそうとしているのかも知れない
こっちは少しくらい波乱に満ちた日々を送っているが、厄介者呼ばわりされる覚えは無い
それ以上に変わり者の集まりのセラフィックゲートの奴等より厄介とはどういう事だ

「…ゲンキョウに触れておきながら何も知らないとは言わせないぞ…」

「は? ゲンキョウ?」

大真面目なシオンに対してこっちは少々ボケた返答をした
しかし解らないものは解らない
ゲンキョウ…という物に…触れた…
その言葉の持つ意味を俺は理解していなかった
だが俺自身が知らない事を知っているシオンの眼差しに胸がチクリと痛んだ

「チィ!」

一瞬、一瞬だけ襲ってきた痛みに顔が歪む
俺の視界が一瞬だけ暗くなった瞬間、シオンは俺の脇を通り過ぎていった
遅れて訪れた風の流れに乗って着ていた服の裾が揺れる

「なぁっ!」

シオンの走り去った軌道を追うように流れていった服の裾が一気に逆方向へと流れていった
まるで何かに吸い寄せられているかのような…そんな感じだった
俺は反射的に後方に飛んだ。シオンを追いかけるような形でだ
その直後に発せられる青白い光と爆風のような勢いを持った旋風
深淵の騎士がブランディッシュスピアを放った事による衝撃だった

「カイゼール!! 早くここから離れないと!!」

そう怒鳴るエルリラの声が聞こえる
こっちは地面に熱烈歓迎されて体を打ち付けてるってのに、そう簡単にいくかよ
それ以上にシオンが俺を見逃してくれるか…

「チッ! 意外とプロンテラの騎士団ってのも腑抜けなもんなんだな…」

シオンは深淵の騎士のブランディッシュスピアによって倒れた騎士達を見て呟いた
そしてそのままゆっくりとこっちを見たかと思うとシオンの周囲を飛んでいた光球が高速でブレ始めた

「悪いがさっさと決めさせて貰ってさっさと戻る事にするか」

光球が散ったと思うとシオンが紫電に包まれる
圧倒的なプレッシャーが発せられている

「くっ!」

繰り出されるシオンの拳
避けれるかっ! …いや無理過ぎる
かなりの速さで俺の顔面を捉えている
俺は咄嗟にメイスを構えてそれを迎え撃つ

「くっそ! また邪魔が入ったか!」

だがシオンの拳は俺に届く事無く、何も無い空間から現れたバイブルによって防がれていた
オリデオコンの青い輝きがする聖書を持つ手が徐々に現れてくる
何もない空間に扉を作り出し、一人の男がそこから出てきた

「ベ…ベルンガ」

「ベルンガ言うな…」

「まったく…予定通りにコトが進まねぇとイラつくよなぁー!」

毎回毎回何というか本当にいいタイミングでセラフィックゲートの奴等は現れてくれる
まさにピンチになると何処からともなく現れる正義の味方のようだ
決められたストーリーにそって現れるようなヒーローみたいだ…
あまり華やかさとかっていうのは無いが

「ったく、親父は法王に邪魔されるし…お前らはいつだって邪魔だな」

「こっちから言わせればお前らは厄介だ…ユッキがフェイヨンに行ってる時に何でこっちに来るかな…」

「フェイ…ヨンだと…」

ベルガーの言葉にシオンの表情が曇る
いや、焦りの色が見え始めていた
やはり何かある、フェイヨンには何かが隠されている
直感だが確実にそう思える、シオンの態度から

「また余計な事をしてくれそうだな!」

シオンは青ジェムを懐から取り出し、それを地面に叩き付ける
青白い光と共に遠く離れた地へと一瞬で移動する事の出来るワープポータルが開く

「せいぜい深淵退治に勤しむがいいさ!」

それだけを言い残してシオンはポータルの中へと消えていった
ベルガーをそれを見届けると溜息をひとつ吐いて気だるそうにつけていたサングラスを外す

「面倒な事は嫌いな性質なんだが…」

ベルガーは深淵の騎士へと向かって歩き出した
一人で闘るつもりなのか…
いやいや、それは無茶だろう
暴れ馬の上に暴れ馬が乗っかっているような奴だ
さっきのブランディッシュスピアの威力だってありえない程だ、石畳が綺麗に抉られている
まともに喰らったら跡形も無く消し飛ぶんじゃないか

「カイゼル! いつまでこんな所にいるの、早く離れようって!」

遠くからエルリラの声が聞こえる
離れようと言ってる割にはずっとそこで事の成り行きを見ていたらしい
俺なんてほっといて先に逃げればいいのに
そんな事を考えながらも俺はエルリラのもとへと走っていった
俺が手助けをしようにも邪魔になるだけだと判断したからだ

「あー、こちらベルガー、っつーからしくないな…早く現場に来いよ、一人じゃ相手にしきれん」

俺達のいる場所は深淵の騎士からある程度離れた場所だ
ここならベルガーの戦いを見ていても安全だろう
深淵の騎士の攻撃による被害はほとんど無い場所だから

「さて、始めますか」

ベルガーはICカードをしまうと本を構え深淵の騎士に突っ込んでいった
力を極めたプリーストは深淵の騎士さえソロで倒すと言われている
ベルガーにそれ程の実力があるかどうかは解らない
深淵の騎士自体見るのは初めてだ、ベルガーと深淵の騎士の実力差がどれほどあるのか…
明らかに普通の魔物とは違う雰囲気を醸し出している深淵の騎士
ベルガーはどうやって戦うのか、騎士団よりも頼りになるような気がしてならない

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