祭り二日目の夜10時
普段の日ならば、決まった時間間隔で出没するモンスターを狙う冒険者以外の外出者はいない時間だ
露店商人もそういった冒険者と相手にする人達以外は帰り支度をする頃だろう
だが今日は昨日よりも人の数が多かった
何でももうそろそろカプラシスターズとかいう何かよく解らないグループのライブがあるらしいのだ
冒険者の世話をしてくれるカプラサービスのイベントのひとつらしい
冒険者の間ではファンクラブなんてのも出来てるくらいだから相当の人気なのだろう

「うっわ人多いな、そんなに人気なのか?」

帰る間際に噴水広場の特設ステージを見に行くと相当な人の数でごった返していた
人の波と熱気に酔いそうになりながら、何とか人ごみを掻き分けていく

「カイゼルって流行り廃りとか関係ないんだね。今凄い人気だよ、イベントの時にしか集まらないけどね」

そんな事言われても知らないものは知らない
俺は興味のある事にしか情熱を燃やさないタイプだし、そういう事に関しては視野が狭いとは思う
正直、歌い手とか何とかなんてダディナザンの主題歌を歌ってるダディナボンバーズしか知らない
大々的に活動してる人よりも、ギター一本持って路上で歌っているバードの方が好きだ
心に響く歌を歌ってくれるから


第70話 フロウという名の男


「あーあーあー」

キーンというハウリング音を響かせてスピーカーから司会者の声が響いた
ただそれだけでその場に集まっている大勢の人達から歓声が響く

「ったく、前開けてくれ、前…」

だが俺はライブを見る気も無いので早くここから脱出したいという思いだけだった
エルリラもこの人ごみには勝てず、ただ無言で人の波をかわしていた

「本日は大勢お集まり頂きありがとうございます」

ここに来たかったわけでも無いが、そんな司会者の言葉を聞かせられる
それにしても陽気な奴だ、多分盛り上げようとしているとは思うのだが

「えー、イベントが始まるまでまだ少し時間があります。
そこで私、シオン・フロウが少々の余興をさせて頂きたいと思います」

と、不意に昔どっかで聞いた名前が俺の耳に届いた
シオン、ただそれだけなら何処にだっているであろう名前である
しかしだ、シオン・フロウとなると俺の知っている限り一人しかその名前を持っていない
そもそもフロウという姓自体が特殊な姓だと記憶している
ジュノーの魔法使いの一族だとか何だとか…

「うっ…だ、くそっ! またこの頭痛か」

やはりそうだ
レインだけじゃない、フロウという名前全てが俺の頭に痛みを発生させている
何が原因かは知っている。俺に何かした奴も多分知っている。何が目的なのは解らない

「エルリラ! エールーリラ!」

「何?」

「これ持って先に帰っててくれないか?」

俺は出店で買った物や射的で落とした景品をエルリラに渡した
エルリラは明らかに嫌な顔をしていたが、俺の雰囲気が普通じゃないと感じ取ってくれたようだ
だけどその場からは動かなかった

「また何かやるつもり?
…本当は聞かないつもりだったけど…何かに巻き込まれてるの?」

だが俺は答えない
正確には答えられないのかもしれない
確かな確証もないまま断定するのは早計だと思うからだ
だけど何かに巻き込まれているのは事実だろう。誰かさんはそれを察する事の出来ないようなしてくれたが

「…さて、ここに取り出したりますは古木の枝
みなさん知っていますよね? そうです、モンスターを呼び出す事の出来る枝です」

ステージ上のシオンは懐から数本の古木の枝を取り出した
この後の行動なんて容易く予測はつく。折るつもりだ
だが枝によって呼び出されたモンスターは呼び出した人間か近くの人間に襲い掛かる習性を持っているので
ステージから距離のある観客席なら大丈夫だろう

と、枝を取り出したところでステージ上に数人の警備員らしき人間が上がってきた
そしてシオンへと近付いていく
シオンの持っているマイクによってシオン達の会話がこちらへと流れてくる
…その内容を聞いて俺は驚いた
ステージ上にいるシオンは正規の司会者ではないらしい
あまりにも堂々と大胆にステージに上がった為、主催者側も少しの間気がつかなかったって事だ

「あ! あいつ!」

シオンに掴み掛かった数人の警備員を流れるような動きで次々と殴り飛ばしていく
あの動きはモンクのそれと酷似していた
そして今まで着ていた衣装を脱ぎ捨て、モンクの制服であるフード付きコートのようなものを着込む
そして直後、にやりと笑ったかと思うと古木の枝を観客席に向かって放り投げ…
その枝に向かって指弾を5発、放った

「申し訳ないが予定を少々早めて進行する事にした
今日はオーラの方々も大勢いるようだけど…この人ごみの中、本来の力を発揮出来るかな?」

シオンは笑いながら観客席に飛び込み、会場の人間を突き飛ばしながら走り抜けていく
これなら警備員とかも上手く撒ける。逃走するにしては考えたやり方だ
だがしかし、俺はそれをみすみす見逃すような事は出来なかった
シオンを捕まえて色々と聞き出したい。もしかしたら何か解るかもしれないからだ
いや、絶対に何か解る
人の迷惑もお構いなしに、俺も人を押し退けてシオンを追う
だが、それも次の瞬間には叶わなくなった

「ちぃ…こりゃ厄介だ…」

枝によって現れたモンスターから逃げようと人々が迷走する
今すぐこの場を離れようと水面に石を投げ込んだで波紋が広がるように、人のいない空間が広がっていく
モンスターを中心にしてプロンテラ噴水広場の石畳が露になっていく
出てきたモンスターの数は少ないが、数匹だけ危険なモンスターが混じっていた

一匹はポリン、一匹はクリーミ、一匹はロッダフロッグ
ここまでは良かった
残り二匹が意外と、いや激しく厄介だ
剣の体を持ち、骸骨のような顔を持つ魔剣モンスター、エクスキューショナー
黒衣を纏い、黒衣の巨大馬に乗った深淵の騎士
どっちも厄介な存在だ

「くっ…っそ、どけ! ちぃ!」

殆どの人間が逃げている中、俺は人の流れとは逆方向に進んでいく
自分で召喚したモンスターが以外に厄介な存在と知り、逆に嬉しいのか
シオンは口元を綻ばせながら深淵の騎士を見上げていた

「おい! ちっくしょう、やっと追い付いたぞ」

俺は何とかシオンに追い付く事が出来た
ほとんど人のいなくなった所で俺とシオンが対峙する
騎士団や自警団らしき人達が深淵の騎士やエクスキューショナーを処理しようとしている
モンスター達と俺達の距離は離れている為、今のところは何の被害も出ないだろう

「…お前は知ってる。いや、聞かされて思い出したってのが正解だが…
うちの親父もこんな奴に辛酸を舐めさせられたのか? …耄碌してる、そう思わないか?」

向こうの事情は知った事じゃないが、明らかに俺は舐められているだと解る
それに親父、と言っていた
少なくともこいつには後一人の仲間がいる。しかも俺はそいつに会った事があるらしい

「お前と和気藹々と話すつもりで呼び止めたわけじゃない、聞きたい事があるんだが…」

「俺がお前なんかに何か教えるとも?」

「…レイン・フロウという人物を知っているか?
フロウという名前自体珍しいものだと記憶している。少なからずお前に接点があると思ってな」

ふぅ、と溜息をついてシオンは騎士団を相手に暴れている深淵の騎士を見上げた
俺も釣られて深淵の騎士を見上げる
巨大な剣を振り回し、従者であるカーリッツバーグを呼び出し、鋭い槍の一突きを繰り出してくる
絶対的な恐怖の象徴のようなものだった

「知ってるか? 今、深淵の騎士と真っ向から戦いを挑んでいる奴を」

「いや…」

「ヴァルキリーレルムを治めるギルドのマスターだ
教えてやろう、強い奴が必要なんだよ、体をブチ破られないほどの強さを持った体が!」

シオンは叫んだ、地を蹴った、一直線で俺に向かってくる
ほとんど反射的にメイスを構え防御の体勢に入る
シオンの拳と俺のメイスが激突する
ビリビリと空気が震えるような気がした

「やっぱりお前も削除対象に追加する
セラフィックゲートと関わりがあるだけで厄介だ。感付きやがって!」

「言ってる意味が解らないな…」

シオンは憎悪の感情剥き出しにして俺を睨んでくる
確実にこいつは何かを知っている。俺の直感がそう言っている
ボコボコにしてでも、何が何でもこいつから色々と聞き出す必要が出来てきた
だが明らかに俺とシオンでは相当の実力差があるだろう
苦戦、必至だ

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