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「あっちぃ! 油はねたっ!」
「これってどー使うんだ?」
俺とディルはとりあえず料理に取り掛かることにした
俺は味噌汁と焼き魚を、ディルは目玉焼きとご飯を担当していた
というのも、俺は無性に焼き魚を食べたいと主張し、ディルは絶対に目玉焼きだと主張した
結局、個人が食べたい物を自分で作る事になった
ちなみにエルリラは外食…
勿論出かける前に捨て台詞は忘れていない
『変な物入れられるくらいなら外で食べてくるから』
だった
そこまで言われると流石に俺でも凹むぞ
「えーと……ディルさんディルさん、味噌汁の具は何にします?」
とりあえず俺とディルの2人で意見が共通していた事があった
『朝食に味噌汁は必須だろ』
「絶対に豆腐と油揚げ」
「何すかそれ、絶対にネギとワカメっすよ」
「そっちの方がなんだよ?」
「ネギとワカメを馬鹿にしないでくださいよっ」
「ただい…な!? 何やってるの!?」
声のした方を見るとエルリラが帰ってきていた
「何って…」
「ちょっとした意見の食い違いというか…」
味噌汁の具は何にするかで勃発した男の戦い
譲れぬ思い(味噌汁の具)と互いのプライド(好物)をかけて戦う俺とディル
しかし、18時になろうというのに決着がつかなかった
…18時!?
「もう夕食時じゃないかーー!?」
とりあえず叫びました。
2人とも我を忘れて戦っていたのだろう、時間の事を気にしてる余裕がなかった
そして、もう夕食時だと思うと忘れていた空腹感が蘇ってくる
「…腹減った…」
力無くディルは食堂の椅子に腰掛ける
「…確かに…腹減った…」
俺はその場に座り込む
台所に目をやると、朝食の準備をしていたままの状態だった
そして更に空腹になっていく感じがした
「どかした? みんなして食堂に集まったりして」
「なっ!?」
声の主はきつねさんだった
今までどこに行ってたのか知らないけど…助かった
無人島に救助に来てくれた船のようだ
物凄くきつねさんに後光が差しているようにも見える
「よ、よかったぁ…餓死しなくてすむ…」
「は? 餓死…?」
「な、何でもないです…と、とりあえず飯…食わしてください」
すでに活動限界な俺
ディルに至ってはピクリとも動かない
いかん! これは一刻を争う
「朝から何も食ってないんすよ…」
「まぁ、そんなのはいいんだよ、ちょっと手伝って欲しい事があってね」
な、流された…
や、やばい、ディルの口から白っぽい何かが!? た、魂みたいな物が出てる!?
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ディルさん空腹で死にそうっすよ!?」
「え? あぁ、大丈夫大丈夫、でね、これなんだけど」
聞く耳持たねぇ…
しかも何か説明始めちゃってるし
「知り合いのアルケミの子が作ったんだけど、ちょっと試して欲しいんだよね」
どうやらこの話が終わらないと俺の話を聞いてくれないらしい
エルリラなんてディルさんを見ながらオロオロしてきつねさんの話なんて聞いてないし
俺が聞くしかないのか…
「で、何すかそれ…」
きつねさんの手には紫色の液体が入ったビンがあった
「青ポーションと赤ポーションの効力を一緒にしたものよ」
「マジっすか!?」
元々好奇心旺盛な俺だ、そんなものを目の前に出されて食いつかない筈がない
しかもさっきまでの空腹は何処へやら、ぜんぜん気にならなくなっていた
「一応動物実験は終わったんだけどね、後は人体実験だけって言うか…」
「で、それを私達誰かに飲んで欲しい、と」
いつの間にかエルリラが俺達の話に混ざっていた
どうやらディルは放置されているらしい
というかさっき横目で見たけど…ちょっと近寄りがたいものがあった
あれじゃエルリラだって近寄りたくないよな…解る、それは解る
「正式に販売するには3人以上の人に飲んで貰わないといけないらしいの」
「へぇ、で、誰が飲むんすか?」
「いるじゃない、ここに3人」
えっと、きつねさんとエルリラとディルか
俺はそれを見守る係って事だな
「はい」
「え?」
俺とエルリラに紫のポーションを手渡すきつねさん
「頼むわ」
「「えぇー!?」」
俺とエルリラの声がハモる
「頼むわ」
「ちょっと…あの…まだ試作段階っすよね」
「頼むわ、ディルなんてもう飲み終わってるよ」
いや、あの、それは飲ませたんじゃ…
ちらりとエルリラの方を向くと、エルリラと目があってしまった
いつものような厳しい目付きではなく、俺に対して助けを求める目というか
明らかに戸惑っている目だった
「だ、大丈夫、多分大丈夫だから…」
エルリラに対してはそう言うが、蓋を開けた時の匂いを嗅いだ感想は違った
これはヤバイ
そう思った
「ど、どうしよう、本当に大丈夫だよね…」
微妙に泣きそうな顔のエルリラ、何だコイツは…確かにこのポーションはヤバイ感じだけど
そこまで怖がるものか? うーん…
「えぇい!」
とりあえず考える事はやめて一気に飲み干す事にする
「ほら、それもよこせ」
そう言うとエルリラのポーションを奪い取ると一気に飲み干す
「ん? なんとも…普通の味…だ…な…あれ…?」
頭がクラクラして身体が熱くなってくる
足元はふらつき、まともに立っていられない
「ぅ…あ…」
「か、カイゼル!?」
あ? 今カイゼルっつったか?
名前呼ばれるの初めてな感じが…
「ちょ、大丈夫!? ほら、ねぇ!」
「…か、身体が熱くて…頭がクラクラする…」
「参ったね…こりゃ駄目かなぁ」
「な、何が駄目なんですか!?」
「あ、うーん…薬品とハーブ類の繋ぎにアルコールを使ってるんだよね」
「じゃ、じゃあこれって…」
「酔ったんだろうね、どうやら恐ろしく酒に弱い様子だね」
あ、アルコール…?
じゃあ何か、俺は酒に酔ってるって事か…こんなん戦闘中に使えないって…
あー…駄目だ…すげぇ眠い……
せめて明日は…飯食いたいよな…
っていうかディルはどーなったんだろ…
〜忘れてたけど新学期まで後4日〜
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