プロンテラの中心部に向かうにつれて徐々に人の往来が激しくなってきた
それに伴い祭りをやっている、という雰囲気が強くなっていく
この雰囲気は嫌いじゃない
元からお祭り騒ぎが好きな俺だ、毎日こんな雰囲気でも飽きたりはしないだろう
だけどルティエの1年中クリスマスってのには馴染めない
だって俺は寒いの嫌いだし

「…あいつ、何してんだ?」

暫く出店などを見て回ってると途中で見覚えのある顔に遭遇した
そいつは玩具のボウガンと矢を使って景品を手に入れる射的の出店の前で唸っていた
しかもかなり真剣な様子だった


第69話 射的


「何してるんだよ、エルリラ」

残金を確認しているんだろうか
IDカードの画面と射的の値段を交互に見ながら何やら唸っていた
俺が近付いても気がつかないのでとりあえず声を掛けてみた

「ひゃあ!?」

「そ、そこまで変な声上げる事ないだろ…」

まるで変質者に声を掛けられたかの如く驚かれた
別にそんな事どうでもいい事だと思うが、なぜか俺の心に傷が入ったような気分だ

「で、何やってんだ?」

エルリラは声の主が俺だと解り落ち着いたようだ
射的屋に並んでいる人形をひとつ指差して一言「欲しい」とだけ言った
射的屋にはエルリラが欲しいと言った何か紫色の人形の他にも色々な物が置いてあった
ざっと見渡すと子供の欲しそうな玩具が置いてあったり、人形が置いてあったり
その他消耗品の詰め合わせや頭装備、後はどーやって玩具の矢で落とすんだよって感じの武器まで置いてあった
多分それは飾りのような物で、欲の張った奴から金を取るような事をする為に置いてあるのだろう
エルリラの狙ってる人形くらいならまだ取れると思う

「やらないのか?」

「うーん……私ってこういうの苦手だし」

「何回かやってれば多分落とせるぞ、あれ」

俺が来る前にも誰か挑戦したんだろう
人形は元あったと思われる場所から少し後ろに移動していた
これなら後数本矢をぶつければ後ろに落ちるだろう

「それでも駄目、私不器用すぎるから…もう諦めてるよ」

そう言ってエルリラは紫色の何かよく解らない人形に視線を移した
口ではそう言っていても諦めてないよオーラがひしひしと伝わってくる
こういう時にジュリアンでも居ればいいのだけど…

「って…アーチャー遊戯禁止?」

「当たり前って言えば当たり前だけどね…」

確かにアーチャーのような奴が射的をすれば商品は殆ど持ってかれてしまうだろう
射的をするだけの金額さえ持っていれば射的をやる金額以上の物が簡単に手に入ってしまう
絶対に落とせそうに無いと思われるあの武器達すら落としかねない

「欲しいなぁ…いいなぁ…可愛いなぁ…あの…オシリス人形…」

「オ…オシ!? あれオシリス人形だったのか…」

エルリラが狙っていたのはどうやらオシリス人形だったようだ
モロクのピラミッドの奥深くに生息していると言われているピラミッドの王オシリス
目撃した冒険者の証言では紫色をしており、頭には王冠を被って、体中包帯でグルグル巻きだったという
この人形はそんなピラミッドの王を象ったものなのだが、正直…可愛…くない

「そんなに欲しいか? ってか可愛いか!?」

「何言ってるんだよー、すっごい可愛いじゃないかぁ…
あの包帯の具合とか王冠の作り…そしてあの紫色の色とツヤ…最高だよ」

遂に悦な世界へと入り込んでしまったようだ
口調と表情が今まで見た事のないようなものに変化している

「……って、何してるの?」

「ん? 欲しいんだろ? 親父いくらだ?」

もう仕方ないんで俺がオシリス人形を打ち落とす事にする
IDカードを清算する機械に繋げて金額を確認

「これで300z? たけーよ…」

玩具の矢を10本と玩具のボウガンを受け取り、矢の一本を取り付ける
意外とよく出来てはいるがやっぱり玩具だ。強度もそんなに無いし矢の先は丸められている
ボウガンを構え、人形に狙いを定め、そして引き金を引く

「……」

矢は真っ直ぐには飛んだが人形の手前で失速して下に落ちてしまう
目標までは後数cm足りなかった

「今度は少し目標までの距離を縮めて…」

今度は若干人形までの距離を縮めて矢を放つ
失敗…今度は明後日の方向へと飛んでしまった
今度は発射後の誤差を修正するべく人形とは少しずらした隣の景品を狙う

「あ……」

今度はそれが真っ直ぐに飛んで行き、見事に景品をゲットしてしまう
だが、その景品である白いお皿を打ち落とし、下に落下した衝撃で皿が割れてしまう
何かやるせない
別に狙っている物でもないからいいと思うが、折角打ち落としたのに破壊って…

「…次は落とす!」

なぜか妙に本気に張り切ってしまう俺
新手の嫌がらせかと思うくらい思い通りに飛んでくれない矢
そして溜まる微妙な景品の数々
…なんでここまで本気になってるんだろうか、何かそう思うと悲しくなってきた




「さっきはありがとうね」

その後追加投資をして、およそ100本程矢を放ってようやくオシリス人形を取る事が出来た
途中から俺は半ばヤケクソになりながら矢を放っていた
その甲斐もあってか何とはオシリス人形は墜落させる事が出来た
礼を言われる程の事じゃないと思うが、別に悪い気もしなかった

「途中から目的が変わってきてたし…まぁ無事に落とせたからいいって事で」

「あぁ〜、やっぱりこれ可愛いなぁ…高くて手に入らなかったけど、取れて良かったぁ」

…すでに聞いちゃいませんか
手に入れた人形にエルリラは既に入れ込んでいた
どう見ても不気味な人形だと思うのだがどこが可愛いのだろう
俺にはまったくもって理解出来ないというか…
そんなエルリラを見ながら何をするわけでもなくプロンテラの街を歩く
…そこでちょっとした疑問が浮かび上がってきた

「なぁエルリラ」

「何?」

「お前も祭りを一人で見てるのか?」

エルリラが祭りを一人で見て回ってるなんて意外だ、と俺は思ってしまう
学校にいる時も友人とお喋りをしているのを結構見ているような気がする
俺よりかは確実に交友関係は広いだろう

「カイゼルもそうじゃない。私はたまたま友達に予定の空いてる人がいなかっただけ」

「俺はあれだ、友達がいないんだよ」

「…」

「うっわ、今笑っただろ? 絶対に笑っただろ?
やっだぁ〜、カイゼルって友達いないんだぁ〜可愛そう。とか思っただろ? 絶対に思った!」

「いや、それは…」

否定しないのか
そこで否定しないって事は少なからずそう思ってたんだな

「いいじゃん別に、友達くらいすぐ出来るって」

「それはあれか、入学して3ヶ月は経過してるのに友達がPT組んだ奴等くらいしかいない俺に対する暴言か!」

「え……それって私も含まれるの?」

エルリラは足を止めてこちらに振り向く
明らかに表情が暗い。否、険しい
俺に友達って思われたくないって事かも知れない

「…嫌ですよね、ハイ…すいません」

「うっそ、冗談だって。何だかんだ言ってもカイゼルって結構頼りになるし
あ、私の事を押し倒した事は許してないけどね」

「……顔面に蹴り入れられた俺の立場はどうなるんだ…」

「あれはカイゼルが悪い」

「へーへーそうですか…」

色々と言い争いやら一方的な殴り合いにも発展したが
何とか俺とエルリラの距離は友達という関係まで縮まったようだ
最初の頃が最初の頃だったんで色々と胃が痛い思いをしてきたけども、これで少しは変わるかも知れない
……3000zの出費は俺にとっては痛かったけど…