祭り二日目…
ぶっ続けで開催される祭りもまだ二日目だ
昨日一日見て回っただけで相当疲れたのだが祭りはまだまだ続く
これは不思議な事なのだが、楽しい時間を過ごしている時は疲労なんてものは感じない
部屋に戻ってきてベッドに倒れ込むと一気に疲れが押し寄せてくるのだ
やりたくもない事をやっている時は普通にその場で疲れるのに
人間の体ってのはつくづく不思議だと思う

「…んしょっと…ねっむ」

まだ気だるい体を無理やり起こし俺は寮の一階にある食堂に行く事にする
時間的にそろそろ昼食の時間だ
平日にこんな遅くまで寝てられるのはほぼ不可能に近い
豊穣祭期間中だからこそ出来る芸当だとも言える
次にのんびり出来るのはいつだろうかとか考えながら手早く着替えて一階に下りる

「………」

食堂に入った途端にエルリラと目が合った
その目は『いいご身分ですね』と言っているような気がしてならなかった
朝一から、いやもう昼だが…一気にテンションを下降気味にさせてくれた


第68話 祭りの賑わいと静けさ


起き抜けでどうにも食欲が出ないので軽めの昼食をとる事にした
サラダと麦茶を手に取り、フォークを口に咥えてエルリラの前の席まで移動する
エルリラは既に食事を終えており、綺麗になった皿とコーヒーが半分くらい入っているカップが置いてあった

「休みの日くらい早く起きたらいいんじゃない?」

と、エルリラは開口一番厳しい事を言ってくれる
休みの日こそゆっくり寝てるのが真理だと俺は思うのだが
学校の勉強で疲れた体を癒す為にダラダラネチネチと布団の中で惰眠を貪る
最高だと思う

「せっかくの休みなんだから早起きすればもっと有意義に時間が使えると思うんだけどね」

「例えば何だ?」

休みの日といえばダラダラ過ごすかカイル達と遊ぶくらいしか無かった俺にとっては興味深い話だった
有意義に過ごすと聞くと俺は部屋の掃除とか買い物程度しか思い浮かばない
今までの事を思い出すとそれらが有意義かどうだったかは微妙なラインだった
部屋の整理をしようとすると、ついつい久しぶりに発見した本を見入ってしまう
買い物に行けば無駄遣いをしてしまい、後で後悔するなんてのもしょっちゅうの事だ
だとしたらエルリラの貴重な意見はもしかしたら今後役に立つかもしれない
俺は昼食のサラダをつつきながらエルリラの次の言葉を待った

「部屋の掃除をするとか、次の実地練習に必要な物を今の内に用意してくとか」

…あんまり俺とそう大差ない事が解った
つまりは普段あんまり出来ないような事をするのがいい、という事だ
何か趣味でも見つけられれば少しは違うと思うんだが、生憎趣味に出来そうな物がない

「エルリラって何か趣味みたいなものはあるんか?」

やる事がないからと言ってダラダラしてるのもどうかと思ってはいる
思ってはいるが何をしたらいいか解らない
そういう時は誰かに聞くのも悪くないだろう
という事でそういうのに詳しそうなエルリラに教えを請う
とりあえずエルリラが何か俺が出来そうな趣味でもあれば簡単にレクチャーしてもらえるからそっちのがいいが…

「えーと……笑わない?」

「笑う必要があるのか? …それとも笑わせようとするのか?」

「何でアンタを笑わせないとなんないのよ!」

「わーったからデカイ声出すなっての…寝起きなんだから」

なぜかエルリラは自分の趣味を言うのを躊躇している
そんなに言い辛いものなのだろうか…
そりゃエルリラの趣味が一本釣りとかだったら爆笑するが

「何だ、そんなに恥ずかしいものなのか? だったら別にいいけど…」

「…人形集め…」

「は?」

「だから人形集め! 悪い! すいませんでした。女の子らしい趣味ですいませんでした」

何で怒ってるんだよ!?
しかも何で謝ってるんだよ!?

「別にそんなんで聞いたわけじゃないってのに…
俺も何か趣味のひとつやふたつくらいあった方がいいかな、って」

サラダを食べ終え麦茶に手を伸ばしながら俺は苦笑する
今にもエルリラは、手にしたコーヒーカップを握り潰しそうで下手なことは言えない
俺は笑って誤魔化すしかなかった




夕方になって昼間のような暑さも和らぎ、祭りに行くくらいの気力は出てきた
だが、カイルとジュリアンは先約があるらしく一緒に見て回るような奴がいなかった
エルリラもついさっき祭りに出かけたので部屋には俺一人だけが残されていた
今日は部屋でのんびり過ごそうかと思ったが、今のこの現状を考えると得策ではないような気がする
寮の人間は全員祭りに行ってしまっている為、一人で部屋にいると静か過ぎて切なくなりそうだ
今日のイベント系は特に見る予定もなかったけど寂しさと切なさには耐え切れない
俺は手早く外に出る準備をして部屋を出る事を決意する

「しっかし、本当に誰もいないな…」

寮の外に出て改めて建物の中に人がいないと再認識した
寮生だけいないのかと言えばそうでもなく
管理人のきつねや男爵の姿も見えなかった
本当に俺一人だったのか…

「はぁ〜…泥棒とか入らないよな…」

別に盗られるような物は置いてないのだが地味に不安になる
シーフの上級職であるローグは姿を消して移動が出来るという
今俺の横にローグが潜んでいても気がつかないだろう
同じシーフの上級職であるアサシンは泥棒なんて軽いような事はしないとは思うが結構不安だ
普段ならこんな事を考える事もないのだが今日は別
いつもならどこかしらで話し声が聞こえてくる場所なのに静かだという非日常的な風景がこんな考えを浮かばせる

「…ルアフ」

侵入者などいないと頭で解っていながらも何となくルアフを使ってしまう
青白い光が俺の周りをクルクルと回る
どこかに潜んでる者がいればルアフで炙り出されてくる筈だ
だが俺の見える範囲には何も無いし、誰もいなかった

「気にしすぎだよな」

俺は門をしっかり閉めると祭りの喧騒が響くプロンテラ中心部へと歩いていった