| カーテンの隙間から朝日が零れている カーテンを半分だけ開けて外を見るととても素晴らしい天気だった 日の出というものは負の力を浄化し、人々に生きる力と希望を与えてくれると言われている 聖職者が早朝に神に祈りを捧げるのはこの事からと言われている また、逆に日没時に捧げる祈りは『何事もなく朝日を拝めますように』との理由かららしい 「さて…確かアコライトになった時にロザリーを貰ったっけな…」 俺は今日のとある出来事の為に祈りを捧げようとしていた アコライトに転職した時に貰ったロザリーを首から提げ、正座をして神がいるといわれる方角を向く ゆっくりと目を閉じ、そしてゆっくりと祈りを捧げた 「…赤点でありませんように…」 第66話 早起き 最近朝の自主練をしていないせいか、朝食のギリギリまで寝ている事が多かった 色々な事があり過ぎてとてもそんな事をする余裕が無かった。そう言ってしまうのは言い訳かもしれない そのせいか学校に行くのもギリギリだった だが今日は違った 久しぶりに早く起きた為に授業が始まるまでまだ大分時間が残っている 忘れ物が無いかどうかの確認すら何回でも出来るくらいだ 「ん? エルリラか…早いな」 全ての準備を終えて外に出ると門の前でエルリラが立っていた 「私はいつもこの時間、カイゼルが遅いだけでしょ」 「まぁ事実なんだけど…」 そう言えば朝にエルリラと顔を合わせる事が少なかった しっかりしているのか、エルリラは毎日朝早くに起きて夜早く寝る いわゆる早寝早起きの生活を毎日続けていた 俺とは違って規則正しい生活だ 「で、誰かを待ってんのか?」 「アイラをね」 「仲良いんだな」 「あんた達3人組には敵わないけどね」 俺達3人組って… あぁ、カイルとジュリアンの事か 以前イズルートにいた時の話をした事を思い出した 俺達は付き合いも長いし自然とそういう風になっていったんだろう 仲が良いっていうのとはちょっと違う…言うのも恥ずかしいが絆ってやつだろう たまに思うのだが、俺達が3人集まれば何でも出来るんじゃないだろうかと思う時もあった 「あれ? そいえばアイラって昔からの知り合いか何かか?」 「ううん、入学してから知り合ったんだけど、どうかしたの?」 俺達がアイラと知り合ったのは、最初の実地訓練の時にエルリラがアイラをパーティーに招いてからだ てっきり昔馴染みだと思ったがどうやら違うらしい 「すいません、遅くなりました…」 適当に5分くらい雑談をしていると息を切らしながらアイラが走りよってくる 玄関から門までそれほど距離はないのだが、何故か息が荒い まぁ前衛に出て戦うタイプじゃないから体力は少ない方だと思うのだが、その少なさはどうなのよ 「じゃあ遅れないうちに行こうか」 今日は先日行われたテストの結果が発表される しかもクラスの前に張り出されるらしいのだ 早い時間に登校すれば何ら問題は無いと思う だが遅くに登校した場合、教室前が混雑していると予想される 少しでも早く学校に行くのが賢い選択だろう 「神様仏様!!」 「アンタ何教?」 エルリラが何か言っているようだが俺には聞こえない、聞こえない… すがるような気持ちで目を閉じて祈りを捧げる そしてゆっくりと目を開けて教室前の掲示板に視線を移動させる 購買部からのお知らせ…これじゃない 校内の美化に…これでもない 団体戦のお知らせ…でもない 前期テスト追試者…これだ! 「私は大丈夫みたいね、アイラは?」 「あ、私も…大丈夫みたいです…」 どこか余裕な表情のアイラとエルリラ 今は2人のその笑顔が胸に突き刺さるようで…不安が高まっていく ずーっと表記されている名前を目で追っていく …無い 俺の名前は書かれていなかった つまり 「っしゃあ! 追試は免れた! 遊べるぜ!!」 追試になると祭りの期間中は学園側に拘束される形となる 折角の大規模な祭りに参加出来ないのは何ともつらい事だが わざわざ教師の所まで行って勉強をした甲斐があったもんで追試は免れた 「後は終業式までゆっくり出来るね」 「…ゆっくりもしてられないさ、エルリラよ」 「なんでよ?」 「祭りだぞ祭り。暑い夜を更に熱くしてくれる催し物の数々 人波を掻き分けつつ空を見上げれば夜空に広がる大輪の花火 ゆっくりなんてしてられないだろう?」 「そう…かな? アイラはどう?」 「え? あ…私も…ちょっと…」 俺とは対照的に冷めた感じの女性陣 物の考え方がどうも違うようだ カイルとジュリアンもノリ的には俺と同じような所があるから付き合いやすい 何だかんだで祭りとか何かのイベントにはいっつも3人一緒で行ってたくらいだし 「そりゃあお祭りは楽しいと思うけど…何て言うんだろ カイゼルが言うみたいな熱さじゃなくて、楽しさとかどこか神秘的だとか、そんな感じ方が多いね」 そんな話を教室の外で話していた。廊下を歩いてる人が少ないから出来る事だ 下駄箱の時点でもそうだったが、廊下や教室に人があまりいない いつもギリギリに登校する俺にとっては新鮮な感じがした そうなると普段見えていなかったものが見えてくるようになる 掲示物だとか壁に掛けられている絵画だとか… 新たなものが見え始めると見慣れた校舎が違うものに見えてくる 早起きは三文の得とはよく言ったものだ |